53ネキ ナンバリングにガッツリ食い込む茶番とおまけ
前回のあらすじと全く関係ないあらすじ
魔王軍幹部オト・カーブリの能力により聖剣「ヤーキーモ」を使用不能にされピンチへと陥ってしまった勇者お芋!
魔王軍によって滅ぼされた廃墟にて戦いの幕が今、切って落とされた!
急襲され能力で剣を封じられても、何とか騙し騙し戦えてはいたが、やはりヤーキーモを使えず徐々に押されて行ってしまう!
「……フン。やはり聖剣がなくば貴様は凡夫よな! お芋ぉ!」
「くっ、やはり何度鞘から抜こうとしても駄目だ! このままでは……」
「無駄だ。我が能力〈禁止ルール〉によりお前が死ぬか俺が死ぬまでは鞘から抜くことは叶わん! ゴージを討ったと聞いていたがとんだ期待外れよ! ぬん! ぬんぬんぬんぬんぬぅーん!」
カーブリの両の手のひらから機銃が如く魔法弾が放たれ、捌ききれぬと判断した芋は物陰に身を隠して逆転の案が何かないかと思考を巡らせる。
「ふはは! 我が魔弾機銃の圧に押されて物陰に逃げたか! ……まぁ良い。じっくりと炙り出してやろう」
「クソっ、この先にはゴミ置き場と地下室しか……ん? 地下室? ……そうか! 確かここの地下室には!」
「そらそらそらそら! どうした芋よ! もうこの角を曲がれば貴様は袋小路だぞ。……さぁ! いざ蜂の巣に! ……ん? 居ない。だと?」
途切れること無く魔弾を撃ち続け、遂に袋小路に芋を追い詰めたカーブリであったが、そこに芋の姿はなく、在るのはゴミ山と、開いたままの地下室へ行く扉であった。
「……フン。逃げる所に困窮して自ら袋の鼠になったか、そろそろ鬼ごっこにも飽きてきたところだ。何か策あっての地下室だろうが……全て蜂の巣にしてやろう」
コツ、コツ……とゆっくりと芋を探しながら地下室に降りたカーブリ。
物音1つ逃さんと警戒し奥に進むが、芋の姿が一向に見えず、徐々に苛つきの色が見え始める。
「……フゥー。……もういい! 俺はお前を大分買い被っていたみたいだ……勇者たるものが追い込まれ息を潜めここまで怯えるとは。
……では……死ねっ!」
呆れから一転、猛烈に激昂したカーブリは猛烈な勢いで魔弾を乱射し始めた。
先程芋を追い詰めていた弾幕が、今までは遊びだったと言わんばかりの威力と量で撃ち出され倉庫に置いてあった円筒状の物体を次々に貫通し中から気体がシューシューと漏れ出す。
「……おかしい。これだけ放てば奴の悲鳴の1つは聞こえるであろうが……居ない?」
そして、突如カーブリの背後、地下室の入口から芋の声が響く。
「そう、俺はそこには居ない。そしてお前の負けさ、カーブリ。お前が撃ち抜いたその缶から漏れる音。なんの音か分かるかい?」
「芋! 貴様いつの間に出たと言うのだ!? ……音? まさか! これはッ……水素の音ぉ! 貴様、この我に一杯食わした─
「チェックメイト」
芋の言葉と同時に火種が打ち込まれ、扉が閉まる。
次の瞬間 。
引火した気体が爆発し爆発が無事な缶を砕き、更に爆発が爆発を呼び連鎖を起こし、しっかりとロックを掛けた扉が爆圧に負け、天高く打ち上がる。
「ぐゥおおおおお! 見事だ芋よォォォォ! サヨナラ!」
カーブリは爆破の連鎖に耐え切れず、粉微塵になってしまった。
暫くの後、爆発が止み、お芋は剣の柄を握り抜こうと試みる。
「つッ! ……剣が、抜ける。……上手く倒せたか……ふぅ、ゴミ山にイチかバチかで隠れてみたけど、奴がゴミ山を撃たずに開けた扉にそのまま行ってくれて助かった……間一髪だな。
たまたま廃棄された水素水の地下倉庫がなければ死んでいたのは僕の方だった……カーブリ。君はとんでもない強敵だったよ。君のおかげで僕は自分の弱点を知ることができた。ありがとう」
カーブリの激闘から休む間もなくフラフラと廃墟を後にする勇者お芋。
その姿を廃墟の一番高い建物の上から見つめる少女の影が1つ。
「見つけた。……僕の兄さんの、仇……!」
次回 勇者お芋伝説
「彼女の名は、ダーツジ」
来週も また見てくれよな!
――――おまけという名の本編――――
ダンジョンから急いで帰還し、街を駆け抜け、とんでもない気配がするとガンテツの工房に向かうダイチ一行。
リーフたち3人に、何かあれば後からの援護を頼み1人、先行して気配の元を確かめることにした。そして、工房のドアが少々乱暴に開かれ、ダイチが叫ぶ。
「ガンテツ氏、シトリさん! 無事でござるか! って……うぉぉぉぉぉぉ!? 何でござるかこの光景はぁぁぁ!」
ダイチの顔が、驚愕に染まる。
「どうしたのダイチ!? 敵!? ……え?」
「……お客さん来てるだけ?」
「にゃ〜?」
リーフたち3人もやや遅れて駆けつけた。そして、目の前の状況がよく分からずに混乱する。
「お、ぉぉ…… 尊い……」
信徒が神に礼拝するような動作で、ダイチは目の前の状況に祈りを捧げ始めた。
そのダイチの前には、特に何事も無かったかのように平然とするシトリと、シトリに膝枕されてゴロゴロと喉を鳴らしながら気持ち良さそうに目を閉じているリュック幼女のぎーと。
(勿論リュックは横に下ろしている)
そして少し離れた客用の席で葉巻を御満悦で吹かす煙の似合い過ぎる漢、アルド。
ダイチの言うヤバい気配というのは、その2人(匹だが人化時は人と呼称しよう)だったようだ。
「あら〜? どしたのダイチちゃん。 ダンジョン行くって言ってなかった?」
「あの……シトリさん、その膝に寝てる子とあちらの位の高そうなおじ様は?」
未だに手を合わせ涙を流しながら祈っているダイチを置いといて、リーフがシトリに尋ねる。
それと同時に、ダイチたちが来たのを察したガンテツが作業を一時中断し、工房の奥からのそりと出てきた。
「あーもーお前らは静かに来るということができんのかいな」
「あ、ガンテツさんこんにちは。えーと……その、ダイチが急にここからヤバい気配がするとかなんとか言って私たち急いで帰ってきたんですけど……お客さんしか来てないですよね」
「ヤバい気配? ……あーあーあー。分かった。意味が分かった。
そこの嬢ちゃんとおっさんのことじゃろ。ダイチの言うヤバいとは」
「……え? お客さん2人?」
ガンテツとリーフが話をしていると、ナハトは煙を楽しんでいるおじ様に近寄っていく。
「……こんにちは」
「んむ? こんにちは。だ、お嬢さん」
「……前、座っていいですか」
「我は構わないがお嬢さんにはちと煙がキツいのではないか?」
「へーき」
「そうか」
「ちょ、ナハト! あんた何やってんの!?」
「え? だってこのおじ様から強者のオーラが出てるから……あやかりに?」
「すみませんすみません! いきなり失礼なことを、ほんとすみません!」
「我は何かされた訳ではないので、謝る必要は無いぞエルフのお嬢さん」
「あ、ありがとうございます……えっと……」
「我の名はアルドだ。して、此方の夜人族のお嬢さんと獣人のお嬢さん、そしてエルフのお嬢さん、名前を伺ってもよいかな?」
吹かしていた葉巻の火を消し、アルドと名乗る男がリーフの方に向きを座り直す。
「あ、はい。えっと……そこの夜人族の子がナハト、私がリーフであそこに居る獣人の子がケッタって言います」
「分かった。覚えた。ありがとうリーフ殿」
「あ、いや別に私は殿なんて無くても大丈夫ですから……えっと、アルド、さん。ですか? 伝説の地龍と同じ名前なんて格好いいですね!」
「格好いい。か、そう言ってもらえると嬉しいものだな……」
「リーフちゃんリーフちゃん」
「あ、はい何でしょうガンテツさん」
「格好いいも何もそいつ、本物の地龍、グランド・アースドラゴンのアルドじゃぞ」
「……はい?」
「いかにも我がアルドだ。 さすがに元の姿では此処に居れんので今は人化しておるでな」
「……え? じん……か? え? え?」
「まー混乱もしよるわな……ちと長くなるがこの2人がここに居る経緯聞くか?」
「あ、はい。是非……」
「そうじゃな……時間は少し戻って……
――――
無事(?)ガンテツの工房まで到着した2人。
「……おかしい。姐さんの気配がしない。匂いも全然しない」
「えぇ……お主あの女の気配とか匂いとか解るの?」
「は? 手前がニブチンなだけだろぉん? 鼻の穴を5倍くらいにすんぞ? ま、それはどうでも良いわ。取り敢えず中入んぞ」
ゆっくりとドアを押し、チリンチリン、とドアに着いた鈴が来客を報せる。
「あ、はーい。いらっしゃいませー! ……あれ? 初めてのお客様ですか?」
「どうもこんにちは、お初にお目にかかる。我らはガンテツ氏の友人だ。すまないがガンテツ氏は此処に居るかね?」
「あ、はい。ガンちゃ……ガンテツさんなら奥の工房で作業していますので今呼んできますね。 ……お二人は家族か何かですか? とても可愛らしいお孫さんですね!」
「我と此奴は家族でも何でもない。むしろ御免こうむる」
「オイラも此奴となんて御免だね」
「は、はぁ……あ、すみません、ガンテツさんでしたね。ガンちゃーん! お友達だって人がきてるわよー!」
すると暫くして工房の奥から手を拭きつつガンテツが姿を現す。
「ワシの友達? そんなこと言う奴おったか……ぬおっ!? アルド!? お前さん何で此処に来とんじゃ!? そいでお前さんの横に居るかわい子ちゃんはどしたんじゃ」
「おお、久しいなガンテツ氏。ここに来た理由はな。お主が先程かわい子ちゃんと言った者。 そいつはぎーとだ。
タマ会いたさに数日で人化の術を覚えてタマが居るであろう此処に来た次第だ」
「おいガンテツのおっさん! 此処には姐さんの気配も匂いもしないけどどういうことだ!?」
「ぎーとって、あのデカいハーミットたちのボスのぎーとか? お主」
「おん? そうだよ。オイラ達がぎーとだよ」
「マジかー。……タマの奴に会いたさで人化しおったかー……飼い主も無茶苦茶ならペットもペットでぶっ飛んだ奴じゃなー……」
両手で顔を塞ぎ天を仰ぐガンテツ。
「え? 人化? ガンちゃんの友達って人じゃないの?」
「ん? ああ。シトちゃん。そうじゃよ、この2人は魔物じゃよ。しかも飛び切り強い、な」
「えー!? 本当に本当に!? じゃあこんなに可愛いこの子も魔物なんだ!? ぎーとちゃんだっけ? 撫でていい撫でて良い? あ、飴ちゃんあるよ!」
「あ、おい! やめろ! 撫でていいなんて言ってな……おうふ、お前中々テクニシャンじゃないか……」
魔物と知るやいなや、シトリはカウンターからダッシュでぎーとに近寄り、ぎーとに可愛い可愛い攻撃を仕掛ける。
そして流れるような動作で飴を与えられ、撫でられるのが存外悪くなかったのか、横になり催促を始めるぎーと。
その一連の流れを見てアルドが驚く。
「ガンテツ氏、此奴がタマ以外にここまで軟化するとは我も想像できんかった。この御婦人はガンテツ氏の番か?」
「あー……魔物使いの血が騒いじゃったかー……そうじゃよ。シトちゃんはワシの嫁じゃよ。……まァ魔物使い云々よりアレは単に本当に可愛いから可愛がっとるみたいじゃが」
「ふむ……して、タマが居ないようだが?」
「ああ。それか、それはじゃな……
――――
「てな感じでその2人は魔物で、タマの友達とペットじゃよ」
「……にわかには信じられないですね」
「ま、ワシの鑑定鏡貸しちゃるからそれでそこの2人鑑定てみろ」
ガンテツから投げられた鑑定鏡を受け取り、リーフはアルドとぎーとを覗き込む。
――――
アルド
以下略
――――
「ぎーと」
種族
「ヘスン・ジャイシュ・ハーミット」
・未確認個体「フォートレスピリタス・ギガハーミット」から、度重なる栄養の過剰摂取により、突然変異進化を起こして世界の知識に新たに登録されたS級の魔物。
名を冠するヘスンは砦の意。ジャイシュは軍隊の意。
この種が新たにS級として認められた点は、個であり軍であるという矛盾を持つ所である。
超弩級個体の背負う殻の中にはおびただしい程の新種のハーミットが生息している。
可能性としては、S級に至る前はただの群れであったが、進化の際に群れが融合、統合し、新たな種になった可能性が高い。
頂点とする大型個体の弱点を殻の内部に住む個体がカバーし、小型の弱点は上記の大型個体がお互いに補う。
――――
「……本当に魔物だ。……信じられないわ。S級って言ったら人の手に負える生き物じゃないって聞くわよ……」
「まぁ、そこの溶けて広がってるアレ含め、我らS級と呼ばれる魔物はそれ相応に賢いからな。利があるなら協力はすれど滅ぼしはせんよ。……上には上が居るものだが(遠い目)」
「あ゛〜あんたテクニシャンだわ〜 オイラアンタのこと姐さんの次くらいには気に入ったぜぇ〜。おーい、プチたちも出てきていいぞー」
御満悦のぎーとの呼び声がした後、ぎーとの背負っていた大きなリュックがモゾモゾと揺れる。
そしてその後、今週のビックリドッキリメカ宜しく2頭身のぬいぐるみのようなぎーとたちがわらわらと出てきた。
「き、きゃー!? 可愛いー! え、コレ全部ぎーとちゃん!?」
「そう。オイラたちは一心同体、小さいオイラも同じオイラだ」
「やーん! 皆可愛すぎー! 飴ちゃん! ほら皆飴ちゃんよ!」
群がるプチぎーとたち全てに飴を与えるシトリ。
「あの、シトリさんって腕2本ですよね? ガンテツさん」
「そうじゃよ。たぶんアレは残像で腕がたくさんあるように見えてるだけじゃと思う」
「……はァー……ダンジョンから急いでガンテツさんとこ来たらダイチはま〜だ涙流しながら祈っているし、ナハトはアルドさんずっと見てるし、ケッタはぎーとちゃんに混じってシトリさんに撫でられてるし、その2人はS級の魔物の人化だって言うし、混乱してきたわ……」
「まーリーフちゃんの言うことも分からんでもないぞい。ちなダイチが逢いたがってるタマの奴はもっとヤバい奴じゃ。あっちでバターになっとるS魔物をペットにするくらいのな」
「世界って……広いのね……そのタマさんって人、私も会ってみたくなりますよ……」
「おう! ふざけた奴じゃが良い奴じゃぞ。 きっとすぐリーフちゃんも仲良くなれるわい」
「本当にどんな人なのかしらね……」
――――
――
「うぉわぁぁぁ!? なんか踏んだぁぁぁ! 馬糞やんけ! 誰だ道の真中にクソ置いたままの奴はぁ! 水! 水場! お? 森見えんじゃん。多分川か湖あんだろ(安直な考え)おらー! 急げー!」




