番外ネキ 女神の伝説、その2
―――いつだかわからない、ずっと、ずっとさきのとくにオチのない話。
“火の国” 、またの名をランランチップ大陸。
その内の三大国家の一角、“王都アイダホ”。 しっかりと全部読みされることはあまり無く、“王都”だったり“アイダホ”だったりまちまちであるが、もっぱら“王都”で通じたりするそんな国。
その城下町。 更にその中の居住区。 古本屋。
今日も稀にしか客が来ないことをいいことに本棚から古本を読み漁る男。
彼の名はモリモリ・モーリ。 名前がややこしいので本人含めモリと呼ばれている。
歴史と古本好きが高じて集めていたらいつの間にか古本屋になっていたほどの趣味人。 副業でライター業をしており、独特の考察が面白いとのことで存外どころか副業でのほうが収入が何倍もあるとのこと。
今日も閑古鳥が鳴く店内にて、本を片手にカリカリと何か文を一心不乱に書いている。
“太陽の女神とその他の土地の神様についての考察”
著 モリモリ・モーリ
やぁこんにちは諸君、日が暮れているならこんばんは諸君。
今日私が考察する題材はズバリ“太陽の女神”と呼ばれている女神テマについてだ。
此処アイダホを東の王都とするなら西の王都と言っても過言ではない大都市、フカシ。 此処アイダホより女神信仰が遥かに強くフカシに住まう者はテマを知らない者は居ない。
まぁテマ神の活躍と逸話については誰でも知ってる絵本になっているほどなのでそれは省略しよう。 さてさっそく本題に入るとするが、表立って大々的には信仰されていないものの、“施しと賭け”の神として知られる女神、“トゥマ”神だ。
“賭事に勝ったならば惜しみなく他者にも自身の幸福を振り分けよ。分けた幸運は世界を巡り自分へとまた来るであろう” と、トゥマ神の教えに乗り、何かしらの形でもなんでも構わないので賭事に勝った際にはほんの少しでも他者に幸福を分ける。という風習が一般的に根付いている。
今では当たり前の風習であるが調べてみると太古の昔からあった風習ではなく、テマ神の伝説が始まった時期と同じくらいの時から発祥したものらしい。
“太陽の女神テマ” “賭けと施しの女神トゥマ”、名前が多少似通っているが姉妹神でもなんでもなく“単に似ているだけ”とのことが世間での常識だ。
だが、私は単に似ているの言葉にふと疑問を覚えてしまった。 確かに気になったところで実際どうでもいいしすぐに忘れてしまうような至極どうでもいいことだ。しかし私は気になったらとことんやり込むタイプなのでな。
丁度いいことに古代文献や本は腐るほどある。趣味が高じてよく分からない本さえあるから王都の大図書館にない物さえあると自負しているほどだ。
……だからって客が来るわけではないのだがね。
閑話休題、話を戻そうか。
まずは先に私の考察した結論から述べよう。
ズバリ、“テマ神とトゥマ神は同一人物説” だ。
……。
いや、待て、是非聞いて欲しい。
先程名前がそっくりさんなだけと言ったやもしれないが調べると面白い仮説が立てられたのだ。
基本神は創造神を元に更に光の神、闇の神、水、火、土、戦いや商売その他諸々……と、割と多かったり闇の神や死の神等々分担が被っているところが結構どころか多く存在する。
私は神を見たことは無いが魔法等はその分野の神に対価として魔力で支払い力を行使するのが基本なので存在はするのだろう。
さて、フカシのほうのテマ神の逸話は“気まぐれで人の世に紛れ混んでみたがそこの人々を大層気に入ってしまい、ある日突然溢れ出た魔物の氾濫から人々を死なせたくないために正体を現し人々を守った” が、神の身が露見してしまったために現界に留まることができずに帰ってしまったが、星を掴んで創り出した太陽の鎚と、悪抜きの影の伝説が今でも有名である。
今でも煌々と輝く鎚と、悪さをすると影に呑まれると聞く、実際にフカシの都市は何故か激烈に犯罪が起きにくい都市であり、フカシ近隣も何故か野盗などが存在していない。
実に不思議ではあるがこれは女神テマが消えた後も土地神となってフカシに居るのではないかということが窺える。
さて、今度はトゥマ神のほうであるが、実はテマ神ほどの逸話があるわけではない。
現在は行われてはいないが、遥か昔アイダホでは強者の集う力自慢の大会が盛んに行われていたらしい。 現に今でも博物館として建っている建物は昔闘技場であった物だ。
トゥマ神の話としては、“ある大工が妻のために贈り物を悩んでいて、相談した相手が実は女神であり「近々腕自慢の大会があるでしょう、私に賭けなさい。それで増やしたお金でとびきりよいものを妻に贈ると良いでしょう」と提案。宣言通り優勝し、自らは金銭に興味がないので全部他者に分け与え、消えた” というのがよく聞く伝説だ。 その伝説の大工と女神にあやかって、“賭けに勝てば分けよ”の風習がいつの間にか根付いていたらしい。
このトゥマ神の面白いところが、神殿など一切ないのに割りとポピュラーで誰しも知ってるということなのだ。
さて、全く逸話が違う二神、私は何故同一人物と仮定したのか、
それのヒントは実は別の大陸にあった。
“土の国”と呼ばれるシンシア大陸だ。
なんとその大陸のドワーフ属が住まう国家に上記のテマ神ではないかと疑える文献が残っていたのだ。
テマは土地神。これは当たり前の常識である。
しかし、彼女が移動していた痕跡が伝説となっていたなら?
と、突拍子もない仮定を私は立てた。しかし、その仮説はまんざら明後日のほうに撃ち込んだ弾丸では無かったようだ。
火の国と土の国、間に水の国の諸島が有るが、漂着島と呼ばれる今ではリゾートとして有名な島であるが昔は海賊島と呼ばれていたらしい。 由来は海賊が根城にしていた島だからとかなんとか。まぁ、現在はそんな面白い輩達は存在していないが漂着島の住人の先祖は実際に大昔海賊だったらしい。
さて、全く関係ないように見えるがこの島には面白い伝説が残っている。 “昔昔、悪い海賊だった先祖たちは海の神様の怒りを買い、散々に懲らしめられ悪いことができないよう反省の意味も込めて島に海賊たちを押し込めました。 船が壊れてしまっては海賊ができません。反省した海賊たちは改心して真面目に畑を耕して生活することになりました。改心して以降、島には神様からのご褒美として様々な物が流れ着き、島は発展しましたとさ”
と。
この神様であるが、実は女神様であるらしく、文献に残された姿の特徴が女神テマと酷似しているのだ。
テマ神は長身の長髪の女神である。 なんと漂着島の文献もテマ神とそっくりであったのだ。
そして更に、先日入手したトゥマ神の文献。
……いやまぁいつの時代か分からない旧い絵本なのだが。
その絵本に描かれているトゥ
マ神も長身長髪の女神であった。
そして更に止めの一撃、火の国と土の国の港町、ニョッキとバガディールに海の怪物を倒した女神の伝説がある。
100年に1度悪さをする巨大なクラーケンを打ち倒したという話だ。これもよく聞く御伽話で大型船より大きいクラーケンなど聞いたことも無いしこういう伝説でしか存在を確認できない。
さて、これらの全く関係のありそうで無い伝説だが、また1つ突拍子もない仮説を立てると、点と点が線になりとても上手く合点がいった。
─テマ神やトゥマ神は恵の神ではなく、純粋な力の神であったのではないか?
と、いう推測である。
テマ神やトゥマ神、漂着島や港町などの話は至極単純な 話彼女の武勇で解決されており、訳が有って大陸を横断し、ドワーフの国まで行く必要があったのではないか? と。
それならば一連の伝説に納得がゆくし、同一人物なのだから当然移動の軌跡が伝説として残っているわけである。
との理由から、私は太陽の女神と賭事の女神の同一人物説を唱えたわけである……が。
実際女神がなんのためにドワーフの国まで移動したのか? は全く知り得もしないしそもそも未だ鎚と影の伝説が根強く残るフカシから移動しているのか、土地神として祀られているのに?
等々矛盾や説明出来ない事も多々あるので本当に単なる私の一推測に過ぎないのだが。
更に調べてみるとフカシから少し離れた村にテマ神に姿が似た泉の女神像があったり……やはり移動しているのか単に女神は見た目が同じなのか? と謎は深まるばかりである……。
さて、これまで私の至極くだらない考察に最後まで目を通してくれた諸君、今回の話はどうだったかな?
似ても似つかない神を無理やり同一人物に仕立ててみたがなかなか面白かったであろう?
伝説はやはり伝説であるから面白い。 本当にあったことかもしれないか口伝のデマが残ってるかもしれない。
伝説とはそういうものだから面白いのだ。
さてそろそろ今回の考察スペースも残り少なくなってきたので次回の題材をさっさと述べて締めてしまおうか。
次回は “ご飯と卵に合う魔国産ショウユ十選” だ。
飯をよそって待っていたまえ、諸君。
では、さらばだ。