143ネキ 立って寝るタイプの寝袋
前回のあらすじ
「マスター、とりあえずおたより読まずに食べてもよろしいですか?」
「白ヤギさんかな? やめてね?」
―――――
おしr、否。 ケt、否。 ロ……ロッジの所に謎のお手紙が届いている頃、 タマと別れていつも通りの仕事(ギルドとかの難依頼等々)
をこなすべく、久方ぶりに訪れたエルフの森の─外れ。
“大森林”と呼ばれる方からは、離れの森林。
“仕事”をこなすべく、一同は「案内人」に会う為に木々をかき分け、進んでいた。
「あ〜ほんと久しぶりに来たって感じだわ……」
「しかし拙者結構ブンブン丸ですが、大丈夫ですかな?」
「あー良いわよ別に。適当に斬り払っちゃっても。 むしろこうやって元からあるけもの道を綺麗にしとけばちょうどいいし、どーせ帰りも通るもの」
「なるほど」
「森にとっちゃこんなの産毛を剃る程度の剪定よ。それにあっちこっち進んで荒すよりも、通る道決まってる方が森にも優しいわよ」
ダイチを先頭に、次にリーフ、そしてナハト、殿をケッタが勤め、人間枝打ちマシーンと化したダイチが時折剣をペン回ししたり、落ちる葉を3枚に下ろしたり、無駄に洗練された無駄のない無駄な動きの剣さばきにて、バッサバッサと通路が斬り開かれてゆく。
そして、指定された「場所」に着いたのだが─
不自然に大きなつぼみの植物があるだけで、誰もいない。
「……来てないー?」
「いや? 気配はあるにゃよ」
「……ふむ? リーフ」
「あー、多分ソレで間違ってないわよダイチ。ほら! 起きなさい! 待ち合わせしといて寝てるんじゃないわよそこのアルラウネ!」
リーフが大きなつぼみに近寄り、ぺしり! と軽く叩くと、つぼみがぶるぶると震え、ゆっくりと裂け、“中にいる者” が姿を現した。
「や〜。 ごめんごめん、もっと時間かかるものかと思って寝てたよ〜」
裂けたつぼみからは緑の肌の女性が現れ、裂けは彼女の腰で止まる。 上半身は女性、下半身は植物。
俗に言う、アルラウネという種族だ。
彼女の風体は、顔が見えないほど多く、地面に着くほど長い金髪の髪。
ベレー帽にも見える頭の斜めから咲いている大きくも可愛らしい花。
先程までつぼみの中にいたせいか湿っていて艶めく新緑の肌。
下半身は、球根の様な謎の植物。
「“案内人” ってあんただったの? エルクラ」
「おや〜? 懐かしい声だと思ったらリーフじゃないか〜」
「あいっかわらず、のんびりした話し方ねあんた」
「そっちこそ変わらず元気そうだね〜」
どうやら見知った中のようで、お互いに軽口とハイタッチを交わす。
「お友達かにゃ?」
「ん〜まぁ、そんなところかしらね。私たちの所、“エルフの大森林” の近くに昔っから住んでるわよ、アルラウネ族は」
「へー。仲良いんだ?」
「ま、どっちも森に住む者だし仲良くしてる……いや、“森アルラウネ” とは仲良くしてる。 が、正しいわね。“荒野種族” の方はなんかあんまり仲が良くないわね」
「なんでにゃ?」
「うーん……なんでって言っても昔っからそうだし……わかんないわ」
「荒野種との差異……ブツブツ……栄養……環境……見た目……アッ。 ……うん、別に火種を撒く必要ないな……うん……うん」
「ナハトあんた何ブツブツ1人で言ってんのよ」
「あー、いや。 いやぁー暑い! やっぱり暑いなぁー(棒)」
「そりゃそんなローブ着てりゃ暑いに決まってんでしょ……ま
いいわ。 さて、エル。 例の場所に案内してちょーだい」
「お〜け〜」
「ボソボソ(何か気がついたようでござるが? ナハト)」
「もそもそ(荒野種族は水分と栄養を溜める必要があるので森の方より豊満。 これ以上の明言は駄目)」
2人に見つからないようにゆっくりとリーフとエルクラの「とある部分」を指さすナハト。
それでダイチはだいたい察した。
「あー……まぁ、根深い問題なので拙者らがおいそれと介入して良いものではないで、ござるな。うん」
「……そうだね」
「栄養がなんだってにゃ?」
「あ、やっぱ聞こえるよね。ケッタには……とりあえずよく解って無さそうだし……ラークダのコブが無かったら大変だねって話」
「にゃるほど。 コブがにゃいと砂漠はつらーもんにゃ」
「そうだねー」
「そうでござるねー」
スルースキル、大事。
「あ、案内してって言ったけど……そういえばアンタたち、動けるの? まさか「案内人」とか言っておきながら……口頭?」
「いや? 動けるよ〜……よっこいせ」
おもむろにエルクラが下半身のつぼみに手をかけ、 ずるり。 と何ら人と変わらぬ足を引き抜く。
「「「足、あるの!?」」」(ござるか!?)(にゃ!?)
(あるんだ……)
「初めて知ったわよ!? え? エル、アンタあのつぼみってなんなの!?」
「家」
「家!?」
「ま〜、自身の一部だけど、人間が使うテントか寝袋みたいなもんだよ〜。抜けないタイプもいるみたいだけど僕らはその気になったら移動出来る感じ〜」
「えぇ……? 初めて知ったわよ……」
「あれ〜? 言ってなかったっけ〜?」
「言ってないわね」
「そっか〜」
「拙者アルラウネのお方に御御足が有るのは流石に知らなかったにござるよ」
「まぁ〜僕らは基本動きたくないし動かなくても良いからね〜」
「アルラウネはマンドレイクの近縁種、故に移動用の足が有っても確かに不思議ではない、新しい発見。メモメモ……」
「じゃあ早速案内お願いしたいにゃ」
「まかせて〜、ちょっと足早に行くから付いてきてね〜」
えいえいおー。と、意気込んでダイチ一行を案内し始めたエルクラであるが、その……なんと言うか……
普段全く使用しない足であり、尚且つ頭が重い重心バランスをしている為、てちっ。 てちっ。 てちっ…… と、まるでペンギンか何かの様である。 その様子は一生懸命で、非常に愛らしく、尚且つ相手方に悪いので、気を使って言いはしないが、一同同じ事を内心思っていた……
「「「「遅い……」」」」