137ネキ 平和的最終最強兵器
前回のあらすじ
タ⚪ンワーーーーーク!!
――――
大陸間の流通の一部を担う港町。
普段から賑わいと人の流れが盛んな町であるが、今日はいつも以上に賑わい激しく。
それもそのはず。何故なら本日は─
ぐっどもーにん。いやまぁ、もう昼ぐらいなんだけど。とりあえず祭りなう。
んー? 何の話かって? ほら見てくれよこのオサレ腕章を!
今日の俺はちょいと違うぜ〜。
……って言ってコレ以外もなんも俺普段と違うところないんだけどね!
まま、この腕章はゼットのおっちゃん……本人が
“俺ギルマスとか言われるのあんま好きじゃねぇんだよ”
とか言ってたんでじゃあ、おっちゃん呼びでOK? って聞いたら机叩いて大笑いでOKするんだもんよ。そんなツボる所かァ?
おっと腕章の話でしたね。これはアレだ。なんて言うか─
あっ。なんかイカのぽっぽ焼みたいな屋台発見! 突撃ィー!
「おじさん焼けてるぅ?」
「あい! 焼きたてすぐできるとこだよぉ! おおっ? お姉さん大きいねぇ!?」
「ん? そうだな? 自慢じゃないけど胸の大きさ自慢はできるぞ」
「アッハッハ! 成程こりゃ立派なもん持ってるわ。 かーちゃん数人持ってきても勝てねえな」
「せやろ? かーちゃんに聞かれたらシバかれんぞぉ?」
「おっといけねえ。 ちょっとまけるから内緒にしといてく……あ。なんだアンタ “雇い” かい?」
「そーそーコレな、聞いた話ツケ利くんだってな……えーと、“No.16” だってよ」
「あいよ。“16” ね。 ところで1本かい?」
「うんにゃ、美味そうだから2本く……
タマが本数を注文しようとするのに重なり、近くの人混みから怒号が飛び交ってくる。
「なんだオラァ!」
「あぁ!? 手前の不注意だろうが!」
タマが声のする方にチラリと振り返り、鼻で小さくため息をつくと、
「あー……わりぃ。ちょっと待っててくんね?」
「早速“仕事”に出くわしたね。ハハッ」
そう言い残しイカ焼きの屋台を渋々後にしたタマは人混みを掻き分け“仕事” 現場へと辿り着く。
「だから悪かったッつってんだろ!」
「そんな言い方ではいそうですか。ってなるわけねぇだろ!」
「はいはい通りますよー」
男2人から距離を取るように囲まれた人混みを抜け、お互いに胸ぐらを掴み言い合いをしている男の間に割って入り、強引に剥がして距離を取らせる。
「なん……うおっ!?」
「うわっ!?」
「はい俺が一旦預かりました。で、何が原因なんだ?」
「はぁ? アンタにゃ関係ないだ
「おい、ちょっと待て。この女、“腕章” 付だぞ」
「あん? 腕章?」
「は? お前知らないとか此処近くのヤツじゃないな? 臨時の職員だよ、ギルドの」
「人手いくらあっても足りないってすげーわかるから協力してんのサ。で?」
「ギルドの雇いがなんだってんだよ」
片方の男が割って入ったタマへと食ってかかろうとするが、もう片方の男が方を掴んで止める。
「あーやめとけやめとけ。そのニコニコ笑ってるねーちゃん、“銀色” だ。腕章の色ってランクと同じなんだよ、止めはするがそれでも食ってかかるなら俺知らねえ。この通り、反省するから見逃してくれねーちゃん」
「“銀”。……まーじかよ。 ……あー、うん。……俺も見逃してくれない……ですかね?」
「うん、俺も足踏まれたくらいで大人げなかったわ、もう水に流すからな」
「いや俺の方こそ謝り方が悪かったと思ってるよ。俺の方こそすまねえ」
男たちがお互いに肩を組み謝罪し、恐る恐るタマの顔色を伺う。
「えーよ。別に。好きにしろって俺も言われてるし、騒ぎが収まったならOKだろ。じゃ、俺食いたいもんがあるから……もうケンカすんじゃねーぞ」
「「あざーしたー!」」
そう言い残しヒラヒラと片手で合図をしつつも丁寧に人混みを掻き分け例のイカ焼き屋へと戻るタマ。……まぁ頭1つ高いのですぐ場所はわかるのだが。
「……口頭注意で済んで良かったぜ」
「……なぁ、すまねえが “雇い” について聞いても良いか?」
「ん、ああ。あんた知らないんだったな。此処はな、大物が捕れる度に祭りを不定期でやる風習があんのよ。“次も大物が取れますように” ってな。 まぁ起源はさて置き、いつやるかわかんねぇ祭りに対してギルドも常日頃から沢山の人員を置いとくわけにはいかねぇから依頼形式で冒険者から臨時のギルド職員として雇うんだよ。んでさっきの俺らみたいに騒ぎ起こすのに対応する治安維持ってわけ」
「成程、助かった。ありがとう」
「いーってことよ」
「なぁ、改めて謝るのと同時にアンタの名前も聞いて良いか?」
「お? いいぜ。俺の名前は……
―――……
うむ、美味い。 なんだこのイカ? スルメ? 剣先? うーんまぁ美味しければなんでもいいな、うん。
先程の屋台からギルド払いで串を購入し、舌鼓を打ちながら行き交う人々や祭り特有の賑やかな雰囲気を楽しむタマ。
先程のように出張って即座に解決するなら話が解るほうなのだが、まぁ、世間様にはそういうわけでは無いのもいるわけで……
「おい! なんだこの魚は! この店は骨の処理すらしないで客に出すのかぁ!?」
「お客さんそんなわけないから! だって刺さるような骨のある魚じゃないって言ってるでしょ!」
「はぁ!? 確かに俺ァ口ん中怪我してんだよ! この怪我はなんだってんだ!?」
「大方酔って自分で噛んだんでしょ! こっからでも臭うくらい飲んでるでしょお客さん!」
酒に酔って言いがかりをつける冒険者の男。酔っているが故に問答の堂々巡りにほとほと困る店主。
いざこざが続き、人が集まり始めもう何度目かの同じ文句に店主が困っていると─
「だから何回も言ってるでしょお客さん! いい加減にしてよ!」
「うるせぇ! じゃあ骨のないもん出せってんだよ!」
「だーかーらー!」
「ちゃーす。なーに揉めてるんすかねぇ?」
通りがけに騒ぎを聞きつけたタマが現れた。
ん? タマさんさっきのイカ焼きとまた別の物持ってないですか?
「美味い美味い。 なんだコレ、アジ? サバ? まぁ良いわ」
謎魚のフライ両手に店主へと事情を尋ねる。
「あー! 助かったよ職員さん! いやこの人がね、酔ってるらしく話聞いてくれなくて……」
「あ? なんだギルドの雇いか? 丁度いいところに来たな! いや何ってこの店が骨入りの危ねぇもん出すんだよ! 許せねえよなぁ!?」
「骨入り?」
「ちょっと待ってよ職員さん、ウチはそもそも刺さるような骨ある魚使ってないんだから確かめてみてくれよ!」
酔った男と店主の話を聞き両方を少し見て、
「その魚に骨が入ってんだな?」
「ああ! 話が解るねーちゃんじゃねーか」
「そんな……」
顔色を悪くする店主を他所に、肯定されたと認識して機嫌を良くする男の手元にタマが屈み、
ムシャリ。 と一口で件の少し欠けた魚フライを頬張り咀嚼、そして事態を呑み込めていない両雄を他所にゴクン。と飲み込み終えて、
「ん〜骨なんて無かったなぁ。大方酒くせーから手前で口ん中でも噛んだんだろ? はい解散解散、あ、おじさん美味かったから俺にも頂戴よコレ」
「このっ……女ァ!」
頭に血が上り思わず街中で剣を抜いた男を後目に、骨無し魚のフライを注文するタマ。
「あん? なんだやるのは構わねえが今手が塞がっててな。どーしてもやりてぇんなら良いけど、それなら一生もんの不名誉なあだ名付くことになんぞ?」
「うっ、うるせぇ!」
酔った勢いと引っ込みが付かなくなったことで凶刃をタマへと振り下ろした男。
チッ。と小さな舌打ちと共に剣筋を見切り口で咥えて受け止め、圧倒的な首の筋力で男の手元から剣を引き剥がし、勢いを殺さず身体を捻る。
強引に剣を奪われたことに驚き男の視界はタマの回転する背中を視認した次の瞬間。
頬に圧倒的胸部装甲による打撃を受けた。
質量×回転×力─その計算式がはじき出す答えとは。
=破壊力!
いわゆるちちびんた。を受けた男は脳を揺らされ一瞬でブラックアウトと同時に人混みへと吹き飛ばされる。
それと同時に綺麗に着地したタマは噛んでいた剣を吐き捨てて、
「おう。今日から乳で吹っ飛んだおめーのあだ名は“おっぱいさん” だ……あ今食うから四つくれ、美味いわソレ」
「あ、うん、ま、毎度……」
─その日以降、男の通り名は “おっぱいさん” と呼ばれるようになった。