番外ネキ 三馬鹿、弟子になる
あー。 今日も今日とて良い天気っすなー……
お日様が気持ちよすぎてもう全身緑色になって頭から芽が生えそう。
こう、 おわり。 みたいなかんじ。
そんな感じで涎を垂らしつつ鼻提灯を膨らませながら寝ていると、不意にパチン! と鼻提灯が弾け、目が覚める。
……この声と音は……あいつらか。
ドコドコと足音を立てながら今日も奴らがやってきた。
「「「姐さーん! 今日は違う魔物狩ってきやした! 見てくだせえ!!」」」
謎の魔物の皮を持って駆けてくるクソーザ、コーナ、メクジーの3人。 通称三馬鹿。
三人とも同じような犬の皮を頭から被り、ガタイの良い体躯につるつるのスキンヘッド。 兄弟かと聞いたらそんなことは無く小さい頃からの仲良しなだけだと言う。
いや、お前らは実際の兄弟より兄弟してると思うよ。
3人だけど阿吽の呼吸? ともかく息が凄い合っているのだ。
三馬鹿の襲撃を察知した俺はサッと右手を上げサインを出す。
すると、茂みに隠れ待機していたちびっ子2人がロープを引っ張って足掛けのトラップを作動させる。
「へっ。 甘いなチビ共! 今日はそんな手にはかからねぇぜ!」
三馬鹿はロープを視認して息のあった動きで綺麗にロープを飛び越え、そして。
「「「グワーッ!?」」」
着地しなかった。 地面に吸い込まれるように3人とも首まで綺麗にスッポリと埋まってしまった。
クク、馬鹿共め! ジャンプの着地地点の地面は俺が恐ろしいほどに柔らかくふっかふかにしてあったのさ!
そしてすぐさま別働隊のちびっ子たちが群がり三馬鹿が埋まっている土をペシペシと固め、奴らが抜け出れないように固めてしまった。
「よーし。ナイスだお前たち。土埋め班は手を洗ってからお駄賃を貰いに来い、ちょっと多めにあげよう」
「「「わーーーーい!」」」
てけてけと水場に向かって走る子供たち。その間にロープ役の2人に駄賃を渡して頭を撫でてやり、ばいばいをする。
そして洗い終わった子供たちにも駄賃を上げて1人ずつ撫でてやり、ばいばいで別れる。
嬉しそうにてこてこと銅貨を握りしめてそれぞれのおやつや、中にはいつも頑張っている親に花を買って渡してあげる子もおるそうな、いい子やでぇ……はーほんと子供は無邪気で可愛いなあ。
やはり子供に懐かれるのは嬉しいよね。
……今埋まってるおっさん3匹に懐かれても全然嬉しくないけど。
何回追い払ってもくるんだよこいつたち。
不屈過ぎぃ!
……いっぺん何でそこまでするか聞いてみるのもアリか。
「なあ。お前らはどうして俺のことを姐さん姐さんと何度追い払われても慕ってくるんだ?」
埋められて居る三馬鹿たちの所に近寄って、ヤンキー座りで目線を合わせてやり、理由を聞いてみる。
「あ! どうも姐さん! いやー今回は前の失敗を活かしてコケないように跳んだんですけどね、まさか姐さんの落とし穴があるとは!」
「チビ共も賢くなってんなぁ!」
「全くだぜ!」
「で、何故かの話でしたね。そりゃもう姐さんにのされてからビビっと来たんですよ! この人に付いていきたいって!」
「断られるのはきっと俺たちがまだまだ精進足りないからだと思うんでさ!」
「だから認められるまで頑張るんでさ!」
……。
「……ふぅー……」
コイツらの曇りの無いキラキラとした目を見て、俺はヤンキー座りのまま天を見上げて、大きなため息を1つ漏らす。
これは……あれだ。
絶対に理屈が通じないヤツだ。 多分どんな理由で何回も追い払ってもこの異常なポジティブさで俺が折れるまで来るだろう。
それこそ、断ったままこの街を出ようものなら絶対についてくる。
桃太郎でも犬、猿、キジとお供に種類があったのに俺の場合は、
おっさん(犬)、おっさん(犬)、おっさん(犬)。
だ。
うん! 絶対に嫌だ。 とにかく嫌だ。
もう逐一追い払うのもめんどくせーから適当に弟子にして街の掃除とか福祉とかさせちゃれ。
埋まってる三馬鹿を一人づつ優しく引っこ抜いてやり、キョトンとしている三馬鹿に声を掛けてやる。
「はー……分かった。そんなに弟子入りしたいなら弟子でも子分にでも成りやがれ。ただし、俺の下を名乗るなら俺の言うことは絶対だ。分かったな?」
「……え? ほんとにいいんですかい?」
「まだまだ精進足りてないですぜ?」
「そっすよ姐さん」
半ば何が起こっているか理解していない3人に、俺は呆れる感じで腰に手を当て、片方の手で自身の目隠しをしたまま上を向いてまた、溜息を漏らす。
「じゃぁ今からでも子分の名前に恥ずかしくないように頑張れば? 取り敢えず先ずは公園に落ちてるゴミの掃除。それが終わったら公園に来てるじ様ば様の手助け。明日はマリーさんの所行って雑用。明後日はちびっ子たちと遊べ。……できるか?」
「「「勿論でさぁ!!!」」」
3人とも揃って綺麗な敬礼でもって俺の言葉に応える。
早速ゴミ拾いに駆け出して行きそうな3人を呼び止めて、埋めた本人の俺がするのもなんだが、こびり付いている土を軽く払ってやる。
「ったく……土くらい落として行けっての……ほれ。それじゃ、さっさと行ってこい」
「「「姐さん……」」」
いや、何でお前たち感極まってんの?
「はよ行け」
「「「あいあいさー!!!」」」
そして三馬鹿たちはすごい勢いでどこからか持ってきた麻袋に一生懸命ゴミを集めていく。
「……ったく、落ち落ち昼寝もできやしねえ。街の散歩でもしてくるかぁ」
片方の手はポケットに、もう片方はポリポリと頭を掻きつつぼやきながら俺はぶらぶらと街の散歩に出ることにした。
この日以降、三馬鹿に対する街の人たちの評価は上昇の一途を辿ることになるのだが、勿論俺はそんなことは知らない。
欠伸をかいて一言。
「くぁ〜あ。……串でも食いに行くか……」




