番外ネキ さばくの おおかみ (前編)
むかし、むかし。 むかしといっても ちょっとくらい むかしの 話――。
あるむらに いっぴきの オーク がうまれました。
そのオークは とてもめずらしく くびがなくて だるまさんに
て と あし がはえたような オークでした。
りょうしんは ちょっとびっくりしましたが かわいいわがこ
なのは かわりないので とても かわいがりました。
めずらしいオークは おないどしのみんなと くらべて とてもちいさかった ですが もんだいなく すくすくと そだちました。
このじだい すこし ちあん はわるかったけど むらは とてもへいわでした。
ですが あるひ ついに
“なわばりあらそい” がオークのむらにも とびひして
しまいました。
わるい じゅうじん に おそわれて むらのみんなも かぞくでさえ ちりぢり になってしまいました。
めずらしいオークは とくに 「たかくうれそうだ!」 と
おいまわされて ひっしに ひっしににげました。
みじかい あしが きのねに ひっかかっても こけて さかみちを
たくさん ころがっても オークは あきらめずに いっしょうけんめい にげました。
「もうだめだ あしが うごかないよ……」
どうにか こうにか にげのびて ついた さきは どこかもわからない もりでした。
「ああ。あしもいたい からだじゅうもきずだらけ のどもからから おなかとせなかが くっつきそうだ……」
ぐったりと あおむけに たおれて ぼーっとしていると だれかが
こえをかけて きました。
「おやおや めずらしく おきゃくさん がきたとおもったら ほんとうに めずらしい いきもの だね」
めずらしいオークに こえをかけてきたのは うさぎの じゅうじんの おばあさんでした。
「……だれ? ぼくは めずらしい いきもの じゃない ちょっと かわってる だけの オーク だよ」
「そうかいそうかい へんてこりんな オークも いたもんだね ま
ここに まよいこんできたってことは わるいこ じゃ ないさね たてるかい?」
「へとへとで たてない よ……」
「そうかいそうかい じゃあ そこでねっころがってな どうせだれも きやしない」
どうして? と ききたかった オークですが つかれが げんかいにきていたので ねむけに まけて そのままねむって しまいました。
そして
「……あれ? ここは どこ? なんでぼくは べっどのなかに いるの?」
「おや おきたかい? まるいちにち ねていたよ からだはすりきず うちみだらけ あしもねんざ まったく…… よくここまでこれたものだね ねてるあいだに ちゃちゃっと なおしといたよ」
「あ、おはようございます そしてありがとうございました えーと……」
「のまね。 あたしは のまねって いうんだよ」
「ありがとうございます のまねさん えと ぼくのなまえは ちび っていいます」
「ちびぃ?」
「はい。 ぼくのいたむらでは おとうさんも おかあさんも ともだちも ちびと ぼくをよんで いました」
「ばかだねあんた そりゃ なまえじゃないよ」
「え でも おとうさんは “おとうさん” でしたし おかあさん は “おかあさん” でしたので……」
「あー なまえがいらないちいさな むら だったのね わかった じゃあ なまえが ないと わたしがこまるので おまえになまえを つけて やろう ……さばくのようなすないろ のけなみ おおかみのように するどいまなざし…… よし! おまえのなまえは
“さばくのおおかみ” だ!」
「えぇ……?」
「わかったら へんじを おし おおかみ!」
「は はい!」
「どうせ いくあてなんて ないんだろう? なら ここに すんで いきな ちょうど おてつだいがほしくなってた ところさ」
「あ ありがとうございます!」
そして うさぎのおばあさんと へんな オークのせいかつが
はじまりました 。
おおかみは よくはたらき のまね もおおかみを たいそうかわいがり ひびは おだやかに すぎていきました。




