番外ネキ さばくの おおかみ (後編)
あるひの こと。
「ねえ のまね ぼくを きたえてよ」
「どうしたのさ やぶから ぼうに」
「むかしは すごかったん でしょ? でも のまね は おばあさん だ だから ぼくが つよくなって まもって あげる」
「……ほんき かい?」
のまねは じっと おおかみの めを みつめました。
「……うん なんだって する」
おおかみも けついの こもった めで こたえました。
ふぅー と のまねが ためいきを ついて
「そとに でなさい きたえて あげよう」
「やったぁ!」
そして おおかみが どきどきしながら まっていると─
「オラッ! アンタが言い出した事だからね! 今更泣いても喚いても止めないから覚悟しな!」
独特な服を着たのまねが短鞭をヒュンヒュンと感覚を確かめるように振り回しながら登場しました。
「え!? のまね!? どうしたのその格好!?」
「ァあ? あたしら家の戦闘衣装さね、つーかそんなこたァどうでも良いんだよ! ほらっ! とりあえず家の周り100週しな! そしたら半分からあたしがバンバン魔法ぶん投げっからしっかり避けんだよ!」
「えっ ちょっとまっ」
「グズグズ言わずに走れ豚野郎!」
ピチーン! と良い音をたてて鞭がおおかみを襲います。
「ぶひぃぃぃ!?」
「オラッ! 走りながら罠の勉強もしな! 掛かったら死ぬよ!
あたしの爆発魔法瓶も避けな! ついでに体感して魔法も覚えな!」
「そっ、そんな無茶なぁぁぁ!」
「黙れ!」
ピチーーーン!!
「ぶひーーーーィ!!……
……
…
なんと! のまねは若い頃バリッバリの戦闘狂でした。
そしてスパルタでした。
と言うよりスパルタを越えた何かでした。
そして 時が経ち、おおかみが立派になった頃。
「ねえ、のまね今日は何が食べたい?」
「あぁ? ……そうさね、オイシイタケのシチューが、食べたいさね……」
「うん。わかった採ってくるよ」
別の日─
「……はぁ。もう歩くのもやっとになるなんてね……」
「大丈夫! こうやって僕が肩を貸すから、どこだって行けるさ!」
さらに別の日―――
「……はァー……はァー……ゴホッ、ゴホッ」
「苦しいのかい!? 咳止めの薬湯持ってきたよ! 飲んで!」
「ング、ング……っはぁ……すまないね、迷惑かけて」
「そんなことないさ! 歩けなくなったって、もう僕は軽々のまねを運べるからね! 何処へでも連れてけるさ!」
「あぁ……そうだねぇ……全くあの泣き虫がたくましくなったもんだよ……」
「へへん!」
そして―――
ある朝の日。
「……」
「ねぇ、おはよう」
「……」
「……おはよう! 今日もいい天気だね」
「……」
「のまねにしてはめずらしーなー! こんな時間までお寝坊さんするなんて!」
「……」
「……ねぇ」
「……」
「おきてよ……おぎでっだら……」
「……」
「や、約束したでしょ!? 今日はピグニッグに…… 行ぐっで!!」
「……」
「明日も! 明後日も! ずっど! ずっどだっで……!」
「……」
「ねぇ゛……のま゛……」
「……」
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
――のまねは、息を引き取りました。
安心して、眠るっているのかも分からないほど安らかな顔でした。
おおかみは、泣きました。 泣いて、泣いて、泣きました。
しかし、のまねの言っていた「はーわたしゃアンタが泣き虫だといつまで経っても死ねないよ」
の、言葉を思い出すと――グッッ。と奥歯を噛み締めて涙を堪え、腕で拭き取り拭い去ったその顔付きは――
もう、泣き虫おおかみはいませんでした。
色々と支度を済ませ、寝ているのまねをそっと、優しく抱えて彼は、庭の1番日当たりが良い小高い岡に、丁寧に、とても丁寧にのまねを寝かせて弔いました。
のまねが旅立って暫く。 のまねが遺した家をいつものように掃除して、庭の周りを手入れしていると、墓標の周りに見たことの無い花が咲いているのを見つけました。
「うにー」 「うににー」
風にそよいでまるで鳴いているかの様な音を出す花。
葉と茎は硬く、鋭く、しかし花は綿毛のように柔らかくて優しく、ほんのり甘い良い匂いの花。
「この感じ……厳しくても本当はとっても優しいこの雰囲気は……のまね! お花になっても僕を見守ってくれるんだね!」
近寄ったおおかみのつま先に、ポトリ。 と偶然花が落ちると、まるで吸い込まれたと錯覚する程にふわりと消えて散り散りになり、その粉がキラキラとおおかみの足を包むと――
「えっ! うわぁ!? 怪我が! 傷が無くなってる!?」
その花には、不思議な力で傷を瞬く目に癒す力が有りました。
「お花になっても優しいなんて……さすがのまねだなぁ!」
花の素晴らしい力に感動したおおかみは、生まれ変わったのまねとして、大切に、とても大切に花の手入れをしました。
ちなみに名前はのまねの名前「ノーマ・ネルコ・イエクスウサギ」から取って、「ねこうさぎ草」と名付けました。
センスは親譲りです。
沢山お世話し、その甲斐あってか、家の周りの庭は不思議な花でいっぱいになりました。
そしてまた幾ばくかの時が経ち――
森の獣に追われて逃げてきた近くの村に住んでいる娘が、「ねこうさぎ花園」に、迷い込んで来ました。
怪我をしていたので「ねこうさぎ」の花で手当をしてあげ、森の外まで送ってあげました。
それからです。
不思議な花の噂を聞きつけた冒険者などが、来始めました。
初めのうちは、怪我の人の為に必要なので分けてくれ! との事でしたので快く花を分けてあげました。
しかし、その不思議な花はおおかみの家の庭にある丘周りでしか育たなくて、 分けた花も使ってしまうと唯の尖った草です。
だんだんと増える冒険者。 それでもおおかみは、優しかったので分けられるだけは分けてあげました。
ついに、ある日の事。
おおかみは後をつけられてしまい、花園の場所がバレてしまいました。
ある小雨の振る朝、いつものよう手入れで外に出ると─
おおかみは、その甲斐光景に目を疑いました。
花が。
庭が。
小高い丘が。
至る所が掘り起こされて、見るも無惨な光景になっていました。
あまりの凄惨さに膝から崩れ落ちて、呆然としていると――
第2陣の冒険者たちがきて
「案内ごくろーさん。 まさかこんなに生えてるなんてな。お前にゃ悪いけど俺たちが有効に使うから、安心して森の肥やしにでもなりな」
男が剣を振り下ろすと――
ぼとり。
「―あぇ?」
泣き別れたのは男達の首でした。
ナイフの血を弾き、鞘にゆっくりと戻して、無言のまま男たちを引きずって処理し、
そして。
「ゥオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!」
血が出る程拳を握りしめ、血の涙を流しながら、おおかみは森中に慟哭を響かせます。
――しとしとと、降る雨がゆっくりと、おおかみの血を、涙を、洗い流してゆきます。
その日から、覚悟の獣が1匹。森に生まれ落ちました。
1度流れた噂というのは止めようがなく、別の。 また別の。 はたまたまた別の冒険者たちが、押し寄せて来ました。
時に追い返し。 時に忠告で解決し、時に身の程を思い知らせて。
そして、時にこの手にかけて。
そんなある日。
縄張りの関係上、ここまで来るはずの無いアルラウネ1人と
エルフ、魔族、獣人、ござる珍生物のよく分からない一行が訪れ――