144ネキ エルロンゲ! ビルドアップ だ!
前回のあらすじ
Q 下半身隠すものなくない?
A 髪の毛がいい具合に長いので大丈夫。履いてませんよ。
余談だけどアルラウネ種は人で言う所の脇に臭腺が有る。
のでめっちゃワキからいい匂いがする。 個人差がかなりあるけど、エルクラちゃんは洋梨みたいな香り。
脇が甘い。(物理)
エルクラちゃんクサソウ!(草草)
Q ちな洋梨の臭いって?
A
同じだから洋梨買うかオスのタガメ捕まえて。
――――
「……ち、疲れた……」
意気揚々とダイチたちを案内する……したエルクラであったが、案内開始早々にして近くの樹木にしがみつき、膝を産まれたての小鹿が如く震わせている。
「はぁ〜……先が思いやられるわ……エル、どうするの? おぶる?」
「あ、いや〜大丈夫。意気込んで久ーしぶりに歩いたけどやっぱ楽するわ」
「楽?」
「楽。 よっこいせ」
突如、エルクラの身長がやや伸びた。 ……否。 これは、
“頭髪が伸び本体を持ち上げ、浮かせている” のだ。
「あー、なるほど。確かにそっちの方が良いわね」
「自在に動く頭髪を足の代わりにしたのでござるか」
「まーね〜。ヒトと違ってボクたちのは“手”みたいなもんだしね〜。実際こっちの腕より、頭の方が動かしやすいよ〜」
「首とか大丈夫にゃ?」
「全然。いや〜格好つけるもんじゃないね〜」
「解決した事だし、続きお願いしてもいいかしら?」
「おーけーおーけー。あっちの方だよ〜」
歩く? と言って良いのか微妙所であるが、ムー○ン谷に生息しているニョロ何とかニョロのようにススス……と滑るように移動してゆくエルクラ。
けもの道から外れて進んでいるので、通り道の整備は敢えてせずに、木々をかき分け彼女の案内について行くのだが─
突如、獣の咆哮。それと同時にエルクラが止まる。
「……ん〜、この鳴き声は整地猪ってところかな?」
「あら? ここら辺にも出るのね」
「整地猪?」
「ナハトの所じゃ見ないものね、よーするに魔猪よ、魔猪。堅い板になった鼻と丈夫な牙で草木を薙ぎ倒して進む迷惑な奴」
「出るって言うか〜、僕達の縄張りにはまず来ないし、多分“若い” 奴だね〜」
「あー、時期的に言われればそうねぇ……“折れ無し” ね」
「ふむ? “折れ無し” とはなんでござるか?」
「えーとね……若い個体ははっきり言って「怖いもの知らず」なのよね。だから自分達の縄張りより出張って荒らして回るの。ひいてはそれがテリトリーの拡大にもなるし、でもアイツらは加減を知らないから、やり過ぎた、来すぎた個体は “自慢の牙をぶち折って” わからせてやるのよね。そうしたらプライドも折れるみたいで、コロッと大人しくなってテリトリー外にほとんど出てこなくなるのよ」
「ほほぅなるほど」
「この感じだとこっちにまっすぐ来てるね〜。多分ぶつかる。……はぁ〜しょーがない……“折る” かぁ……」
「エルクラ殿。 助力必要ですかな?」
「だいじょ〜ぶ〜だいじょうぶ〜 僕らの森の問題だしね〜。ま、見ててよ〜」
手助け不要との事でダイチがリーフに目線を送り伺うが、“何も心配無いわよ” と、首を少しだけ左右に振る。
「現場は見た事無いけどアルラウネも普通に“牙折り” してるらしいから、正直気になるわ。どうやってやってるか」
「それじゃ〜あ〜すてんばーい!」
浮いていた足を地に下ろし、腰から3対6本の太いツルが生え、勢い良く地面に突き刺さり、読んで字のごとく大地に“根” を張る。
金色の髪、その実極細の“ツル” である頭髪がざわめき、上半身を覆い尽くす。
繊維は折り重なり、外側に纏うはまさに金色の筋肉。
可愛らしい緑の美少女が突然金色の益荒男と変貌し、その様子に驚くが、興味深く見守る4人。
そしてもうそこまで来ている整地猪の鳴き声と木々を薙ぎ倒す破砕音。
金の益荒男と化したエルクラは慌てる様子も無く、上半身をひねり、左の手は手のひらを外に向けリラックス、右の髪を束ねた巨大な拳には力を溜める姿勢で構える。
─邂逅。
一行の元へと到達した整地猪は多少見慣れないものが進路を阻もうが薙ぎ倒して往くべく大地を蹴り、加速。
あわや衝突。リーフがもう駄目だと加勢するのをダイチはエルクラから目線を外さずに、手で制して行動を止めさせる。
ダイチの行動に驚き、反応が遅れ、「なにするの!」 と声が出かけたその刹那。
鼻の先端部が添えていた左手のひらに触れるよりも速く。 圧縮して抑え込んでいたエネルギーがバネの要領で弾け、渾身神速の右フックが猪の左牙を捉える。
猛烈なカウンターパンチを頂いた猪は物理法則を無視したかのように直角に進路を代え、勢い止まずに森の奥深く、空の彼方へと飛んで消えた。
その様子を確認できた金色の益荒男は居なかったかのようにシュルリ。 と繊維を解き、緑の金髪美植物少女が現れた。
「……ふい〜。まーこれで“折れた” からもうこっちには来ないでしょ」
「ちょ! ちょっと! エル! あんた達あんな事出来たの!? 初めて見たわよ!?」
「あんた達って言うより、“僕たち” はみんな出来るよ〜。 他のアルラウネ族はわかんない〜」
「ふぅーむ……極細の繊維を纏い “筋繊維” として自身の自衛手段に用いるのか……興味深い……ふむふむ」
「浪漫! これは浪漫あるでござるな!」
「パワーisパワーにゃあ……(感心)」
「……アレ盛大にぶっ飛んでったけど、生きてんの?」
「さ〜ね〜。大自然はキビシーのだ〜」
「……それもそうね」
ちょっとした交通事故もあったが、もうすぐ近いとの事なので特に気にすることも無く、ちゃっかり折れた牙は着服して進む一行。
そして、また突如ピタリとエルクラが歩みを止める。
「……来るね」
「来る」との発言を受けて更に警戒を強める一同の元に、森の奥深くから言葉が投げ掛けられた。
「止まれ。 そこより進む事まかりならぬ。交渉の余地も問答も必要ない。引き返すならば見逃す。無知ゆえに通ると啖呵を切り身の程を知って引き返すならそれも甘んじて見逃す。 死んでも通る、私を排除すれば良し─と、するならば。
一切の慈悲無く森の糧となるか……選べ」




