147ネキ 今日の敵は明日の親友
前回のあらすじ
♪わさびの におい しみついて
むせる
ーーーーーー
「っはぁーっ……! はァーッ……」
「フゥ……フゥ……」
一騎討ちからしばらくが経った。
お互い一進一退の攻防を繰り広げ、時には押し、時には引き、策にハメ策にハメられ。
どちらも致命傷は負っておらず、顔や身体に薄い切り傷を滲ませる程度で、実力は珍しくも見事に拮抗していた。
「……流石に、おおかみ殿も、息がッ上がるのですな」
「ふ、ん……ダイチこそ肩で息を、してるようッだが……? 」
「なんのまだまだ行けますぞ!」
「若いな! 貴様とは逆に俺はもう限界でな……お前になら悔いは無い。さあ、トドメを刺せ」
おおかみが片膝を着き、自身の得物を地面に突き立てると、何を思ったのか限界と申し出て、敗北宣言をした。
「あい心得もうした! 任せよ……と言いたい所ですがおおかみ殿、その隠し持っている小瓶はしまっていただけますかな? 先の戦闘で幾度も使用なされた爆発魔法を込めた瓶でござりましょう? しかもこういう時は特別威力が高いに決まってるでござるよ」
「ちぃ……これだから鑑定持ちはやりにくい。ご名答、タダでやられるのは癪でな? 死なば諸共とでも画策していたところさ」
「残念ながらソレはおおかみ殿に軍配が挙がるの拙者知ってるでござるので、勘弁願いたいところでござるよ」
「ではまた泥仕合と洒落込むとするか?」
「拙者貴殿となら踊れますぞ」
「生憎俺は男と踊る趣味は無くてな、麗しいお嬢さんにでもなって出直して来てくれ」
「TSッ! その手があったかッ!」
冗談の投げ合いで息を落ち着かせた双方が、再度刃を交えるべく構えを取り、今。飛ぼうかという時─
「はいはいはいは〜い! やめ、やめ〜!」
エルクラが戻って来た。
「なんだ、アルラウネの者よ何故今になって戻ってき……ッ」
エルクラが抱えて来ていたのは “人” だった。
それは、年頃の娘であった。
ポロリ。とおおかみの握っているダガーが手を離れ地面へと刺さる。
何かしらを察したダイチも剣を納め、成り行きを見守る事にした。
「何故……君が?」
「あっ、あのッ! わ、私ずっとぶたさんに感謝したくてッ……で、でもそれ以上に謝りたくてッ……あ、あの時、花もら、貰っだの、むらのみ゛んな゛にい゛っぢゃって……それがら……こん゛な゛こどになっで……ごめっ……ごべんらざッ「良いんだよ」
ふと、おおかみが娘に近寄り、そっと涙を拭いて口を優しく閉じさせる。
「君が謝る必要なんてないさ……とっても綺麗になったね。……お母さんは良くなったかい?」
「あッ、あ゛のッ……は、はい゛! いばもどっでも元気でずっ……」
「あの日、あの時。僕は自分の意思で君に花を分けてあげたんだ、だから君は悪くない。 でも、もし君が自分のせいでこうなったのだと自責をするなら……僕は君の全てを許そう。後悔なんかしちゃいないよ僕は、だからそんなに泣かないで、迷子のお嬢さん」
「あッ……あッ……う゛わ゛ァぁぁぁ……─
………………
…………
……
「……で、本当に貴殿達はギルドから派遣されて事を納に来た一団……という訳なんだな?」
「いやー最初から言ってたでござるよ〜……多分。いやはやしかしこれは……壮観にござるな……」
「……綺麗」
「……パネェ」
「……スゲにゃぁ」
エルクラが件の娘を連れて来た事によりおおかみとの和解、話は丸く収まり現在は彼の護る秘密の花園、
“猫うさぎの楽園” へとダイチ一行はたどり着いていた。
“うにー”
“うにに〜”
“うーーにーー”
「……ほんとに喋ってる様に聴こえるわね」
「葉の形状に秘密がある?」
「甘〜い匂いにゃあ」
「ダイチ、お前の言う事が本当なら此処には不用意に人が来なくなるんだな?」
「左様。そして現在は不在(娘を送り返す為)にござるがエルクラ殿達、つまりはアルラウネ種との提携にてこの花園を管理して貰おうと言う話ですな」
「……成程、彼女達が住めばテリトリーになる故に侵入は居なくなる……と」
「もちろんおおかみ殿が許せばの話にござるが」
「構わない、不逞の輩が来なくなるのは大変好ましい」
「……ものは相談でござるが許容の範囲で融通は可能で?」
「秘匿こそすれど、独占はすべきでは無い。可能だ」
「いやはやありがたきにござります……収入は全て此処の維持と彼女達の給金に当りますので」
「彼女達に手伝って貰えば私も管理が楽になる、もっと早くに貴殿達に来て欲しかった位だ」
「申し訳ござらん」
「いや、良いんだ。今はこうして良い結果になった。……師匠も喜んでくれるだろう」
「これ程の手練のおおかみ殿の師匠、宜しければお伺いしても?」
「……フッ。お前には話したい気分だ、……だいぶ長くなるが良いか?」
「是非」
「まずは俺がのたれ死ぬ所からでも……
……
…
そ
し
て。
なんだかんだあって話が進み、自体が解決したりアルラウネたちが引っ越して来たりの間、花園で過ごしていたダイチ一行。
実力が珍しく拮抗していたこともあってか、数日経つ頃にはお互いを好敵手と呼ぶ迄に仲良くなっていた。
「……本当にお前の言う通りに私は跳べるのか?」
「勿論、おおかみ氏は跳んだ先で拙者の紹介と申して装備を見繕って貰えば良いでござるよ。既に渡してあるその符を破けばすぐ此処に戻って来るでござる」
「……解った。お前の言う事を信じよう」
「助かりもうす! あいそれでは早速……んん〜ッ! スキルの裏ワザッ! 迫真交換!」
ダイチが謎の詠唱と踊りをしたかと思うと、おおかみが消えた。
「……あのさ」
「なんでござるか? リーフ」
「アンタが凄いのはわかるけど、仕組みとか聞いて良いかしら……? あとケッタその笛は?」
「簡単に説明するとですな、拙者のスキル“等価交換”を悪用して愛剣アルドを担保にガンテツ氏の工房前に飛ばしたんですな。そして渡した符を破けば交換は白紙、 おおかみ氏がまた戻って来ると言う訳ですぞ、ヨッ! ハッ!」
「♪ピ〜ヒャラ〜にゃ〜」
「ああうん、わかんないけどわかったわ……」
「大丈夫? リーフ、私が作った“バッファリーン” 飲む? 優しさが聞くよ?」
「ああ、うん、気持ちだけ貰っとく……」
「ハッ! ホッ! 来ました! なにか来ましたぞ〜!」
「テンション上がるにゃー! ♪ピ〜ヒャラ〜」
「ナハト、おおかみさん送ったダイチがまだ踊ってるんだけど、意味あると思う?」
「多分気分乗ってきたから踊ってるだけだと思うよ。 しかしあの踊り……伝説の勇者を彷彿とさせる……興味深い……」
「わかんないわーわたしわかんないわー」
「ハッ! ホッ!……
……
…
〜所変わってガンテツの店の前〜
「ちーす! タマさん! 掃除とはせいがでますね!」
「おーう、おはよぉーさん。出かけか?」
「今日はちょいと冒険でもとね!」
「おう行ってこい行ってこい! また得物折って来るんじゃねぇぞー?」
「その時はガンテツさん儲かるだけですからね! そんな事言わないで下さいよ、ハハッ」
「わはは、ご贔屓ありがとうございますだぜ! じゃー怪我だけは気をつけろや〜」
「もちろんでさぁ!……」
「♪〜」
タマが鼻歌を唄いながら工房の掃き掃除をしていると─ 件のおおかみがワープして来た。
「……ッ。此処か? どうやら無事に到着したか……突然の事申し訳ないがお嬢さん、この付近にて“ガンテツ”氏と名乗る者を探して居るのだが、ご存知ないだろうか?」
「お、おう。ガンテツのヒゲ野郎なら知ってるぞ……ちょっと待ってな……名前は?」
「おおかみと申す、申し遅れすまない」
「おーけーOK。 じゃーすぐに呼んできちゃるから待ってて…… 親方ァ! 空からぶたさんが降ってきましたぜぇ!?」
「だ〜れが親方じゃい! はぁ? 何言っとるんだ貴様ッ……あっホントじゃこんにちは、ワシがガンテツじゃが……
……
…