127ネキ バナナフェスティバル
前回のあらすじ
あー! お客様! ダンジョン内は困ります! あー! 強制侵入は困ります! あーっ! お客様! あー! 困ります!
(AA略)
――――
「さてケッタ、だいたいの感じはどうでござる?」
「んー……多分まっすぐ進んでいーんじゃにゃーかな」
「あいわかった。まずは進んでみるでござるか」
ダイチに訊ねられたケッタは、ぐるりと辺りを見回し、なんとなく感じ取ったことをそのままダイチへと伝える。
「お、出口わかんのか?」
「いや、実際わかんないわよタマさん。けどケッタはなんとなくというか、不思議とこの子の言う方向に行けば大体次の階層行けるのよね」
「へー、野生の勘か?」
「チッチッチッ。猫感と言ってほしいにゃよ」
「成程ネッコ」
「ま、ケッタの言うことは実際外れないのが大概なんで信頼して良いでござるよ」
一行はこの鬱蒼と草木の生い茂るジャングルを進む。
「……蒸すわね」
「あぢにゃー……」
「……暑い」
「如何にもなジャングルでござるからねー。確かに蒸しますな」
「暑いか?」
「あ、タマ殿は平気なんでござるね」
「多少の寒暖はあっても不快に感じるほどなったことはねーな」
「汗ひとつかいてないタマさん凄いですね……」
「だって汗かかねーし」
「え」
「ほれ」
「……ほんとね。ちょっと羨ましいかも」
「リーフ、差し支えない程度に魔法で涼んでも大丈夫だと思うでござるよ」
「……それもそうね。“そよ風”」
リーフが魔法を唱えると、彼女の指先にピンポン玉ほどの半透明の“風球”が出来上がり、彼女はそれを自身のうなじへと浮かべた。
「あ゛〜……だいぶ違うわね。快適だわ」
「……おい」
「あーハイハイ、アンタたちの分もやるからそんな目で見ないの。ったく、ケッタはともかくナハトはそんなダブついたローブ着てるから暑いのよ……」
「これは正装だから仕方な……おお、良きかな」
「涼しいにゃー」
「まぁ、数時間は持つわよ。ダイチもほら」
「かたじけない。いやー風の魔法は便利でござるな」
「タマさん……も要り……ます?」
「うんにゃ。俺は平気だから大丈夫なんだぜ」
そしてしばらく草木を掻き分けて進む一行の前にとある果物の木が目に止まる。
「……バナナ?」
「タマさんの所だと“バ” が先に来るんですね、このナナバの木は……ッ。 あ、コレ違いますね」
「あちしがやるかにゃー」
バナナの木を見つけたタマをリーフが制止をかけ、ケッタが伸びをしながら一番槍を申し出る。
「良いにゃ? ダイチ」
「もちろんでござるよ」
「そいじゃー……ニャッ!」
腰を少し落としてボクサーのような空手のような、独自の構えを取ったケッタは一呼吸を置き、ふと、気がつけば木の前まで移動していた。 拳を一度木に添え、次はコツン。と優しく打ち付け─
すると、木がぶるりと震え、地中からは沢山の脚が。 幹からは隠されていた目などの顔が。
ボロボロに裂け枯れかけに見えていた葉は擬態を解き腕に。
「ボォァナッナーッ!」
特徴的な鳴き声と共にうっかり近寄った哀れな獲物を捕えんと、ソレは姿を現した。
「やっぱりにゃ。……せにゃぁ!」
ソレが襲い掛かるより早く、ケッタは先程小突いた箇所へと掌底を打ち付け、
「ボッ
「さいにゃら」
多少は怯んだものの、お構い無しと抱きつくように襲い来る多数の腕をするりとバク転で避けた後、ソレに背を向けたと思えば勝負は既に決したとの言葉を残す。
「おみゃーはもう、死んでいる」
「ぼ、ボぁ……どぉールッ!」
再度襲いかからんと体勢を改めたソレだが、一度、大きく痙攣した次の瞬間。 掌底を打ち込んだ箇所から豪快に爆薬でも仕込まれたかのように弾け、上と下の2つに泣き分かれる。
「“猫・音叉爆拳”」
(ここでやたらとゴツく漢らしい習字フォントが背後に出る)
弾けた上が地上に落ち、司令塔を失った下もソレを追うようにして崩れ落ちた。
「ヒューッ! かっけえじゃん!」
「いや〜それほどでもにゃーよ〜」
タマに称賛され嬉しそうに頭を掻きながらケッタが合流し、入れ替わるようにタマが事切れてはいるもの若干の痙攣をしているソレを興味深そうに観察する。
「おーなんだコイツ? 木かと思ったら虫だったのか?」
「蟲で当たってますよタマさん。“ナナバ蟲”って言って擬態蟲系のヤツですね。結構擬態能力が高くて魔物と解らずに近寄った冒険者が初見で大体やられます」
「……こいつ直ぐに襲わないから近寄って丁度後ろ見せた時に来るから質悪いよね」
「あちしらもう大体なんとなくで解るけどにゃ」
「なんか違いとかあんのけ? うひー断面きしょい」
「わざわざ蹴って転がさなくても……えっと、私だと“違和感”、ですかね……? こう、木じゃない。 みたいななんとなくですけど」
「あちしもリーフとおんなじかにゃー」
「ぜんっぜんわからん。ケッタは獣人だから鋭いけどリーフは野蛮エルフだから野生力高い……?」
「あん? 森の民バカにしてんのか?」
「おっとすまねえ(口笛)」
「ったく……」
「おーけ、大体わかった。襲ってくる木が虫だってことだな!」
「まぁ、そうなんですけど……」
「リーフ。この1匹以外にはいるでござるか?」
少しばかり周囲を確認してリーフが応える。
「いや、この1匹以外の気配は全然無いわね……いや。無くなったわ」
「ふむ?」
「コイツら1匹居たら数匹は林に紛れてるのはダイチも知ってるわよね?」
「もちろんでござるよ」
「確かにね、コイツ見つけた時は後何匹か居る感じはしたのよ。……でも今は全然しない。何か変よ」
「あちしも急に気配が減った気がするにゃよ。つーか周りに魔物の気配無さすぎじゃにゃーかの?」
「ふーむ。ケッタも同意見とは初回層から雲行きが怪しいでござるよ」
「道中なんも居ねーなら楽で良いんじゃね」
「あ、なるほど。そうでござるな」
「良いんだ!?」
「あ、ナナバ蟲の補足でござるが、蟲故に雑に欠損や寸断したところで直ぐには死なずに襲ってくるので注意でござる」
「ぬ? さっきケッタちゃん一撃だったぜ?」
「アレは幹の真ん中辺りに奴の急所の魔石があるからそこら辺吹っ飛ばすと綺麗にくたばるにゃよ。流石に人間でも頭飛ばされたらどうにもならない感じにゃ」
「……成程。 後で真似しよ」
「えぇ……? タマさんも“猫拳”使えるんですか?」
「いんや? 真ん中吹っ飛ばせば良いんだべ?」
「いやまぁ、そうですけど……」
「ダイチー、魔石回収おわたー。……死骸は?」
「うーん……スルーで良いじゃないでござるかね?」
「りょー」
そして一同はこの戦闘の後、一度も戦闘をすること無くジャングルを掻き分けて進み、小高い丘に祭壇が見える所へと辿り着く。
「お! 多分アレが次の“扉” でござるな?」
「ほんっとにアレ以降なんも無かったわね……」
「楽勝かー?」
「つまんにゃーの」
「……ん、あのなんつーか祭壇みてーなもんの周りに生えてる奴。……全部バナナじゃね?」
「……は? え? ……あっ。ダイチ?」
「わぁーお。リーフ、ドンピシャでござるよ。あのナナバ林、全部蟲ですな」
「まーじで?」
「すげ~にゃ」
そして。 見渡す限りのナナバ林がざわめく。
「ボ」
「「ボボ」」
「「「ぼぼボボボボボボぼボボボボボbbb……
林だった蟲達は、一斉に目覚め、擬態を解いて戦闘態勢へと移行する。見渡す限りの蟲。 蟲蟲蟲むしむしムシムシむし蟲むs……
「ちょっと……多くない?」
「ひーふーみー……めっちゃ居るでござるな!」
「……やるしかないかぁ」
「ばっちぇこーい!」
「おーおーおー。すげー数じゃん? せっかくだしここは景気づけに俺が突っ込んで暴れちまうか?」
「「「ボボボァァァナナァァァ!!!
準備を整えた蟲の津波が圧倒的物量によって侵入者を迷宮の肥やしに変えんと迫る。
「よっしゃやったるで!」
実はポーチの件で少々フラストレーションが溜まっていたので丁度よく晴らすべく突撃をかけるタマだったが……
「あ、“ナナバ蟲”だけじゃない! “ナナバ蟲モドキ”も居ます! 気をつけてください!」
「んっ」
「“チョットナナバ蟲”も居る。 ……毒が有る」
「“ナナバ蟲ジャナイ”も居るのにゃ!? 棘に気をつけるにゃ!」
「まさかの“ナナバ蟲チガウアデモヤッパナナバ蟲”も混ざってるとは骨が折れそうですな!」
「んんっ」
「えっ!? “ナナバ蟲ジャナイカモ”が居るわ! 嘘でしょ!?」
「おっアレは“ヤッパリナナバ蟲ダッタヨ”! 強敵……」
「ほげー! “ツマリナナバ蟲ダルォ” にゃ! やべーにゃ!」
「なんと! “ナナバアリナナバナシナナバナナバアリ蟲”でござるよ 気合い入るでござるな!」
「ちょっと待て。うん、ちょっと待て」
押し寄せる蟲に対応すべく武器を構えて臨戦体勢を取ったリーフたちにタマが待ったをかけた。
「どうしたんですか?」
「まーまーまーまー、皆下がって、そうそうそこ。衝撃に備えてー、ダイチ。余波が来たらなんとかしろな」
「ほう?」
ダイチたちを寄せて固めて物陰へと押し込める。
「……ッフゥー。ちょっと大声出すから耳塞いどけよー……」
何かリーフたちが言っていたがお構い無しにダンジョンの空を見上げ、腰を深く落として体重を調節し大地に根を張る。
腰は落として空は見上げたまま大きく、大きく息を吸って彼女の口腔へとヒィィィン……と光の粒が集まり─
ここまでの動作で察したダイチは皆をしっかりと隠し耐衝撃体勢を取らせる。
彼女の目が紅く、紅く輝いてそして。
チャージ完了。
「――スゥゥ…………バナナバナナバナナややっこしんじゃぁーーーーーい!!」
満を持して内閣総辞職熱線ばりに魂のシャウトでもって蟲の津波を更なる暴力で以って薙ぎ払った。
つまるところ、
大☆。
惨☆。
事☆。
─その様子を見てダイチがボソリと漏らす。
「これが本場のプ○トンビームか……」