75ネキ 美味いものの為なら是非もないよネ!
前回のあらすじ
「ぬっ!? アレはっ!」
「なに? 知っているのかライデソ!」
「うむ。 あの技こそは、古代日本においてあまりにも危険極まりない禁じ手として文献に記されていた禁断の技! 蛹が硬い殻を脱ぎ捨て大空に翔く蝶の如く、自身の衣を捨て去り身軽となり、防御を捨てたことにより、増した勢いに身を任せ負の流れすら投げ去る究極の投げ技! その名も
“負流鄭怒大廻天!!”」
ドオォォォーーン!!(背景に力強い効果音)
「お、己の生命すら顧みないなんて恐ろしい技だぜ……」
はい茶番終わり()
――――
『おおっーと!? やはり野郎共が例のおねーさんに飛び掛かったー! 危なーい! 怪我する前に場外へ逃げてー!』
そして。武器同士がぶつかり合う音や、鈍い打撃音が響き、先程まで騒がしかった観客席がしん……と静まり返る。
『野郎共怒涛の襲撃! 普段は協調性無いくせに女性1人に一致団結なんて大人気……おお! なんと、おねーさん、無事です!いつの間にかおっさん二人を捕まえて盾にしてます! なんて早業! 盾にされたオッサンはボコボコです! 瀕死です! おねーさん申し訳ないですがその2人は外に投げ捨ててください! 失格扱いになりますので直ぐに救護が向かいます!』
あ、そうなの? 服が汚れるからそれが嫌で適当に良さそうな奴の首根っこ掴んで盾にしたんで、そんままの勢いで結構刺されたり切られたり叩かれたりとか、かなりバイオレンスなことされてたからヤバいかなーとか思ってたけど、そういや魔法で治るんだわな。 あ、それ、ぽーい。
『ありがとうございます! それでは引き続き頑張ってください! 私はむさい野郎共よりおねーさん応援してます!』
おー、ありがとうな実況のおねーさん。 ……さて。 さすがにそろそろ俺でも理解してきたぞ。
アレだ、俺は並ぶ所間違って出場してたわけだな。 観戦じゃないと分かったし、参加とか面倒臭いから帰ろーかな……
コレよくあるフィールドから降りたら失格の奴でしょ? 全員ではないけど複数に仕返ししたら溜飲下がったしやーめよ。
そう考えてタマがくるりと振り返り石畳を降りようとした瞬間、
「なんだ? 威勢が良かったのは最初だけかよ。 この数にしょんべんチビって下着取り替えに行こうとしてんのか?」
『おおっーと!? おねーさんがいきなり背中を向けて退場しようとした瞬間野郎共の誰かがここぞとばかりにおねーさんを煽り返したー! 誰が言ったのかまでは特定できませんが所々に設置されている魔道具により集音はバッチリです! 些細な会話も逃さず観客席に届けまーす!』
今、降りようとしたタマだが、ピタリ、と止まり降りるのを止めて振り返る。
「……あぁ? 今、面白ぇ冗談かましたのは誰だぁ? おねーさん怒らないから出てきなさい。拳骨一発で許しちゃるから」
若干顔に影を落とすも、にこやかにするこいこいとジェスチャーをするタマと距離を取って襲撃の機会を窺う男共はタマの質問に一切答える素振りはない。
「……よーし。ならば連帯責任ということで合意と見て宜しいかな? 宜しいわ。かかってこいやなんて言わねえ俺から出向いてやらぁな!」
宣言と同時に野郎共の群れに突撃するタマ。勿論手厚い歓迎があるがそんなことはお構い無し。 片手に1人ずつオッサンの足を強引に掴みに行き、寄ってたかる者共に叩きつけて場外へとぶっ飛ばしていく。 足が折れるなどしてヘタって武器が劣化すれば気持ち強めに野郎共にぶち投げ、それに怯めば強引に足を掴まれ武器として振り回される。
丸太という強力無比な武器が無くとも、オッサンソードという素晴らしい武器があるではないか! しかも取り替え簡単、ワンタッチですよ奥さん。簡単でしょ?
『は、始まりました! 乱闘です! 大乱闘です! ですが今回の選抜予選はいつもと違い過ぎます! バトルロイヤルではなく謎の激強おねーさんVS野郎共の軍団です! しかも、しかも! 強い! おねーさんがとてつもなく強ーい! 見てください! 観客席の野郎共御婦人方! 屈強な野郎共が木の葉です! 塵紙のように舞っていますー! これぞ正にちぎっては投げ、ちぎっては投げというものなんでしょうか! アイダホ腕自慢大会予選において初めての珍事です! 私も大変興奮してます! 野郎共がどんどんと減っていくぅ〜!』
1人掴んで折れてはぽいー。 ふーたりつかんで折れてはぽいー。
棄権なんて全員ぶちのめしてからでも良かったなコレ。
たまには暴れて運動も悪くねえな? え? 野蛮?
俺が野蛮なんて今更ですしお寿司。
何処の世界でもなァ、うられた喧嘩は買って差し上げるんだよ!
売買することによって流通が増す! そして経済が活溌に!
詰まるところ好景気だ!(まさに暴論)
最初の威勢はどこへやら、逃げ惑う者、ヤバいと思い自主退場する賢い者、果敢? 否、蛮勇にもタマに挑んで宙を舞う者。
夏草や、オジサン共が、夢の跡。
まぁ後は特にこれといったこともなく順次駆逐され、石畳の上に立っているのはタマだけとなった。
『ぜ、前代未聞ーッ! 残りました! おねーさん残りましたー! そしてつよーい! 屈強な野郎共がまるで子供扱いのパワーだーッ! これは本戦面白いことになるぞー!?』
熱狂的歓声の下、取り敢えずギャラリーに対して感謝で応えておく。 いやー。どーもどーも。
「本戦出場おめでとうございます! お名前と意気込み聞かせてもらってもいいですか!?」
先程まで実況席にて実況していたアンジュが併設されている転移陣に乗り、フィールド近くに繋げてある陣から出現してタマのもとへと駆け寄り、直接インタビューを試みる。
「ん? 名前はタマっつーちょいと人よりでけぇ変な女さ。……意気込みは、まぁ本当は観戦したくて此処に来たんだが並ぶ所間違っ今立ってるって感じだな、だから本戦とか参加する気ないし悪いが他を当たってくれ」
「え? 勝ち残ったのに出場しないんですか? 賞金とか賞品の雷激鉱とか今回魔王様の方から品もりもりですよ?」
別にお金とか賞品とか要らな……ん? 今雷激鉱って言ったの?
「今……雷激鉱って言った?」
「あ、はい。言いましたけども……」
「やる」
「はい?」
「気が変わった。参加する」
「あ、ありがとうございます」
雷激鉱って言ったらアレじゃん。 ガンテツがちょっとだけ持ってた、食べるとパチパチしてシュワシュワする奴。
わた○チじゃん。 めっちゃ美味かったなアレ。(とんでもなく怒られたけど)
『それではみなさん、期待の新星パワフルレディ、タマさんに拍手をー!』
そして会場が拍手に包まれ、タマの出場が決定した。
そんな動機(食欲)で良いのかタマよ。
勿論、アンジュのこの何気無い一言が歴史を変えていたことは、神のみぞ知ることである。




