113ネキ 開幕場外されるのは大体噛ませ
前回のあらすじ
タコ! トラ! バッタ!
タ・ト・バッ・タトバ・タ・ト・バッ!!!!
――――
ガクン! と船が大きく不自然に揺れる。 波のせいではない。
「おうっ? なんだ?」
「うわわっ!」「きゃっ」
「ぬっ」
多少バランスは崩したものの、転倒することなく堪えた冒険者一行。
船外へと通じる扉が蹴破られる勢い、と言うか本当に蹴破られてドアと一緒に飛んできたマッキーが怒号を発する。
「ほぉーらやっぱり何も無いわけねぇんだよなぁ!? 野郎共! 好きな配置に着きやがれ! 今日のお客様はすげえぞ!」
「「「アイアイサー!」」」
多少動揺はしたものの、船長の鶴の一声により、ある者は武器を手に取り、ある者は砲座へ、各々すぐ近場の配置を完了し迎撃準備を整えた辺り流石トラブル慣れをしている海の漢とでも言うべきだろうか。
それと同時に海面がせり上がり、黒く、巨大なお客様の姿が現れた。
全身が漆黒、2つの黄色い瞳がらんらんと輝き、胴体からは耳の要領でちょこんと蝙蝠の羽のようなヒレが特徴的な、とても大きい、大きい、巨大な、蛸。
(余談ではあるが一定以上の大きさを超えると蛸でも烏賊でも“クラーケン”と呼称される。)
「おーおーおーおー、流石の俺様でもお前みたいなデケェのは初めてだ。こんな大陸近海の何処に隠れてやがったんだ? まぁいい、取り敢えず大砲が向くやつァぶっぱなせ! ついでに信号弾撃ち上げときな! 運が良けりゃ増援だ! ま、期待はするんじゃねえぞ!」
マッキーの号令からほぼノータイムで巨大蛸の顔、胴付近へと発射の爆音響かせ大砲が着弾、炸裂。
「……ちっ。 まぁ、お前の図体じゃあ豆鉄砲か」
煙が晴れ、巨大蛸の姿が見えるも、大して効いた様子もなく、“なんだ。この野郎鬱陶しいな” ……と言わんばかりにちらりと一瞥、適当に目についた甲板の面子へと、腕を1本海上へと出現させ─
その黒く巨大な腕をしならせ叩きつけるべく、ゆっくりとだが、しかし確実な破壊を伴う暴威が振り下ろされた。
「おい! 1発きやがるぞ! 当たるところにいる奴ァ逃げろ!」
マッキーが注意を飛ばすもそれよりも黒腕のほうが早い。
「増幅!」 「防壁!」
咄嗟に魔法使い組が防御魔法を唱え、半透明で球状の巨大な壁を召喚。
間一髪受け止めることに成功。
「おお! ケラス殿にセレソ殿、やりますな!」
「いや、僕はセレソの魔法を倍にしてるだけですから……」
「け、ケラスぅ〜……う、上見て上……ちょっと、2発目は無理ぃ……絶対割れるから私抱えて……逃げてくれない?」
セレソが小刻みに震え始める。
杖を両手で掲げ、防壁を展開したまま黒腕を防いでいた彼女だが、防がれた壁をそのまま圧倒的な力で締め付け始めたクラーケンにより防壁に亀裂が入り始め、防壁の向こうには新しい黒腕を斜めに振り下ろすクラーケンの姿が。
「あっ」
「ぬっ!?」
「うん?」
─振り下ろした2本目の腕が派手な音をたてて防壁を硝子のように粉々に砕く。
冒険者一同も指を咥えて見ているだけではなく、振り下ろされる直前にケラスはセレソを抱えてダッシュ。
ジアン組も素早く腕が降ってくる場所から回避。
間一髪避けることに成功する。 が。
「うおぁ!?」
腕を組み顎に手を当ててどうやってコイツ絞めたろかと思案している時に出現した魔法防壁を眺めて1人静かにめっちゃ感心してたタマはボサっとしており、回避行動を微塵もとっていなかったのでとても綺麗にぶっ飛ばされた。 それはもう綺麗に真横に飛んでいった。
「タマさん!?」
「タマ殿!」
派手にぶっ飛ばされたタマは空樽置き場へとシューッ!
エキサイティングな程置き場はグッチャぐちゃになってしまったが運良く樽がクッション代わりになったらしく、船外までとばされずに済む。
「あービックリしたわ……めっちゃよそ見してた」
「タマ殿! 無事でしたか!」
「ん、まあなー! ちょっとビックリしたがこの通りピンピンしt……」
その時─タマに電流走る。
立ち上がろうとして自分が飛ばされた場所が何処なのか気がついてしまった。
糸が切れた人形が如くゆっくりと膝から崩れ落ち、そのままドサリと床へタマが倒れ込む。
「タマ殿!? やはり相当なダメージを!?」
「ジアンさん! 上! 上!」
「うむぅ! 単純な攻撃が大きいというだけでこうも脅威とは!」
初めの1本目の腕が動き出し、再び冒険者たちへと振り回される。
この間も船員からの砲火をしたたかに浴びているクラーケンだが、気にもとめずに壁を出した生意気な小さき者へと攻撃を行う。
どうやらさっさと沈めればいいものを、わざとやらずにどうしても自ら潰したいらしく、狩りを楽しんでいるようだ。
ーー
「キンガ砲は使えるかぁ!」
「駄目です! 腕の1本に覆われて旋回利かねぇうえに今撃ったら暴発の恐れがあります!」
「だァークソ! アレ吹かしても動きゃしねぇしどんだけがっちり組み付いてるんだこのタコ野郎!」
――
「せいやっ!」
腕の動きを予想し、ジアンが飛ばした斬撃が命中。
「……硬い! ……なんと!?」
腕の3分の1を切断し、少々怯ませることには成功したのだが、切断面がゆっくりと逆再生のように塞がってゆくほどの回復力を目前にし、流石に驚きを隠せなかった。
「スライム並の戻り方ですねこれ……いくよセレソ! “共鳴”!」
「りょーかーい。すぅー……“|落雷撃《サンダぁ〜……ボルトぉぉぉ!》”」
一呼吸を置き、晴天から降ってきた雷撃が再生を終えた腕に吸い込まれ─ 凄まじい落雷が襲う。無音かと思いきや一拍遅れにて
“ガカァン!”と空気を切り裂く大轟音。
「ウェァ!?」
クラーケンが思わずたじろぐ程の威力の雷。
あまりの電圧に直撃を浴びてしまった腕はぬめりのある艶やかな黒腕から一瞬にてぶすぶすと焦げたゴム臭い黒腕へと変貌する程。
「おお! やりましたか!?」
「はぁー……はぁー……も、もぉ〜むり。ある分結構使っちゃった……」
「ぜぇ、はぁ……じ、充分だよセレソ。これならアイツも流石に応えたは……」
「う、うっそ〜ん……」
「これは……!」
腕を1本黒焦げにし、暫く直立させたまま放心して怯んでいたかと思ったが、黒焦げになった腕が不意にブルブルと震えだし亀裂が入り─新しい腕へと再生脱皮した。
――
るーるーるー。
お、俺の……俺のマイベストプレイスが……
ば、バラバラに……
ぐったりと床に突っ伏して絶賛メンタルブレイク中のタマ。
脳裏にはささやかな幸せの日々が走馬灯のように駆け巡る。
ああじゃない、こうじゃないと樽の位置を微調整し、貸してもらった毛布を重ね、これじゃ駄目だあれじゃダメだと、うんうん唸って
遂にたどり着いた神配置。
アレはもう二度と再現するのは不可能であろう。それほどに樽と布のバランスが最高であった。
樽子ぉ……樽夫ぉ……
樽子……あんな無残に砕け散っちまって……樽夫……お前なんか原型ないじゃないかよ…… いやこれだったっけか? ……どれが樽子樽夫だったかな……まぁいいや。
名前付けといてその仕打ちはどうなんすかね()
くそう、俺の昼寝場所をこんなにしやがってあのタコ野郎……なんかだんだん腹が立ってきたな畜生。
いや、めっちゃ腹立ってきたわ。
ムカチャッカマンインフェルノぉぉぉぉう ってヤツだぞコレ。
(ちょっと違う)
しょげてる場合じゃないなこr “ガカァン!” おうふ!? 雷かよビックリしたわ! おっしゃ行くぞ! って感じだったのにも〜出鼻くじかれたよちくせう…… よっこいしょ……「おい! このタコやろう! よくもやりやがったな! おい! お……」
……あ、俺めっちゃ無視されてる。 あ、うん。
「おい! 聞こえてんのかタコ助!」
……。
あっ。 ふーん…… そう。 ふぅーん……
――
完全に再生を完了し再度ブルブルと震え始めたクラーケン。
「ヴ……」
「「「ヴ?」」」
「ヴェアーーーーーーーーーーー!」
突如、周囲の空気を震わせるほどの雄叫びを上げて怒り狂い始めた。
「めっちゃ怒ってる〜!?」
「セレソ! 魔力はどれくらい回復したかい!?」
「“防壁”1回分くらい……だけどあのタコさん絶対私狙ってくるよね? 2本でもキツいのに倍になったよ。腕」
「うぬう! これは些か窮地ですかな! 次を考えなければ一、二本は斬れるやもしれませんが……」
蠢く黒腕が4本。 踊るように見せつけ、“今からお前を叩き潰してやる”とアピールする。
「ジーーエーーーーーーーーン!」
さあ行くぞ! とでも言わんばかりの咆哮と共に巨大なしなる腕4本がセレソ狙いをつけ「ぅオイィィィい!」
「ヴェア!? ナンドル!?」
クラーケンの咆哮よりも大きく叫ぶ者の怒号により皆の注意が一斉に惹き付けられる。
それは紛れもなくヤツだ。あいつしかいない。
「おめーよォ! 初っ端ぶっ飛ばしといてよォ! 俺さっきから呼んでたよな? 呼んでたよなぁ!? なぁ! よぉーしこっちやっと見たなお前! 今からお前の罪を自分で数えろ! その分だけしばいたらァな!」
無視られたのが結構応えたようだ()
ともあれ、タマ、復活。
これより大怪獣バトル、勃発。