番外ネキ ダンジョン今どうなってる?
─これはちょっとだけ。 でも大体適当な感じの先の話。
――王都と魔国の中間くらいに存在する“ゴーレムの巣窟”と呼ばれるダンジョン――
中間と言っても誤差の範囲で魔国寄りではあるのだが、お互いの王が
「どちらの保有ダンジョンでもない。強いて言うのなら“お互いの”ダンジョンである」
との触れ込みで存在が公表され、不思議と格段に安全性も高いダンジョンであることから様々なランク帯の冒険者が訪れることのできるダンジョンとして、大変賑わう人気ダンジョンとなっていた。
―とある冒険者一行の場合―
A「あークッソ! 今度は“中級”全階層突破できると思ったんだがなぁ!」
B「今回の失敗はボスのジャイアントクレイゴーレムが召喚したクレイゴーレムに囲まれたのが敗因だったな……」
A「汚ねえぞ! ただでさえデカいくせに子分たァ生意気な!」
C「次回は奴が召喚する際の動作を見極めて先に潰すべきだと私は提案するぞ」
D「俺も賛成だぜ〜? ところでみんな何失くした? 俺は靴が片っぽ失くなっちまった」
B「こっちは予備の剣が消えた」
C「私は……ポーションが数本失くなっているな……」
A「ん? 俺は……特に……何も変わってねぇが? ……ん? んん!? ゲッ! お、俺の財布の中身の金が……金が! 半分になってやがるぅぅぅ!?」
D「ウヒャヒャヒャ! おめーが1番ツイてねーでやんの!」
A「笑うんじゃねぇD! 笑えねぇよ畜生! 今晩の俺の飲み代がァ……」
B「Aもその程度で済んで良かったではないか。 しばし挑戦する階層を落として力をつけて出直そう。 こんな死なないダンジョンなんて他では有り得ないからな」
C「私もBに賛成である」
A「まぁ……そうだよな。 ……よっこいしょっと。ほんじゃ、今日は外の野営地に戻るかぁ……」
D「野営地つーか最近もう村から町になりそうだよな。此処」
A「確かに。 ところでお前靴どうすんだ? 跳ねて行くのか?」
D「いや俺靴予備持ってるから……」
A「なんで持ってんだよ!」
………
――それとはまた別の、とある冒険者の話――
やあ! 諸君! 俺俺! 俺だよ!
……え? 誰かって? そりゃ知らなくて当然さ! 俺はしがないC級冒険者のアドルフさんだからな!
いやはやしっかし此処のダンジョンも大きくなったもんだぜ……今やダンジョンに集まる冒険者目当てで商人やら何なら集まって外はちょっとした村だもんな!
最初に入った頃のしがない洞窟だった入口が懐かしいぜ……
っと。 しみじみ思い出に浸ってる場合じゃなかったぜ! このダンジョンにはとんでもねえ秘密があるんだぜぇ? しかも俺だけしか知らない特別な秘密がな!
さてさて、人目を忍んでやって参りましたのは“初級”の階層。 そこでやってきました行き止まり。 右を見ても壁。 左を見ても壁。 完全に行き止まりでなんもありゃしねえ! ……が!
……人の気配は……ねえな。 よし、ここの壁を押し込んで……そしてこっちの壁を強く押す! そしたらなんとビックリ壁が回って向こう側! するとその部屋でしばらく待つと……
「おや? アドルフさんようこそいらっしゃいませ。ようこそ、“マリエちゃんルーム”に」
一瞬暗転した部屋の奥からマリエが出現し、優雅なお辞儀でもってアドルフを迎える。
やっぱり居たぜマリエちゃん! やっほう!
「本日もお元気そうで何よりで御座います。ところで本日はどのような“御用件”で?」
「ああ。アンタに頼まれた仕事が順調だって報告だよ。こっから出てくる武器防具素材、それ目当てに商人がわんさか押し寄せてもう村ができちまってるよ。ほっといても数年後には町だなこりゃ」
「それはそれは重畳にございます。それでは今回の報酬、“ボロ財物”になります。 見た目はどうにもパッとしない小袋。 しかしてその実態は大容量のアイテムストレージになっております。しかも使用者認証機能付! 持ち主ご本人以外には途端にただのボロ袋になる安全のセキュリティ! そして持ち主から離れて時間が経つと翌朝には枕元に出現する安心の紛失対策! 今ならなんと中に金貨10枚! 勿論総額ですので実際は銀貨銅貨が相当量入ってますから他人から不審がられること無し! ささ、どうぞお受け取りくださいませ」
「お、おう。すげぇなんてもんじゃねえのをポンとくれるんだな毎回……本当にいいのか? と、いつも思うぜ……」
「何を仰いますかアドルフさん。 これはビジネスなのです。そう、仕事です。貴方は此処の噂話をどんどん広めていってください。 私はダンジョンの一部故、此処から出ることが叶いません。 ですがダンジョンに沢山の人が来てくださると私は事実とても助かるのです。はっきり言って来訪者を殺す必要は無いですからね。ですから安全は保証しますし冒険者に旨味を持たせてもこちらは潤っているのでご安心ください。貴方は仕事で人を呼び込むだけで良いのです。このようことを色々な方には頼めませんからね。信用が有ると認識してくださってもよろしいですよ」
「そ、そうか? 信用……信用か……」
自身の掌にある小袋をにぎり見つめるアドルフ。
そしてアドルフの肩に手を置き、そっと身を寄せたマリエが囁くようにして話しかける。
「そう。信用です。事実この部屋に辿り着けるのは貴方様しかおりません。これは紛れもない事実で信用の証明ということですよ……さてさて私はそろそろお時間ですのでこれにて失礼させていただきますが、また頃合いを見て此処にいらしてくださいまし。その時もアドルフさんの頑張り次第で素敵な対価を御用意していますので是非よろしくお願いします」
スカートの端を軽く摘み、優雅なお辞儀でもって暗転と同時にマリエが部屋から消える。
そして残されたアドルフは再度手渡された“ボロ財布”を握り締め、
「やっぱりダンジョンは人を食ってなんぼってわけか……最高だぜマリエちゃん。乗った。このアドルフさん、こんな良い仕事逃したとなりゃ冒険者なんて名乗れねぇぜ。化かされてても構いやしねえ。だって今本当に美味しい思いができてるんだからな。こんなこと他の奴にやらしたくねえぜ! さて今度は何処のギルドに飲みに行こうかなっ……と」
ゲートを通り、何食わぬ顔で外へと出る。
まさか俺がダンジョンと内通してるとは誰も気が付くことは無いだろう。
だって俺はどこからどう見ても違和感の無いCランク冒険者なのだからなぁ。
――――そしてアドルフが外に出た頃、ロッジルーム――――
「マスター、あと2、3時間で夕食ができるのでそれに合わせて製作室から出てきてくださいね」
「おーけーおーけー。……ん? マリエ、この匂いはもしかして……」
「新鮮な魔国産の炸裂人参、拡散玉葱、爆散芋が手に入りましたので、更に魔国冒険者から買い付けたスパイスと併せまして……」
「……カレーかな?」
「カレーです(ニッコリ)」
「林檎と蜂蜜よろ」
「イエス。 マイマスター」
「大ボスノ皿ニコッソリデスソースブチ込モウゼ!」
「いけませんよメタさん。それではマスターの菊門が血に染まってしまいます」
「チェー……」
「ほんっとにこの攻勢粘菌は今からでも早々に処分するべきなんだよなぁ……(白目)」
「ペットは大事には飼わないとダメなんだぜ! 大ボス!」
「おい早速カタコト崩れてんぞインチキスライム」
「あっいっけね! じゃあ……あるじーあるじーあr「それもなんか凄い危ないから駄目」
「ビュルビュルビュルビュ「駄目だっつってんだろ!」
「俺はムリル・トンテスペ! 俺g「はいもっと駄目ぇぇえ!水色で糸目は駄目だっ! 危ない! 危なすぎるぅ!」
「マスターとメタさん大変仲良くなって……私は嬉しいです(ホロリ)」
「ナカヨシー」
「待ってマリエ僕もうめっちゃ胃が痛い……キリキリしてきた……マジでやべぇよ此奴……」