49ネキ 炎の勇者
前回のあらすじ
死体がミンチになって回収部分が少なくなるからって言われて割とすぐ止めさせられた。
せっかく乗ってあげたのに何だよもうー
「いや、アレはヒット音のポワワワ言うのもキツくなってきてたんで堪忍してくださいっす……」
――――
――とある復讐を狙う黒幕系悪役の話――
「……なっ、なん、だと……?」
馬鹿な。 俺は、白昼夢でも見ているのか?
計画は完璧だった。如何にAランク冒険者と言えども所詮は人。
圧倒的な数によって多少は数を減らそうともオーガーの波に呑まれて為す術もなく殺され、街を蹂躙し、そして俺たちが悠々と街を乗っ取る算段だった。
─だったのだ。
だが、今俺の目の前に起こっている出来事は何だ? 何なのだ!?
さぁ! 飲み込め! と叫ばん時。昼なのに、ハッキリと見えるほどの光る星が戦場に落ちてきやがった。
しかし、それは星ではなく、女だった。
この地では見慣れぬ黒の髪。万人に聞けば万人が美しいと言うほどの顔立ち。「待たせたな」とこちらまで聴こえてくる透き通った声での宣言の後、煌々と輝く巨大な光の鎚を棒きれのように扱いオーガー共を木の葉の如く吹き飛ばしていった。
途中から奴の影がもう1つ増え、勝手に動き死んだオーガーたちを次々と影に飲み込み、唖然と見ていた俺たちだったが、ジャイアントを残すのみとなった時、なんとか俺は正気に戻り隣で同じ光景を見ていたツカの様子を確認する。
……俺も、今の此奴みたいに顎が外れるほどあんぐりとしていたのか? ……ともかくツカをひっぱたき正気に引き戻してジャイアントに命令しろと行動させよう。
……大丈夫だ。 ジャイアントはオーガー1000匹を同時に相手するのとは訳が違う。 どんなに強かろうが人なんざひと踏みでお陀仏だ。
行け! あの女を殺せ!
多少狂いはしたが、まだ俺の野望は終わってねえ!
――――
「しゃーおらー!」
現在も引き続き屍の山……と言いたかったんだけど、コーイチが合流してから凄い勢いでオーガーたちの死体回収してったんで、あっと言う間に綺麗になってしもた。
んで随時倒されるオーガーたちもコーイチが嬉嬉として飛んで跳ねて即座に回収してるっぽい。
「うひょー! 素材!素材がたくさん! タマさん様様っすわー!」
「割と適当に倒してるんだけどもそれでもええんか?」
「全然問題無し! 仕舞った後はこっちの内で解体して皮から血まで余すとこなく売れます。もう俺の方にも特別ボーナス出るくらいに! いやっほう!」
「はあ……嬉しそうで何よりね。お、赤かお前。珍しいな」
「ゴギャァァ!?」
色違いではあったがそのままお構い無しに鎚を振り回して緑と同じようにコーイチのアイテムボックス行きとなるレッドオーガー君。
南無三。
「うひゃー! レッド種も居るのか! コレは美味しい!」
「ここ最近でテンション一番高いな……」
「いやー、ね? そりゃあ今は影化で顔は解らないですけど、姿形は見えますからね。でもそれもタマさんの目覚しい活躍でどうにも誤魔化せますし、何より普通の人には今の事態はそりゃもう絶望的な状況すっけど、タマさんのお陰でカモネギ状態ですからね。ちなみにあのデカい奴にモロに殴られたらさすがに俺も死ぬっす。ボスなんじゃないすか? アレ」
「ん? あー。あのいかにもボスですよ感を醸し出してる奴か」
「そうそう。アレです。適当に言うならレッドオーガー・ジャイアントってところっすかね。そろそろお約束展開があるなら、そろそろ普通のオーガーたち全滅するんで動き出すと思いますよ」
「おん? こいつらもうこんなに減ってんのか。早いな」
「いやいやいや……早いも何も岩の如き皮膚を持つオーガーと言えど大鉄塊の暴風に巻き込まれて無事なんてことは皆無っすからね?」
「鉄塊の暴風とか怖っ。やだねーそんな自然災害……しゃオラ! ラストォ!」
「貴女様のことなんですけどね……(ボソ」
お互いに会話しつつも、倒しては回収。倒しては回収のダイ○ンもびっくりの吸引(バッティングセンターの方が正しい表現か)で打ち飛ばした先にコーイチが待機するという効率化された作業により、1000体は居たかと思われるオーガーの群れは今や見る影もなく、残すは鎚の跡と血溜まり。
そして一際大きいオーガー。
レッドオーガー・ジャイアントを残すのみとなった。
それと同時にレッドオーガー・ジャイアント(以下略ジャイアント)が動き出し、地響きと雄叫びの両方の音を出しつつ、此方を踏み潰さんと駆け、向かってくる。
「ーーーーガオォォォォーーーン!!」
「お? 何だ? 俺と喧嘩しようってか? 身体も温まってきたし特別にお前とは素手喧嘩したらぁな!」
肩に担いだハンマーをそこら辺に捨て、タマもジャイアントに向かって駆ける。
投げたハンマーだが、意図せずコーイチを掠め地面に落下した。
「うおっ!? あっぶねぇッ!」
速度を上げつつ、片腕を解すようにグルグルと回しながらジャイアントに突っ込む。
当然踏み潰しが来るのだが構わず突っ込みストンピングを躱す。
狙いは踏み付けていない脚。軸脚だ。
─その脚にランニングラリアットが炸裂ッ!
「ーーーゴギャァァ!?」
ボギャリ! と、重く鈍い音がしたが、タマはそのままお構い無しに脚に力を込めてジャイアントを引っ掛けたまま走り抜けた。
片足が完全に折れていることもあり、踏ん張ることもできずジャイアントは前のめりに倒れることとなる。
周囲に砂煙を巻き起こし、顔から地面に突っ伏したジャイアント。
何とか顔を横に向けるが、それが彼の見た最後の光景となる。
「素手喧嘩と言ったな。アレは嘘だ」
タマの言葉と同時に、いつの間にか展開していたギミックタワーシールドの片方が外れ、右手のシールドにジョイント。
長さを伸ばした5mほどの板。
─それがジャイアントの首めがけて振り下ろされる。
切れ味など存在しない薄板であるが、思い切り後ろに振りかぶった後、力と体重を以ってしての強引極まりない一撃。
その太く硬いジャイアントの首をひと振りで難なく頭と胴体の二つに分けた。
無理に切り離された胴体は一度大きくビクン! と跳ね、それ以降動かなくなり、ジャイアントは絶命。
そしてすぐ様コーイチが死体を回収。
今ゆっくり見たけどコーイチの仕舞い方怖……
何か沼に沈んでるみたいだな。
首に手を置き、コキコキと解す動きをして一言。
「さ、帰るかぁ」
「かるーく言うっすね。あ、俺はバレるとまずいんで此処でドロンしますわ」
「あ、おい……」
呼び止めようとしたが既に遅く、煙と共にコーイチはどこかに消えてしまった。
残されたのはタマ一人。
そのまま居てもしょうがないと思ったので、先程まで使っていたハンマーを拾い、街の方へ歩いて帰る。
街の方にはオーガーたちを迎え撃つ為の冒険者の軍団がそこに待ち構えていた。
……壁の上には、ギルドの所長? それにマリーさんたちに……ん?
街の人たち? んん? なーんでちびたちや公園によく来るじっちゃんばっちゃんも居るんだ? しかも年寄り方は何か俺見て拝んでるし。
誰も一言も発しないで静かにしていたのでタマが不思議に思って首を傾げていると、冒険者に混じっていた門番のサジャンさんが俺に一言、声を掛けた。
「……おかえりなさい。だ。タマ君」
「……おう! ただいま。 だ!」
サジャンさんの言葉にニッカリと満面の笑みで答える。
次の瞬間、冒険者と街の人達の地を揺るがすような歓声に包まれ、ちょっとびっくりしたのは俺だけの内緒の話。
――――――――
所変わ、り此処は国境間。 の、クローマクの隠れ家。
息を切らしながら2人の男が東の森ダンジョン経由で逃げ帰ってきていた。
「はあッ……はあッ……何だ! 何なんだ! あの女は!?」
「わ、解りません! けど、ひとつ確実なことがあります! あの女はヨシヒコと同じ気配がします。間違いないですアイツも、ヨシヒコと同じです! でなければ素手でジャイアントを倒したことの説明が付きません!」
「クソっクソっ! 何なんだ! 星の落とし子って奴らは! どいつもこいつも俺の計画を邪魔しやがって! まだだ! まだ俺たちは終わっちゃいねえ! 一度逃げて立て直すぞ!」
クローマクが悪態を吐きながら逃走計画を立てていると、洞窟の奥から若い青年の声がする。
「いや。残念ですがクローマクさん。貴方は此処で終わりです」
「……ああ!? なんだと!? 誰だおま……この声は、この声はァ! 忘れるわけがねえ! ヨシヒコぉ!」
「はい、貴方の嫌いな僕。ヨシヒコです。そしてもうお終いにしましょう。貴方の部下の魔法部隊も、その他全、皆さん捕縛させていただきました。この洞窟の周り全てに騎士が囲んでいます。逃げても無駄です。暴れると言うなら、此処で……僕が斬ります。騎士さん! 今です!」
ヨシヒコの掛け声と共に、騎士たちが雪崩込み、そのままクローマク達を押さえ込み錠を掛けて、連行していく。
「クソっクソっクソがぁぁぁぁぁぁ! ヨシヒコ! 貴様貴様貴様ァ!……」
叫びながら騎士たちに連行されるクローマク。手下のツカッパーの方は完全に観念したのか、項垂れたまま大人しく騎士たちに連れられていった。
「……さて、本当の黒幕の方に挨拶に行きましょう」
クローマクの連行を見送ったヨシヒコは、そのまま洞窟の奥へと進み玉座らしき所に座るフードを深く被り顔が見えない人物へと向かい、そして話し掛ける。
「……やはり君か、ロッジ。……いや、二郎」
「義彦か。いや、ヨシヒコだったかな? 今は。まぁ、どっちだって良いさ。こんな湿気臭い洞窟に何の用かな?」
「二郎……こんなことを止める気は無いのか?」
「……勿論。あ、いや、止めるさお前を殺したらな。だが、今はそんな話夢のまた夢だ。 だから俺は力を蓄えてお前を必ず殺す。今は逃げるさ、だけど、殺す。ぜったいに殺す。俺はダンジョンマスターになった。新しくできたダンジョンに居るかもしれない。既存のダンジョンに紛れこんでるかもしれない。俺を探せ。さもなくば力を蓄えた俺はいつか必ず来るぞ?」
「……今。此処で逃がすと思うのかい?」
ヨシヒコは鞘からゆっくりと真っ赤な燃えるような刀身の剣を抜き、二郎ことロッジに向ける。
「逃がすも何も─
「マスター、転移準備。整いました」
不意にロッジの後ろにメイド服を着た女性がふっと現れ、片膝を地面に突け頭を下げたまま報告。
隙間から覗く彼女の関節が機械のそれであることから彼女が人でないことが窺える。
「お、来たか。ご苦労さま、カマリエラ」
「いえ、マスターのご命令ならこの程度容易なこと。転移トラップの暴走、間も無く始まります。お気をつけください」
「聞いてた? ヨシヒコ。じゃ、僕らはコレでサヨナラだけど、頑張って僕探してね!」
「あっマスター。ズボンのポケットがはみ出ています。私が仕舞って差し上げましょう」
「ちょっとぉ!? カマリエラさん!? いいところだったのに台無しじゃないかよぉ─
「あ! 待て! 二郎!」
ヨシヒコが叫ぶと同時にロッジとカマリエラというメイドは光に包まれて─
消えてしまった。
後に残るは空の玉座と、勇者ヨシヒコ。
「二郎……必ず見つける。そして……僕が必ず君を止める」
剣を鞘に仕舞い、握り拳に力を入れ、勇者は1人、心に誓った。




