14ネキ 龍鉄咆哮
前回のあらすじ
食物をめぐるナワバリバトル
――――
「オアァァァァぁッ!?」
バリィッ!
「ウグオォォォォォッ!」
ばっりー
「オオォン! オオン!!」
ばりばりー
山頂に強引に何かを剥がす音と悲鳴が同時に響き渡る。
何があったのかちょっと時間を戻してみよう……
「ひと踏みで大地の染みと化してくれよう!」
そう言い放ち前足を振り上げタマを踏みつぶそうと迫る地竜。
一発言ってるけど起きた時に強者とかなんとか言ってたのにワンパン宣言とは?
あ? 自信がおありで?
俺にとってこの戦闘の一番の懸念はリュックなので、ファイト開始前にしっかりと遠くにぶん投げてある。
思ったより強く投げちゃったのでめっちゃザリザリ鳴りながら擦れていったけど、だ、大丈夫。……たぶん大丈夫……
おっといけね、もう目の前まで来てんじゃん。
腕を交差させて―――― 防御の構え!!
衝突。
甲高い金属音と同時にタマの足が少々地面にめり込む。
「ぬっ!? なに!? ……やはり強者だったか! フハハハ! 面白いぞ貴様! 我相手にどこまでもつかな!」
……こう、防御の構え!! なんてノリでやったけど……意味あるかって聞かれたら正直な話
無いよ。
そりゃ防いだほうがかっこいいよなぁ!
それだけで意味は無いけどやる価値はあるよなぁ!
実のところそういったカッコつけしい好きなんだよね。
いや違うわ 大好きだわ。
ま、という感じで必要はないけどなるべく反応して防ぐように練習しているのである。
こないだのワイバーン君みたいに不意打ちは難しいけどね。
「ふんッ」
「ぬおっ!?」
まだ踏まれたままだったので、力を籠め奴を弾き、バックステップで奴と少し距離を取る。
うーんジャンプするにしても意外に此奴デカいんだよなぁ。俺あんまジャンプ得意じゃないんだよねぇ……
10m程度は頑張ればできるけど、重いせいかそれ以上は力溜めないとすげーしんどいから登ったほうが楽。
どうするも何もいつものように歩いて近づいて殴るかー?
話に聞くスキルとか持ってるわけじゃないしな。俺。
後熱線は腹が減る。ここ大事。
「どうした? 仕掛けてこないなら、此方から攻めさせてもらうぞ? 我は早く飯が食いたいので……なっ!」
そして地竜が背を向けたかと思うと、自身の長く巨大な尾をしならせ、岩石の鞭としてタマに薙ぎ払いを行う。
「見えない壁!」
タマが受けると同時、猛烈な勢いで岩ごとお構いなしに粉砕していた尾がズドン!と激突し、止まる。
「いっつぅグゥゥゥ! なんだと貴様!不思議な技が使えるのか!? 魔力の流れすら見えんぞ!?」
自慢の一振りだったのか思いっきりぶつけた尾がタマで止まり、むしろ彼の尻尾の甲殻が剥げ落ちてしまい、攻撃した側がダメージを負っている。
そりゃお前ぶつけた相手が悪いわな、質量が違うよ質量が。
お前の尻尾が小指なら俺は箪笥ぞ? 痛くないほうがおかしい。
……あとごめん。なんか勘違いしてるけど技とか使ってないねんな、パントマイムで「壁」ってポーズ取ってただけなんすよ。
なんかほんとごめん。
お前の尻尾でも微動だにしない俺がおかしいね? ちょっと自身の重さどうなってんだろうねコレ。
できればそこんとこ神様に機会があれば聞きたい。閑話休題。
「得体の知れぬ奴だ。……もういい、貴様が何者だろうと構うのが面倒になった。我の吐息で塵と果てよ!」
えー。焦って短期決戦で消し飛ばしてやろうって思ってるな? 構わん。仁王立ちで受けてやr
あっ。
そういえば後ろぉ! リュック!! 俺の後ろにリュック!! 今から奴の口塞ぐか!? いや奴のほうが遠い! しかももう息思い切り吸い込んでなんか吐く準備してるぅ! ええい! どうする!? どうしよ!? とりあえずリュックに走れぇ!!
次の瞬間。
「地龍咆哮!」
地竜の口から放たれるは
砂嵐などそよ風と比喩しても尚対比できぬ砂塵の吐息、射線上の岩石すら一瞬で跡形もなく削り飛ばす極小の束ねられた砂嵐。 巻き込まれた土砂岩石も混じり吐息は更に凶悪性を増す。
「うぉぉぉぉぉぉぉ! 間に合えぇぇぇぇぇ!」
俺、全力ダッシュ。
悲報。
俺、足がそこまで速くない。
漫画のような瞬間移動スキルでも欲しかったこの頃。
―――――ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉゥ。
…………。
吐息の痕はスプーンで抉り取られたアイスクリームが如く、抉れてしまい、山の縁すら容易く貫通。
地龍の眼前には見晴らしの良い空が見えるのみ。
大量に巻き上げられた土砂埃が暫くして降り注ぐ景色は土砂色の冬景色であった。
「……クククククク。やはり龍たる我に敵うはずもなく。先の奴の得体の知れなさに一瞬でも慄いた我が情けないわ……奴は強者やも知れなかったが、我よりは弱者だったのだ。
ほれ。このとおり我の吐息で塵も残っておらぬわ! クハハハハハハハハハハ!」
高らかに勝利宣言をし、勝利の愉悦に浸る地龍。笑い続けている最中、ブレス跡の溝に不自然な物を見つけ、笑いを止める。
「ハハハハハハハ! ……ん? なんだ? 我の息で残る岩でもあったのか?」
そして。
その岩らしきものにかぶっていた土砂粉がずり落ち、中に居た者が見え、目を見開く地龍。
「なっ……我の吐息を受けて霧散していないだと!? ……馬鹿な!? 有り得ん!」
うずくまった姿勢のまま動かないので、霧散せずとも相当のダメージを負ったと見る。
「クク、«地龍咆哮»で生き残った事は素直に褒めてやろう……が。もう貴様すでに瀕死ではないのか? なぜ立ち上がりもしない? やはり瀕死なのであろう?」
「……て…………よ」
「んん? 虫の息で何か言っておるのか? クク、もっとはっきり申してみよ。んんー? どれ……慈悲で一思いに仕留めてやろう」
うずくまっていた体勢からゆっくりと立ち上がるタマ。
そして彼女の抱えている物から何かがポトリと落ちた。
「ど……して…………く、るん、よ……」
うつむいたままボソリと呟く。
「お? 貴様立てるくらいの元気は残っていたのか。どれ、今度こそ踏みつぶして……」
ズシン、ズシン。と近寄り、タマを踏みつぶそうと近づく地龍。
その間も、タマハはボロボロの何かを抱えたまま、俯いていた。
「少し肝を冷やしはしたが、なかなか面白かったぞ。最後に名くらいは聞いてやる。貴様、名をなんと「どうしてくれんだよォ!!」
「!?」
「お前ェ! どうしてくれんだよ! 見ろよ! リュックの片方の帯も取れて全部ボロボロじゃねぇかァ!」
「怒られるのお前じゃねんだぞ!? 俺だぞ! 、お! れ! これが理由でアイツ怒ったら精錬とか渋ってやってくれなくなるかもしれないんだぜ!? それになァー! 人からの借り物をこんなにしたら俺の信用落ちるだろうが! こんな便利なの俺持ってないんだぞ!!
畜生! 弁償も出来ねぇしマジで説教コースだよコレ! うわああぁぁぁぁん!」
いきなりキレてからの後半半泣きである。声が震えてるのは説教はどこの世界でも辛いのは変わらないからで有ろうか……
半ばヤケクソでもリュックを壊さないように地面に叩きつけ、ほぼ踏まれる直前まで来ていた地竜の爪をがっしりと掴み──
「ぬお?」
ビッタァァァァァァァン!!
「!!? グフッ……」
力いっぱい持ち上げ、背中から勢いよく地面に叩きつけた。
もちろん、1回では終わらない。
ビッタァァァァァァァン!
「グアッ!?」
ビッタァァァァァァァン!
「ガフゥッ!!?」
ビッタァァァァァァァン!!
ビッタァァァァァァァン!!!
ビッタァァァァァァァン!!!!
ビッタァァァァァァァン!!!!!
「……!!」
「お前も、リュックと同じにしてやらァよ!」
目がヤバい。 ハイライトが無い。 そんなにロr……ヒゲのマジ説教はキツいのだろうか。
たぶんおやつが減るのが一番の被ダメージ(精神)かもしれない。 多分そう。
ビタタタタタタタタタタたたたたたたたたたたたたたたたたーーーーーーーーーーーーん!!
フルコンボだドン!!
─そのまま太鼓ならぬドラゴンの達人は地龍から泣きが入るまで続けられた。
そして。冒頭に戻るのだが。
「いや本当に調子乗ってホンマすいませんでした……」(ボロボロの満身創痍)
「まだ鱗残ってんだろぉ」
「え? もうそんな残ってないっすよ。勘弁してつかぁさい……」
「こことか。あんだろっ!」
バリィッ!
体表に残っていたり、腹側に有って比較的綺麗な鱗をタマが強引に引っぺがす。
「ギャース!」
「オラッ!」
ベッリィ! デカいのが剥げた。
「おぎゃーーーーー!?」
「お、なんか逆向きのよさそうな鱗あんじゃーん。よっしゃ剥ぐぜ剥ぐぜ」
「あ、ちょ、其処は敏感な逆り「シャオラ!」
バリッバリバリィ!
「もんげーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!???」
地獄はまだ続く。