71 ネキ またまた当然の如く割り込むオマケ回
前回のあらすじ
筋肉を愛し、筋肉に溺れ、筋肉と一体化せよ。
汝、左の胸筋を叩かれたなら、右の胸筋で弾き返すべし。
――――
所変わりいつものシンシア大陸、鉱山都市ヴィシソワーズ。
時間の差とか向こうと連動してるわけではないのであんまり気にしてはいけない。
そしてガンテツの工房。
例の魔物2人は─
ガッツリ馴染んでいた。
アルドの方は紅茶を啜りながら読書を楽しみ、ぎーとの方は。
「あ〜、涼しい空気出るこの魔道具さいこー。オイラもう火山に戻るのダルいわ」
飼い猫、もとい飼い蟹に堕落しきっていた。
「お主、野生の誇りとか無いの?」
「おめーもオイラのこと言えないだろーよ〜アルド」
「人里というのは日々に飽きない良い所だな。150年も寝ずに、書物でも読めと昔の我に教えてやりたい所だ」
「オイラはそういうのめんどくさいんでいいや」
「毎日のんべんだらりとしておるからな」
「おーい! ぎーとやーい! ちと、この鉱石運ぶの手伝ってくれんかー!?」
いつの間にか改造されたぎーと用の畳スペースで寝そべってゴロゴロとしているぎーとに、ガンテツから手伝いの要請が掛かる。
「へーへー。待ってろガンテツのおっさん、今俺達寄越してやるから」
寝そべったまま、腕をサッと振り、首に掛けてある笛をピピーッと鳴らす。
すると、すぐ横に置いてあるぎーとのリュックから軍服姿のデフォルメされた(約30cm)ぎーとの軍団が足並み揃え靴音高らかにザッザッザッと行進して、ぎーと(大)の下でピタリと行進を止めた。
「工兵班、ガンテツのおっさんの手助けをせよ」
未だ寝そべるぎーとの司令にチビぎーと一同は一糸乱れぬ敬礼で答え、目標のガンテツの工房へと行進していく。
「ささ、ゴロゴロ続けよ」
「お主、分体多くて便利だの……」
「んー? 分体って言っても向こうの情報は指揮官級から伝わるし〜あいつらは俺だけど〜多少の自我は有るし〜同個体だけど別個体でもあるかんな。その方が情報処理楽なんだよ。ま、違う人格の俺がたくさん居るようなもんさ。絶対的な裁量権はオイラだけど」
「そのトップがこの様ではなぁ……」
「オイラは統括する役目があるからコレでい〜の〜」
会話の最中、店のドアに付いているベルがチリンチリンと、鳴り、客が工房に訪れた。
「アルドちゃーん! 私の代わりに店番お願いしちゃってもいいかしらー?」
「うむ。 任されよシトリ殿、細工に忙しく手が離せないのだろう?」
「ごめんねー! 今途中で止められない作業なのー!」
「住まわせてもらっているのだ、これくらい何でもない……さて、可愛らしいお嬢さん、聞こえていた通り私がシトリ殿の代理だ。本日はどのような物をお求めかな?」
シトリのお願いを聞き、手早く飲み物を片付け、カウンターに向かい丁寧に客の対応をするアルド。
「あ、はい。えっと……友達の誕生日にアクセサリーを買いに来たんですけど、大銀貨3枚で買える物って、ありますか……?」
「あるとも。此処、ガンテツ殿の工房にはそれこそ目が飛び出るような品から銅貨1枚の髪留めまで何でも置いてるとも。さて、友に贈る品と言ったな、ならコレが良いのではなかろうか?」
アルドはガラスケースに陳列されている品の中から、1つ、対になっている渦巻く風をイメージして作られたイヤリングをドワーフの少女にそっと優しく渡す。
「この “渦風のイヤリング” は、対になってはいるが、1つでも十分に身体を軽くして素早さを上げてくれる代物だ。片方は君に、もう片方はその友に贈るといい。友とのお揃いは嬉しいものだぞ?」
「あっ、綺麗……でっ、でも……大銀貨5枚の札が貼ってあります……」
「そうであるな。君は3枚が手持ちだと言った。だからこの品は3枚で良いのだ。 なーに、思う所があるなら、今度はその友と此処に買い物に来てくれ。その方が却って儲かるからね!」
指で輪っかを作り、舌を出しながらおどけてみせる。
その体躯に似合わぬ素振りに少女はクスリ、と笑い
「ありがとうございます……今度は友達も連れてきますね」
「うむ。お嬢さんよ、“損して得取れ” とはこういうことだ。またの来店、楽しみにしている」
立派なカイザー髭を触りつつ、綺麗な白い歯を見せてニッカリと決め親指を立てる。
「はい。今日はありがとうございました。また来ます!」
嬉しそうに手を振り、綺麗に包装されたイヤリングを大事そうに抱えて、少女は店を後にする。 そしてまたチリンチリン、と店を出たのを確認した後、
「……どうだね? 完璧な店番であろう?」
「……おめー勝手に値引きして大丈夫なのかよ?」
「勿論、問題な「アールードちゃーん! 今の聞いてたわよー! ヤダもうとってもカッコイイじゃないの! 今の子もきっとアルドちゃんの魅力にメロメロよー!」
作業の山を越えたシトリが奥から走って登場。そして跳躍、捻りを加えながらアルドの肩にパイルダーオン!
そしてすかさず転がっているぎーとが10点の看板を出す。
「やーんもうおばさん聞いてるだけでキュンキュン来ちゃったわー! アルドちゃんカッコイイし本当にできる子よねー!」
肩車状態でアルドのオールバックに決めてある髪を残像の見える速度で褒めて撫でくり回すシトリ。
「シトリさんあんまし撫でるとアルドハゲるぞー」
「そう思ってるなら止めてくれぎーとよ……」
「やーん可愛い可愛い!」
「オイラは横になるので忙しいんで諦めろ」
「まぁ、そうであろうとは思ったが」
そして再び、来客のベルが鳴り今度は冒険者の男が来た。
「ちわーす! ガンテツさーん 武器直してく……うおっ!? アルド、お前どうした? その頭と乗ってるシトリさん」
「ようこそガンテツ殿の工房へ。 まぁ、見ての通りシトリ殿の癖が出ただけなので気にするな。して、武器の修理とな? それならばぎーとに渡すがよい、既に貴殿の足下に小さいのが居るだろう」
「ん? お、すまんな。コレをガンテツさんに見せてくれ」
冒険者の男はそう言うと、背負っている大剣を小さいぎーとたちに渡す。早速剣を受け取ったぎーとたちは複数人で頭上に担いで工房の奥へと運び込んでいった。
「……おっさんが言うには2日あれば直るってよ。「随分派手に折ったもんじゃわい」とも言ってたぞ」
「お、伝言ありがとうよ、ぎーとちゃん。今日も可愛いね」
「そりゃおめーオイラは此処のマスコットなんだから可愛くて当たり前よぉ。代金は直った時に払いに来いってさ」
「いーやーさすがガンテツさんだよな! もうあの折れ具合じゃ無理だと思ってたが、2日でとは世界一の名工なんて言われるだけあるよな〜。じゃ、2日後、取りに来るんで宜しく!」
「おーう。あじゃじゃしたー」
アルドとぎーとが工房に来てからはアルドが女性に受け、ぎーとが男性に受け、元から客は少ない方ではなかったが更に客足が増えて繁盛していた。
シトリが主に店番をしていたが、アルドが肩代りすることによりアクセサリー製作が捗り、ガンテツは物品をぎーとが運んできてくれるので面倒な往来をしなくて済み、かなり有難いらしい。
そして客足も遠のく夕方。
チリン、チリンと来客のベルかと思えば、それは違う者たちの来訪であった。
「ただいま」
「あら、おかえり。カイヤナ。学校どうだった?」
「うん。ダイチがね、ガッコまでおむかえてくれてね、みんなにダイチのじまんできた!」
「よかったわね〜カイヤナ。今からダイチちゃんに首輪付けとくのよ?」
「拙者カイヤナ殿に飼われるなら本望でござるゾ〜」
ダイチに手を引かれながら、ガンテツとシトリの娘、カイヤナが帰宅する。 そしてダイチの目尻がヤバい。
溶けて落ちそうなほどニヤニヤしている。
「ほーん……こんな小さな子に首輪掛けられて満足するんだぁ……? ダイチ? じゃあ私は、その首を足のつかない木に括ってあげようかしら?」
「じゃあリーフはそれで。私はダイチ “ に” 首輪付けてもらって散歩させてもらうね?」
「シトリさん! ただいにゃ〜!」
冠位級の紳士、ダイチ御一行が工房に訪れる。




