70ネキ GORILLA The ナイトウォーカー (夜警)
前回のあらすじ
バカ騒いで飲むのも好きだが、いい酒を静かにちびりちびりやるのも大好き。
麦ばっかだと思ってたらオサレなカクテルもあんじゃねーかよ。
……あの店はまた行く価値アリだな。
――――
美味しいお酒も飲めたし帰りの夜道を気分良く通りを歩いていたタマ。
まぁ、街灯なんてあるわけないから店の灯とか届かないところはやっぱり暗いんだよね。
多少暗くても良く見えるお目目なんで俺には関係ねぇが。
そんな宿への帰り道、カンテラを掲げた鎧騎士の集団とすれ違う。
「夜回りでもしてんのか? ご苦労さん」
「こんばんは。 治安を守るのも我々の仕事ですからね。 お嬢さんは冒険者の方で? この時間帯に女性1人では冒険者と言えど危険ですよ」
「生憎俺はそこら辺の野郎より身長があるかんな。心配は有り難いけど俺を襲う物好きなんていねぇ……「おお! 美しい! なんと美しい女性だ!」
突如騎士の隊列から一際身長の大きい鎧騎士が出てくる。
いや、ゴリラかコレ? あ人だわ。
金髪イケメンなのに肩幅広々で俺並か、それ以上の身長。一言で纏めるとイケメン爽やかゴリラが出てきよった。
「団長!?」
「一見他人より頭一つ大きく見える身長! しかし! 手足は無駄に太くなく、完璧なスタイルバランス、だが、彼女の本当の素晴らしさはそこではない! 筋肉! 筋肉の付き方が神がかっているぅ! おお、麗しいお嬢さん、どうかご無礼を承知で申し上げます。貴女のお腹を触らせてはいただけないでしょうか!」
「団長ぉぉぉ!? なにいきなり騎士として有るまじきこと言ってるんですか!?」
「ええいタルティよ! 此処に至高の筋肉があるのだ、天秤に掛けうるまでもない!」
「駄目だ! 団長のいつもの筋肉行動が出たぞ! 皆総出で隊長を押さえ込めー!」
「フゥハハハ! 諸君らの筋肉量では私を押さえつけることなど実に! 実に荒唐無稽!」
なーんだコイツら。 イキナリ爽やかゴリラが出てきよったと思ったらコントが始まって大乱闘になってるやんけ。
治安維持どうしたよ?
「お嬢さん! 此処は我らが押さえているあいだにどうかお逃げくださ、グワーッ!」
「フハハハ! 貧弱、貧弱ゥ!」
「……いや、俺は別に構いやしねぇけどよ……」
タマの言葉に、先程の爽やかゴリラが騎士たちとの乱闘を止め、ピタリと止まる。
「おお……なんと海より深き懐……このアイダホ騎士団第二団長ローズ、感涙の極みでございます……」
乱闘止めたと思ったら、今度は俺の前で神速の土下座とか忙しいな此奴……
「お嬢さん!?」
「いやまぁ、一連の流れから見て、お前らの隊長は我慢ができねぇほどなんだろ? じゃあ俺が腹くらいなら触らしゃ事が落ち着くんだろ?」
「すみません、すみません。我ら騎士団とあろうものが……」
「んで、そこに居るゴリ……間違った。ローズさんだっけ? いつまでも土下座してないで早うせい」
「おお……おお……やはり至高の筋肉を持つ方はなんと偉大な……では、僭越ながら……むっ!? この形、張り、密度、鍛えられ方! まさしく、これぞ私が追求して止まない鋼が如き筋肉ぅぅぅぅ!」
俺の腹触ったと思えば今度は祈るようなポーズで涙流しながら固まってら。スゲー忙しいゴリラ……人やな。
「「「ありがとうございます! そしてすみませんでしたぁ!」」」
今度は部下の騎士たちが一斉に土下座とか展開急すぎひん?
「で、取り敢えずは静かになったんで俺に分かるように説明してくれるか? 後土下座もやめてね」
タルティと呼ばれていた騎士が土下座から体勢を直し、他の騎士たちもそれに続く。
「あ、はい。先程お嬢さんの腹を触らせてくれ、と暴れた御仁は我ら第二騎士団の長、“鎧砕” ローズ団長にございます」
「うん、知らん。何分田舎モンなんでなそのまま続けてくれ」
「はい。ローズ団長は非の打ち所のないほど優秀な方なんですが……が! 自身の鍛錬のし過ぎでいつしか
「筋肉は裏切らない! さぁ、皆も身体を鍛えるのだ!」
……と、筋肉鍛錬教というものに倒錯してまして……筋肉のこととなると暴走するんですよ……騎士として皆の模範と成るべきなのであり、我らがいつも止めようとするのですが如何せんご覧いただいたように団長がやたら強くて……」
「はぁ……別に俺とかそうでもないとおもうんだがね」
自身の服をめくり、適度に締まったプリチーぽんぽんをペちペちと叩く。
うーん、鏡が欲しい。胸で腹がよう見えん。触る感じバッキバキではないとはおもうんだがねぇ。
「お、おお……筋肉の神よ! 今この瞬間私は至高の筋肉に巡り逢えました……」
「お嬢さん! 女性が易々と肌を見せるべきではありません!」
「お嬢さんじゃなくて俺はタマっつー名前があんだよ。お嬢さんは歯痒いからやめろ」
「申し訳ありません、タマ様。珍妙な団長を見せてしまって。普段はここまで暴走しないんですが……」
「いや、気にしなさんな、マリーさんっていう似たような暴走の仕方する友達が居るんで慣れてるわ」
「む!? 今、今マリーと言いましたかタマ殿!」
「うおっ!? そうだよ。俺はフカシっていう街から来たんだよ」
がぶり寄ってくるなよ! 迫力あり過ぎじゃ!
「マリーは私の妹です。フカシの街から来たなら間違いないでしょう!」
「あ。 あー……そういや兄と姉が居るって言ってた気がする……」
妹のキャラも凄かったけど兄もすんげー濃ゆいなぁ……
「なんという偶然! やはり私の妹は人を見る目が有る!」
「団長! 感涙するのは良いですけど我等は夜の巡回の途中ですよ。早く仕事に戻りましょう?」
「おお! そういえばそうだった! ではタマ殿、今宵は私にとって信仰が報われました! つきましては是非お付き合いのほどを……ぬおぉっ!?」
何処からか出した薔薇の花束を手にローズがタマに跪き、プロポーズをかましてくる。
「いい加減にしろぉ! この馬鹿!」
タルティの助走をつけたドロップキックが炸裂して、ローズが吹っ飛んだ。
「すみませんすみません! タマ様! どうかアイダホ騎士団をこのゴリラのせいで誤解しないでください! 普段は本当にちゃんとしてるんです! ほら、もう行きますよ団長! どうせ効いてないんでしょう!」
腰が折れんばかりに頭を下げるタルティ。そして何事も無かったかのように戻ってくるローズ。
「ハーハハ! 鍛えてるからな! これしきでは何ともないさ」
「ああハイそうでしょうね。ではタマ様、本当にご迷惑をお掛けしました……至らぬ所があれば後日我ら騎士団のところに来ていただければ改めて謝罪いたしますので……」
「お、おう……別に俺は酒飲んだ帰りに面白い奴に絡まれただけだから……じゃあ帰るけど夜回り頑張ってくれよ」
「ありがとうございます……ウチのゴリラが迷惑掛けました……」
「それでは麗しのタマ殿! ご縁が有ればまた逢いましょうぞ!」
「もう迷惑掛けずに早よあるけゴリラ!」
タルティにどつかれながらローズと名乗るゴリラはカンテラ片手に街の闇へと消えていく。
「おーう。お前とはまた絶対に出くわすだろうなぁ、マリーさんの兄だし……」
姉も居るってマリーさん言ってたな。
……居るよな?
居るだろうなぁ……
そんで超絶キャラ濃ゆいだろうなぁ……多分血だなあのキャラの濃ゆさは。
どうか、どうか出逢いませんように……




