117ネキ 自分だけは大丈夫。 と思うのは大抵フラグ
前回のあらすじ
〜 港にて 〜
積荷を引き取りに来たギルド職員が船上の船長を発見し、手を振りながら呼びかける。
「お! マッキーさんじゃないか! ん? オタクんとこ自慢の大砲ぶっ壊れてるけど、もしかして噂のクラーケンにでもやられたのか! なんっつてな!」
「おー! 良くわかったな! その通りだぜ!」
「……は?」
「あ、そうだわ、ついでにこれも持っていきな。おい!」
「アイサ!」
マッキーが合図をすると船員数人がかりで巨大なクラーケンの嘴、カラストンビが運び出される。
「……は!? え!?」
「魔石は悪ぃけど使うからくれてやることはできんが、それなら売ってもいいぞ。片付けた証明にもなるしな、あ、足も要るか?」
「はぁ!? なんだこの馬鹿でけぇ嘴は!? え!? もしかしてマッキーさんそのクラーケン……」
「ああ。倒したぞ。(タマちゃんがやったって言っても信じないだろうし、手柄はくれてやるから面倒事も引き受けてくれって言われてるしなぁ。何よりこんだけ良いもんポンと貰っといてそれぐらいなら釣りが来るわな)」
「……マジかよ! 凄ぇな! こりゃ討伐隊に中止かけたほうが良さそうだ、すまん! 俺はギルドに戻るから別の奴に引き取りさせといてくれ!」
「おう。わかったぜ」
荷物の引取りを他の者に任せ足早に引き返す職員。
その様子を見てボソリとマッキーが呟く。
「なるほど、そりゃ近海にクラーケン出りゃ騒ぐよな普通」
「船長の感覚がズレてるだけっすからね。それに慣れた俺らもどっこいどっこいですけど。あ、足どうします?」
「出すとめんどくせぇからそのまま渡せ」
「了解でさ」
“キンガ号がクラーケンを討伐した”との話が早めに伝わり、てんやわんやしていた港は割と直ぐにいつもの落ち着いた忙しさを取り戻すこととなる。
勿論、乗船していた他の冒険者は一蹴りでクラーケンを沈めた女が居るなど他人に話しても当然信じないだろうと熟知しているので誰もタマの話をすることは無かったが、彼女のことを忘れることはそうそうないであろう。
――――
おっとごめんよー通るよー、っと。近寄って見た感じ家無し職なしでもなさそうなおっさんなんだけどな、アレ。
さて、気になったもんはしょーがねーからちょっかいでも出すかぁ。
人混みを丁寧に避け、路地裏へと入り、壁に背もたれ酒らしき瓶を片手にクダを巻いている男の前でしゃがみこみ、(ヤンキー座りとも言う) 声をかけた。
「……チクショォ……どうしたらいいんだよぉ……」
「何がどうしたんだおっさん?」
「……あ? ……なんだよねーちゃん、悪いけど俺ぁ好きでこうやってんだ……さっさとどっか行って1人にしてくれ……」
「ふむ……よっこいせ」
頬を人差し指でポリポリと少しだけかいて思案したかと思えば、タマは男の言う通りに立ち上がり、直ぐに路地裏から出ていってしまった。
「ったく……あ。もう酒も残ってねえや……」
永く大きな溜息をついた後、空瓶を虚しく揺らす男の前に再び人影が現れ、
「おかわり……要るだろ? ほれ、奢りだ。 愚痴なら聞くぜぇ?」
新たな酒瓶を持って現れたタマが、瓶を持ったまま器用にコルク蓋を親指で抜き男へと差し出し、自身も男の前に座り込んだ。
いきなり目の前に現れた女が酒瓶を差し出してきて少々混乱した男だが、それと同時に少しだけ心を開いたようで観念の溜息を吐き、少しずつ話し始めた。
「アンタ……変な奴だな」
「よく言われんのよ。それ……お、悪くねえなコレ」
タマの様子を見て、渡された瓶を少しだけ眺め、グビリ。と一口。そして驚く。
「……マジかよ! かなりいいやつじゃねえか」
「な? そこら辺で売ってた割にイケるだろ?」
「……悪酔いも今のでどっか吹っ飛んでいっちまったぜ。……こんな良いヤツをくれるとは尚更アンタは何者なんだ……?」
「俺? 俺か? そりゃわざわざ路地裏でクダ巻いてるおっさんに1本奢るくらいのただの変な女さ」
「……フッ。なるほど変な奴だな」
「だろ? ついでになんでそうやってんのか聞かせてくれよ、な?」
「……あぁいいさ、良い酒奢ってもらった礼にもなりゃしねぇがおっさんの愚痴でいいならたんと聞かせてやる」
「おう。酒の肴にしてやるぜ」
「……ハハッ。……まぁそうだな、見りゃわかるが別に俺は乞食でもなんでもねえ。普通の冒険者さ」
「それなりのカッコだからな、そうだとは思ってたわ」
「俺だって若い頃があったもんでな、昔は親の言うこともろくに聞かずに冒険者に憧れて突っ走ったもんさ。そんでやっとこさそろそろ親ん所でも戻ってやったほうが良いと今更気が付いてな、土産にボロい実家を良い家に建て直せるぐらいの金も溜まってたし明日にでも意気揚々と帰ろうとしてたんさ」
「そしたら?」
「財布とは別に袋に詰めて道具袋の奥にしっかりしまってたんだけどな、ちょっと前に市場で誰かとぶつかったんだよ。そんときゃ直ぐに謝られたから「おいおい気をつけてくれよ」で片付いたんだが……暫くして道具袋がやたらと軽い違和感に気が付いてな、こりゃぁアレでスられたって直ぐにわかったわ。いやはやよくスれたもんだと思いはしたがそれはそれ、今まで貯めた金が一瞬でなくなっちまった。……今までほっつき歩いてた詫びに大金持っていってびっくりさせてやろうとしてたんだが……まぁ、犯人探そうにもどうにもならないで途方に暮れて今のザマって、感じよ……」
「ッかぁー、おっさんツイてねえなぁ!」
「おうよ! ここまで来たらもう呑んだくれて笑うしかねえわ! アハハハ! ……はァ……ま、アンタに愚痴ったらだいぶ気分楽になったぜ。ありがとよ、名前も知らねぇねーちゃん」
「そうか、そりゃ良かったぜ。ところでいくらスられたんだ?」
「あ? まぁ……金貨90枚ってところだな、キリ良く100と行きたいところだったが十分過ぎるくらいだぜ、ま! 今は文無しだけどな……ハハッ……そら、もう充分だろ。酒と話聞いてくれてありがとうな、もう暗くなってくるから早く宿でもなんでも戻りな」
「んむ。それもそうだな、じゃおっちゃん、両手出してくれ」
「んあ? はあ、なん……ッ!?」
「ザラザラーっとな、パッと見多いか? ま、ええやろ」
タマの言われるがままに両手を差し出した男、その両手にタマが無造作に自身の財布から掴み取った金貨が男この手から零れるほど無造作に乗せられた。
「なっ!? アンタ、何考えてやがる!?」
「いやぁ? 別に俺は酒に酔ってうっかりお金落としちゃっただけだぜ? あーどうせなら親孝行するような良い奴に拾われてくんねーかなー! それだったらまぁ許せるんだけどなー(棒)。 じゃ、俺宿探しに戻るから、今度は腹にでも巻きつけておくぐらいでもしときな。じゃーなおっさん、もう盗られるんじゃねーぞー」
「あっ……おい……」
外からは見えないようにサッと掻き集めて男に渡し、残りの酒を一気に呷り起き上がって尻の埃を祓い男に背中を見せつつ手だけでじゃーなと合図をしてサッと立ち去ってしまった。
既に路地裏には男しかおらず、外からは見えないように男の陰には100以上の金貨が乱雑に拡がっていた。
1枚、金貨を拾い、眺め回し思い切り齧って少しばかり痕のついた金貨を見て、本物だと確信し、壁に背もたれもう夕暮れも終わり。夜になる空を見上げ、頬に一筋の涙が伝う。
それは哀しみの涙ではなく。
「……ッ。ありがとう……ありがとう……アンタの……名前は聞けなかったが俺は……アンタを忘れねぇっ……神様だよアンタァ……」
――――
うーい。 ちょっかいかけに行ったらお金スられて困ってるおっさんだったわね。
ま、俺金あってもそんな使い所ねえしなんなら以前マスターのオサレバーで現物払いできる? って聞いて「……できないこともないよ」って言われたんでどうせ沢山有るからミスリルとかオリハルコンとかドンと置いて帰ったら次の日、めっちゃ律儀にお釣り渡された(断ること許さなかったんで仕方なし)から俺の財布お金にどれくらい金貨有るかわっかんねぇ。
数えるのめんどくせぇし無くなったらないで考えりゃいいからって感じでやっぱり勘定面倒なだけだわ俺。
ま、死蔵してもしゃーないしお金は回すもんだよな。しょんぼりしてるおっさんが元気になるなら安いもんよ。
偽善? 独善? 知らねぇな! 俺がやりたいからやっただけよ。
お、もう少し歩いて見当たらなかったら人に聞こうと思ってたけど宿街みたいなの見えてきてんじゃーん。
その時。
ドン! と人混みの中から擦れ違うようにタマへと1人の男がぶつかる。 ……まぁ、タマはよろけずにぶつかった男のほうがよろけたが。
「あ? なんだ気をつけてくれよ? 困るぜおっさ……ぬお?」
ドン! ドン! ドン!(ブチッ)
よろけた男へと注意をしようとしたタマへ新たに3人ほどぶつかると言うよりはタックルと言っても過言では無い勢いで体当たりをかまし、そさくさと人混みの中に消え、注意をしようとしたが既におらず、最初の男も目を離した隙にどこかへ行ってしまった。
「ったく……なんだったんだ今のは。電車にでも乗り遅れんのかよ……ま、いいわ今は宿だ宿」
特に気にすることも無く宿が先決と近くの宿へと駆け込み運良く部屋が残っていたのでラッキーと喜びつつも、ふと就寝間際にてある異変にタマが気付く。
「……うん? あれ? 俺の飯ポーチ……何処行った? ……うん? ……まいいや、良くねえけど明日起きて探そ。探し物は一旦寝て落ち着いて探すのが1番だ。おやすー」
ま、朝探しゃそこらに転がってるじゃろ……zzz