120ネキ 店の奥って厳ついお兄さんポップするよな
前回のあらすじ
幸運保存の法則。
良いことと悪いことはバランスを取るかのように起きうるという。
皆は ひと の もの を とった ら どろぼう !
だからやっちゃ駄目だゾ。
――――
「さて、此処に無ーとわかったし次行くべ、次」
(あ、ハイ。……ところでソコに悶絶やら死屍累々のコイツらどうします?)
「うん? ……どーすっかなー? 別に俺は落とし前付けたし、もういいんだけどなー」
腕を組み、口を少し尖らせてどうしたものかとタマが少々思案し……
「うん、めんどくせ。放置」
(で す よ ねー )
「ま、後で片ついたら人でもなんでも呼んで此処の場所教えりゃ良いだろ」
(たぶん忘れ……いや、(忘れるオチが見えるっす))
「ぬ? なんか言おうとした?」
(えーとですね、早く取り返しに行きましょうって言おうとしましたっすよ)
「そうだな。案内頼むわ」
(了解っすー)
「じゃ、俺お前らが売ったとか言うところに取りに行くからもう悪さすんじゃねーぞー」
気絶をお構い無しで一言だけ残し梯子を上って去ってゆくタマ。
……起きた時、どうやって彼らは梯子登るんですかね?
……
…
――そしてちょっとだけ時間が進んだ別の視点の話――
「たしか聞いた感じだとここら辺?」
「そうね〜……“テンバイ商会”ってなんでも置いてあると謳ってる大きな道具屋があるはずなんだけど……あ、アレね」
普段の仕事(ダンジョン攻略)に役立つ道具を求め街を探索し、ギルドからそこまで離れていない場所に目的の道具屋を発見。
「結構近かったね」
「そうね〜何かいい物でもないかちょっと見ていきましょうか?」
「さんせーい」
「こんにち……
キィ……と、装飾の施されたウエスタンドアを押し、店内に入りかけた次の瞬間。
店の奥から轟音悲鳴と共に屈強な男共が次々くの字に店の商品棚諸共一切合切吹き飛ばしつつ店の壁ごと破砕して外の通りにきりもみで転がってゆくという珍妙な光景が2人の目に入ってきた。
「……はえ?」
「……ん?」
――――じかん が もどる よ! ――――
「……ここか」
“テンバイ商会”と書かれた看板のある建物の前に立ちまじまじと上から下まで眺めるタマ。
(此処で間違いないっすねー……あ、勿論押し入って“返せ!”って言われても当然返してくれないと思いますので穏便に行きましょう)
「穏便……ねぇ……ま、返ってくるならなんでもいいわ。とりあえず入るべ」
キィ……と、肩でウエスタンドアを押しのけて店内へと入るタマ。
店内の棚には日用品から探索者御用達の魔道具等々、所狭しと並んでいる。
(手っ取り早い方法は店員に金貨ジャラつかせて責任者を呼ぶのが良い方法っすよー)
「ん」
少しばかり中を見回し、店員のいるレジへとツカツカ歩み寄り、
「こんにちは! 針の1本から凄い魔道具まで! なんでも置いてあるテンバイへとようこそいらっしゃいました! 本日は何をお探しです……」
「良い道具袋探してんだよ、偉いやつ呼んでくんねーか?」
ジャラリと財布から雑に取り出された金貨混じりの銀貨の山を見て言葉を呑む店員。しかしそこはプロと言うか即座に対応を切り替え上客と判断し、来店時以上のニコニコ笑顔でタマの対応をする。
「はい! 道具袋ですね! それでしたらお客様のお眼鏡に適う物があるはずでしょうから是非とも奥の部屋に案内しますので少々お待ちください! 直ぐに上の者を呼んで参りますので!」
「む、そうか、じゃあ頼むわ」
「はい! こちらになります! 今すぐにでも責任者が出て参りますのでこちらに腰掛けて今暫くお待ちください!」
店員に案内された奥の応接室のような所に案内され、指定された座り心地良さそうで上等なソファにボサリと座り、店員が足早に居なくなったのを見届けると一段落着いた感じで大きく鼻で溜息をつくタマ。
(おいおいこんなトントンで行きそうなもんなのか?)
(まぁ、商人には金チラつかせるのが1番手っ取り早く上客だと認識される方法っすからね)
(そんなもんかねえ……で、偉い責任者とかが来たらどうすんだ?)
(えーとっすね、単刀直入に今朝仕入れた物を仕入れ値の2割増しで売れっていう作戦で行きましょう。 これで向こうは持ち主だと察せるはずですし、大事にしたくないならあっさり要求通るはずです……タマさんのお金は減るっすけど)
(いやぁ、俺いくら持ってるか分からんし、まぁ無くなったら稼ぎゃいーんだよ)
コーイチ(紙)とモソモソ念話をしていると奥にあるドアから例の責任者らしき細目でオールバックに整えた白髪混じりの初老の男が現れ、タマを見た瞬間悟られないほどにほんの少しだけ小さく眉をひそめて、
「……なるほど」
と、とても小さく呟いた。
「お、来たか」
(……できる)
「お客様、長らく待たせてしまい申し訳ありませんでした。私頭目代表のムッシと申します。私より上は居ますが立て込んでおりましてどうかご理解の程を頂き願います」
緩やかに、丁寧にタマにおじぎで挨拶をしたムッシは流れるような動作にてあっという間にタマの座っているソファの対面へと腰掛ける。
「ご理解でもなんでもいーんだけどよ、もう本題入って良いか?」
「はい。おおよそ予測は付いていますが取り違いがあるといけませんので是非ともお聴かせください」
「あっそ、じゃ言うわ。今朝仕入れた道具袋を俺に売れ」
「……おや、てっきり寄越せと仰るのかと……」
「あ? アンタんとこはなんであれ買ったんだろ? じゃあ筋は通ってるかは知らんが俺に売れ。買値の二割増で良い」
「大体の事情を察しながらもその振る舞い、その器、正直至極個人的な感想と申しましては私は感銘を受けます。しかし、それはできない相談に御座います。 頭目代表とは言え私も中間職であるが故に上の命には逆らえません。無理を承知で申し上げます、どうか運が悪かったとお引き取り願えませんでしょうか?」
タマに謝罪をするもムッシの目はそうは言っていない。まるでもう全て解っていると言わんばかりに何かを諦めて悟っている。そんな気がする目をしている。
「そんなことはどうでも良い。良いから黙って首を縦に振れと、俺が言ったらどうするつもりだ? ムッシさんとやら」
タマの毅然とした様子にムッシはああ、やっぱりかという感じで小さく溜息をついた後、パンパンと手を叩き合図を送る。
するとムッシが出てきた扉からゾロゾロと列をなして屈強な強面の男たちがタマの後ろ、周りにズラリと立ち無言の圧力を掛けはじめた。
その状況に少しだけ機嫌を悪くして片眉をひそめてムッシに答えを問う。
「……これから筋肉自慢大会でも始めようってのかぁ?」
「コレが、上の意思にございます」
「へぇ……」
(あっコレ駄目な流れだ)
「お嬢さん、せっかくの綺麗な顔してるんだ、台無しになったうえに強盗で衛兵に捕まりたくはないだろう?」
「内心ビビってるんじゃないか?」
「……(無言で立つ男)」
「……はぁ? なぁムッシさんよ、コレが俺の要求に対する答えでいいんだな? 覚悟ぉ……あんだな?」
大きく深呼吸して、フゥーー……と息を吐き出し、更に機嫌を悪くしてタマの声に段々とドスが利き始めた。
(はい無理ー! もう俺しーらね。 どうにでーもなーれっすよー)
「……はい。貴女の要求に対する返答がこちらになります」
目をそらすことなくタマの吸い込まれそうなほど綺麗な翡翠色の瞳を見据え、ムッシは言った。
それに対し、タマは一度軽く瞳を閉じて息を吐き、ゆっくりと見開いて、
「良いよ。全員纏めて掛かってきな、おねーさんが優しく撫でくりまわしてあげよう」
「……ッ!? なめやがって、後悔するなよお嬢さん!」
「この人数どうにかなるとおもってんのかぁ!?」
「……!!」
タマめがけて一斉に殴り掛かる男たち。
だから一斉に襲いかかるのは何回もダメだとあれほど言ったのに!
殴られようがなんだろうがお構い無しに一人一人確実に腰の入った横振りの平手打ち(掌底)を鳩尾に貰い次々に店の外へとカッ飛んでゆく。
そして現在時間軸は合流し、フン。と鼻を鳴らして手を叩いて埃を払うタマと、
その珍景に唖然としたリーフとナハトが〜、
出逢った〜。(ウル〇ン滞在記のアレ)