62ネキ あの人が無事なら
前回のあらすじ
ボッシュート。 残機マイナス1?
いいえ。 落下地点から開始してください(クソゲー)
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「……僕用とか言ってたけど? 奴が落ちた穴」
「ええはい。予定としましてはダンジョンのチェックを宜しくお願いします、と頼んだところに落ちていただこうと画策して設置しました」
「……竹槍とか設置してないよね?」
「まぁ、あまりマスターのおしりを虐めては可哀想ですし、竹槍の代わりとは言ってもなんですが、落ちた後登れないように壁にはたっぷりとぺ○ローションが塗布してあります」
「DPの計算おかしいなーと思ってたら○ぺローションに使ってたのかよ!?」
「業務用の4リットルサイズはお得ですよ?」
「そんなに使わねーから! そのことについては後で言及するとして、今のうちに転移で逃げるぞ! 僕は破裂したくない!」
「あ、転移陣なら最初の地震と先程の対象の震脚がトドメになってダンジョン内の転移陣、全て故障しました」
「はぁ!?」
「転移陣は例えるなら精密な時計のような代物ですからね。ネジ1本緩んでも動かなくなります。まぁ恐らく地形が変動したので回路が切れたのでしょう……現在稼働させている緊急設備以外は死んでると仮定しても過大表現ではないかと」
「え、じゃあ、この部屋から出て出口の陣に乗っても?」
「当然、起動しません。陣まで徒歩で向かい、チューニングし直す必要が有ります。
……が。 先程から部屋が震動しているのはご存知ですね?」
「うん。敢えて無視してたけどやっぱりコレって……」
ロッジとカマリエラが会話している間、小さく ドォン……ドォン……と破砕音らしき音と同時に、定期的な震動が起こっていた。
「はい。ソナーマップにて投映されている対象の位置をご覧ください。進行方向的に間もなくボスルームに到達します。察するにこの震動は対象が横穴を開けて掘り進んでいる音かと」
「爆発しながら掘ってんのか? 速度が速すぎるぞ……」
カマリエラの推測通り、タマは先ず4方向に熱線を打ち込み、空気が流れてきた方向の壁にヤクザ蹴りを放つ方法で堀(蹴り)進んでいた。
─壁を蹴り砕いては進み、遂には広間、ボスルームまで辿り着つく。
周囲を見回す彼女だが、現在空腹だ。
怒り、燃費度外視で熱線を放ち、空腹を誤魔化すために更に怒って熱線を放つという悪循環によって、ボルテージが高められている。
ゆっくりと、何かを探すように周囲を見回す。何かに気付いてその方向を見ていると─
しばらくして、闇の中からカマリエラが、コツ……コツ……と、現れ、タマに向かって対峙した後、優雅にお辞儀をした。
「ようこそお越しくださいました、私の名前はカマリエラと申します。もし、貴女様が宜しいのなら、お名前をお伺いしても?」
前傾姿勢で、謎の暗闇により目と口しか見えなかった顔に、光が届き、いつものタマの顔が確認できる。だが依然としてその目つきは鋭く、怒りの感情は収まっていない。
「タマだ。お前ェが……此処の一番偉い奴か?」
目を細め値踏みするようにタマはカマリエラを見つめ、問を投げかけた。
「如何にも。この私、自動人形のカマリエラがこのゴーレムダンジョンの長にございます。
……ここまで数々の関門を用意しましたが、どれもお気に召しませんでしたようで大変申し訳なく存じ上げます、タマ様」
─怖い。
文字どおり血も、涙も無い機械の身体の私。
遂この間まで物言わぬ鉄屑だった私。
どういう因果が解らないけど、心を手に入れた。
─否。 心を貰った。
そして今、私の中に湧き出る感情。 それは、恐怖。
─ああ、これが怖いという物なのですね。
ただ、そこに居るだけなのに、押し潰されそうな重圧。
初見で覚えた違和感は確信に変わる。
あの人は絶対の捕食者、私はご馳走。 ただの人がまかり間違っても龍に勝てるのが想像できないような、迫力。
直ぐにでも地面に顔を付けて命乞いをすれば助かるかも知れない。勿論それで助かるなら五体投地もなんでもいたしましょう。
─嫌だ。 あの人がいる。
ここまでの道中で相手との差は解っているつもりだ。
……なるべく抗って溜飲を下げてもらい、私が機能停止した後、停止に連動して1度だけ強制稼働する転移陣で帰ってくれれば、それ以上嬉しいことは無い。
─嫌だ。 まだまだ壊れたくない。
─もっと一緒に居たい。 馬鹿なこと、なんでもないようなこと。
─それが私にとっての幸せ。造ってもらった私の意味。
─死にたくない。 嫌だ。
でも。
─あの人が死ぬのは、もっと嫌。
─大丈夫。
私が壊れても、代わりは造られるもの。
「では、この名も無いゴーレムダンジョンのボスにして、コア。カマリエラ、推してまいります」
カマリエラの無い優雅なお辞儀の後、両手首が可変して、カシャリと刃渡り1mほどの刃が姿を現す。
それからお互い睨み合った後、カマリエラが仕掛けた。
ゆらりと揺れ、消えるかの如くタマに踏み込み、首めがけて一刀。
一刀と表現はしたが、実際は二刀を交差して鋏の如き斬撃である。
一瞬の出来事の後に、スタ。 とタマの背後に着地、そして自身の腕を見て─驚愕。
先程まであった腕の肘から先が消失していた。
腕の断面は尋常ならざる刃物で切断されたかのように。
「私の身体はオリハルコンでできているのですが……これは」
「ああ、そりゃ道理で美味い訳だ」
斬撃受けたはずのタマがゆっくりと振り返り、カマリエラに返事を返す。彼女の首は傷の一つも無く無傷。そして咥えていたのはカマリエラの肘から先の2本。 その腕は紙が断裁機に吸い込まれるように咀嚼され、あっという間に彼女の腹に収まった。
「……私にはその味は解りかねますが、お気に召したのならデザートにこれもいかがでしょうか?」
カマリエラの言葉と同時に彼女の背面に2本の棒が服を突き破ってガシャコ! と出現。
「今、私の身体の制御バルブを解除しました。これより後、過剰負荷による暴走で多大な熱反応を起こします。……芸に乏しく、自爆という形に成りましたが、もう少しだけ付き合っていただけると幸いです。貴方が耐えた後はこの奥から外に出られますので御安心を」
自爆シーケンスに入るカマリエラを見て、ふと何かを思ったタマが問う。
「お前は、それで、良いのか?」
「はい。私はこれで良いのです」
自爆間際にして、穏やかに微笑むカマリエラ。
その様子を見て、ざわめいていた髪も、歪んでいた空気も、ふっと一瞬で霧散し、溜息を吐きながら。
「ア ホ く さ。やってらんね、はいそれ中止。雨天により中止」
「え? 何、を……おぐぅ!?」
タマはカマリエラに近寄り、彼女を抱えて、おもむろに背中の制御棒を
強引に 押し戻した。
戻す際に若干嫌な音が鳴ったが、目論見どおり爆発が止まったので良しとしよう。
「そんな……馬鹿なこと……が」
ガクリ、とタマに体を預けるようにブラックアウトするカマリエラ。タマはそのまま彼女を肩に担ぎ、ボス部屋の壁を軽くノックして回る。
こぉーーーん……
こぉーーーん……
こぉーーーん……
こぉーーーーーん……
「ここだな」
そして壁など無かったかのように蹴り砕き、隠し部屋へと進む。
─其処には、猿ぐつわに簀巻きのロッジが転がってモガモガと唸っていた。
タマはロッジの轡と簀巻きを解き、ヤンキー座りをしてロッジに顔を近づけ、有無を言わさぬ態度で彼に喋りかける。
「おう、おめぇが本当の主だな? とりあえず風呂ォ貸せや。風呂から上がってくる前にお前の部下もきちんと治しとけな? でなかったら、ちんこもぐからな。此処で」
あまりの迫力にロッジは無言で頷く以外方法は─無かった。




