33ネキ ダンジョンに行こうぜ? 中編
前回のあらすじ
初めてのダンジョンか、オラワクワクすっぞ!
……いや、公園のベンチと天秤にかけたら公園で良いわ
――――
さて、マルたちと一緒に南門の方に来たんすよ。
昨日南門集合って言ってたけどぉ……そうだよね、宿同じだもんねー。
アイダちゃんと遊びながら歩いてたら着いたわ。
今更の話になるんだけど、町の大まかな形が円で、十字に区切るのが大通り。
北はなんか偉い人たちとか役人とか云々マルが言ってた気がするけど興味ないんで覚えてないっす。
「あ、居ましたよ、あの腕を組んで門の近くに立ってる方です」
「昨日言ってた盗賊の?」
「はい。タマさんは初対面だと思いますが、僕らが冒険者になる前からお世話になってた方ですね」
はぁ。こっちに気付いてるけど、なーんか不機嫌そうな顔してるおっさんだなー。
バンダナ、腰に短剣、太ももに謎のツールポーチ。はーこりゃどう見ても盗賊ですわ。
そう会話してるうちにおっさんと会話できるくらいの距離まで接近。
すると、おっさんの方から話しかけてきた。
「……よぉ。マルの坊ちゃん、確かに丈夫な前衛連れてこいとは言ったが、まさかその綺麗なねーちゃんがそうなのかい?」
あ〜疑ってますよね〜。 ですよねー?
俺だってゴリラゴリラしててムッキムキのタンクマンが来るんじゃなくて、アイダちゃん肩車してる女の人がそうですって言われてもそうだよなー。
「ええはい。見た目はとても麗しい方ですが、驚くほど頼りになる前衛ですよ。タマさんは」
そうだろそうだろ? もっと褒めてもいいんだぜぇ?
「はぁ……このねーちゃんがねぇ……」
「ねーちゃんじゃないよラトローさん、タマさんだよ!」
そう言いながらアイダちゃんが俺から一回転して着地。
器用やねー君。
「ああそうかい、それはすまんかったなアイダちゃん。んで、自己紹介が遅れたが、俺の名はラトロー。
ランクはB。職業は盗賊さ。マルの坊ちゃんの親父さんには世話になってるから今回の付き添いに乗ったわけよ。
まー、盗賊って言っても盗みとかじゃなくてな? 斥侯や察知、罠の解除とかそういうのが俺の仕事だ。盗らなくても盗賊なんてほんと誰がこんな名前にしたんだろうねぇ」
「OK、こっちも自己紹介が遅れてすまんな、俺の名前はタマ。ランクはFの、職業は、うーんと……解らん。とりあえず丈夫なのが売りよ?」
俺はラトローに握手すべく、スッ と手を差し出す。
「丈夫……ねぇ」
ラトローの方もとりあえずは応えるように俺と握手を交わす。
「……ただの柔らかい女の子の手なんだけどねぇ……」
握手をしてもまだ訝し気なラトロー。
そうだよなそうだよな?
だがしかしこっからが本番よー?
俺はアイダちゃんに視線をやり、ウインクをして合図。
別段打ち合わせしてないけど、この子のノリの良さと機転の利きは凄いからな。
みとけよー?
「ラトローさんラトローさん」
「ん? なんだいアイダちゃん」
「いつまで握手してるんです?」
「ん。 そうだな。手を放すかっ……って、うぉ!? は、離れん!?」
「どうした? ラトローさん。 俺はしっかり離さないように握ってるだけだぜ?」
「アンタ、見かけによらずッ! 力ッ! 凄いなッ! ……駄目だ。 降参降参、解ったから離してくれ。舐めてた俺が悪かった……」
「ほい」 「うおっ!?」
パッと手を放し、まだちょっと力を入れてたのか、ラトローが少しのけ反る。
「まぁ、ラトローさんの考えてることも僕は多少理解できるつもりです。ですが、タマさんは常識の範疇外だと思った方がいいと僕も最近解りました」
「タマさん此処に来る前はずっと山で修行してたみたいよ? ラトローさん」
「びっくりしたビックリした? タマさんすっごい力持ちなんだよ!」
「ああ、コイツはは予想外だよ。 まぁいいさ、とりあえず早速ダンジョンに行こうか。とりあえずパーティの先頭は任せる」
(……とりあえず戦わせて実力でも見てみるか。 最悪多少の怪我はアイダちゃんが居るから良いとして本当にヤバい時は助けてやっか……)
「ん、解った。じゃあ早速行くかー」
「はい」「解ったわ」「れっつご~!」
「はぁ……呑気な新人たちだねぇ……」
そっから歩いて一時間くらいかな? 両脇に人が立ってる祠的なものが見えてくる。
「……祠?」
「えっとですね、ダンジョンと言っても中も入口も千差万別なんですよ。僕達が行く初心者級のダンジョンはこういう形なだけですね」
「へー」
「へーってアンタ、そういうのも知らんのかよ……」
「世間知らずと呼んでくれ(キリっ」
「先頭頼んだのは俺だけど本当に大丈夫かよ……」
「大丈夫だと思いますよ」
「そうねー(遠い目」
「うんうん!」
「はぁ……?」
祠っぽい前まで来て、番をしている二人にマルが話しかける。
「こんにちは。今日は5人で挑戦しに来ました」
「ようこそ、フカシのダンジョン初級に。君は昨日も来たマル君だね? 通っていいぞ。 後ろの新しい二人のことも聞かせてもらってもいいかね?」
「はい。 男の人の方は、ラトローさんと言って今回僕たちの指導という形で随伴してくれることになりました。ランクはBです。 女の人の方はタマさんと言って僕たちと同じ新人のFの冒険者です」
「うむ解った。 確認のためそこの御二人共、冒険者カードを見せてもらえるかね?」
俺とラトローは頷き、カードを門番? に見せる。
Bランクカードって銀色なんだな。
へー。ありきたりだけどかっけぇなー、やっぱ。
「あい、御二人共ランクに間違いは無いな。よし、通っていいぞ」
門番? さんたちの許可を貰い、俺たちは階段を下りてゆく。
3階までは魔物も遭遇せず、聞いていた罠もなく皆終始無言でスイスイ降りてきた。
3階に降りてきて、ラトローが口を開く。
「いいか? マルは何回か来て解ってはいるだろうが、1から逐一説明してやる。 ダンジョンは基本的に外より過酷な環境といっても良い。
閉鎖的な空間が多く、明かりも少ない。魔物に囲まれやすく、何より罠が有る。此処は地下3階まで罠は無いが、そっから初歩的な罠が結構出てくる」
「はい、仕込み矢だけ、なら対応できましたが、戦闘中の矢は避けきれず当たってしまいラトローさんの教えを請いに来ました」
「うむ。お前さんは初心者にしては筋がいい……おっと、魔物さんのお出ましだ。ついでに出くわす奴らの説明もしてやる。相手したこともあることもあるだろうが先駆者の知恵だ、しっかりと聞けよ」
会話している最中のマルたちの前にスライムが現れた。
「「「はい」」」
「そうだな、タマちゃんだっけか。 お手並み拝見といかせてもらおう」
「おっけー。倒しちゃっても?」
ラトローに質問しつつ俺は袖まくりをする。
「できるなら構わん」
(何故此奴は戦闘前に袖を捲るんだろうか?)
「おうさ!」
返事と共に俺は駆け出す。
それと同時にラトローの講習も始まる。
「さて、マルたち、今現れたのはお前らもよく知るスライムだ。戦ったことは多々あるだろうが、奴は物理に強く、剣で斬ろうにも中々核に届かず、おまけに攻撃を受けたところが酸性に変質し、一撃で斬らなきゃ剣がなまくらになっちまう。
まぁ、セオリーが遠距離からミリーちゃんの火炎系魔法で一発なんだが「よいやさー!」
「あの、タマさんが今素手で核を抜き取ったんですけど……?」
「……そういうやり方もある。真似は駄目だが覚えておくといい」
ちょっと気まずそうにしてるラトローにタマが気付くはずもなく、一同は進んでゆく。
そして今度は骨だけの人型の魔物。
所謂スケルトン3体と対峙する一行。
「タマちゃん、アイツらの引き付けお願いできるか?」
「倒しても?」
「まぁ、さっきのスライムみたいに楽勝に倒せるならな」
(さっきのは攻撃がまぐれ当たりであたっただけだろう)
「いいかマル! スケルトンは見た目に反して腕力がありやがる! そして魔法にも強い! こいつらの動きは割と単調だから攻撃を避けたら剣の腹で頭蓋を叩き割ってやるんだ! ミリーちゃんたちは援護で奴らの足を「ワン! タン! めぇーん!」
「……タマさんのチョップでスケルトン全部砕けたわよ……?」
「そうだな。打撃系はすこぶる相性が良かったんだな……はは」
ラトローがちょっと引きつりながら説明を入れる。
勿論タマは気づいていない。
戦闘の後、一団は無言で歩いていた。
罠らしい罠に遭遇するでもなく、今度は狭い通路に大量のゴブリンたちがひしめきあっていた。
狭い通路と言っても、道の両脇が落とし穴のように深くなっており、真ん中を通る以外に道は無い。
「おおう、此奴は珍しい。 初心者用のダンジョンでこんなに湧くもんかねぇ……でもここ通らにゃいかんし、お前たち! 突破するぞ! タマちゃんは切り込み! 次発は俺! 殿にマル! 間にミリーちゃ「わっせろーーーーーい!」
「ギャ――――――!?」
テンション上がったタマが両盾を展開し、ブルドーザーの如く通路のゴブリンたちをドカドカと押し出す。
あっという間に通路のゴブリンたちは落とされていってしまい、逃げ延びた奴らもわざわざタマが捕まえて穴に投げ込んでしまった……
「……道。空いちゃいましたね?」
「……フゥー……そうだな。タマの嬢ちゃんが此処までパワフルなのは計算してなかったな」
(なんだあの女は!……まぁ、すぐその先に罠があるからちょっとぐらい怪我してもらって懲りてもらうか)
ゴブリンたちを駆除し、上機嫌にマルたちを待って、合流。
「おい、その先は……」ラトローが言うのと同時にタマが一歩目を歩きだし、少しばかり床が凹む。
カチリ。
という謎のスイッチ音と共に、壁の隙間からタマの肩目掛けて鋭い矢が飛来。
「あっ! タマさん危ないッ!」
叫ぶマル。
「ん?」
タマの肩口目掛けて矢が飛びあわや命中寸前!
そして矢はタマに吸い込まれるように刺さ……らなかった!
カイーン! という小気味よい音と共に矢は逸れて天井に刺さる。
「大丈夫。タマさん跳ね返したわよ」
半ば悟ったように平然と言うミリー。
「そだねー」
同じく最初から心配すらしていなかったアイダ。
「……とっさに言葉が出ましたけどやはり無傷ですか……さすがです」
若干の尊敬の眼差しを送ってくるマル。
「……は?」
唯一一人、ラトローだけが何が起こったのか解っていないようでぽかんとする。
「……何が、起こった?」
ラトローのぼやきにタマが気付き、答える。
「矢? が飛んできた? 解らん。まぁどんどんいこうぜー」
「ええ……?」
困惑するラトロー。
3人が慣れて(汚染されて)きているッ……




