番外ネキ 幼女に軍服は何故似合う?(後編)
前回のあらすじ
テコマコマヤコソテコマコマヤコソ可愛い姿にな〜……
甲虫王者ムシキ⚫グ!
――
「ぬふぅ!?」
いつものダンジョン掃除中、突然膝から崩れ落ち地面に手をついたダイチ。
「え、急にどうしたの!?」
「……罠? の様子じゃないみたいだけど」
「悪いもんでも拾い食いして腹痛でう⚫こ出そうにゃ?」
「大丈夫……拙者毎日モリモリビッグ・ベンでござるよ……」
「……言ってる意味が解らないけど上品な意味じゃないのは察するわ……」
「リーフは草ばっかり食べるしおかげでお通じ抜群だもんね? あっ、そもそも平らだからお腹出てきたら目立つし……ね?」
「よーしその喧嘩買ったわよぽんぽこ魔族。いいわ、そのローブの下の腹のたるみと精神叩き直してやる」
「フン、肉付きがいいと言うんだこのスレンダーさんが。いいだろう、相手になってやる」
ナハトが世紀末覇王の闘気を醸し出しつつ、人差し指で緩やかにちょいちょいとアピールして煽る煽る。
「OK。ヤル気満々のようねムチムチさん」
対するリーフも世紀末救世主の闘気を発して首と指をパキポキと鳴らしてウォームアップを行う。
「……」
「……」
空気が歪むほどの緋色と碧色の闘気が激しくぶつかり合い、うねり、お互いゆっくりと歩み寄り……
LADY……
FIGHT!
「ヌゥん!」
「フンッ!」
お互い特に開始を相談したわけではない。が、お互い当然の如く同じタイミングでけしかけ、お互い両手を組んで手四つ。
今、凄くしょーもない世紀の決戦の火蓋が切られた!
「……で、本当はどうしたんだにゃ?」
突っ伏すダイチの横でしゃがみこみ、指でダイチを突っつきながらケッタが尋ねる。
「拙者の第六感が何処かで凄く見ないと損をするようなことが起きている気がする! ……でござる」
「ふんふんふん……そっかー」
多分その猫言ってること全然理解してないと思いますよダイチさん。
「ところでダイチ」
「はいなんでござろう」
「アレ……止めるにゃ?」
ダンジョンそっちのけで、空中で蹴りの応酬を交える2人。
「拙者リーフを押さえるのでナハトをお願いしたい所存」
「まかしときー」
今日も平和なダイチ一行であった。
――――
「さて、待たせたな虫共」
と、言っても飛び上がってから普通に着地した間に着替えただけなので実際は一瞬なのだが。
しばらく滞空してのキラッキラの変身?
そんなもん横槍フルボッコ貰うに決まってんだルォォ!? いい加減にしろ! 見せ場の都合で長く見えてるんだよ!
閑話休題。
「まーたダイチの奴が要らんこと吹き込んだなこりゃ………む? 殻は何処やったんじゃ」
「ん」
ぎーとが指さした先には何処のご家庭にも1台はあるであろう大型貨物コンテナ。そして、無限軌道が付いていた。
え? コンテナを知らない? 船着場とかでよく見る長大な長方形のアレですよ、アレ。 え? 無限軌道? 一家に1台はあるキャタピラ履帯をご存知ない? そんなまさか!?
そのコンテナが観音開きで開いたかと思えば、ぎーとの身長半分ほどで兵隊服姿のちびぎーとたちが靴音高らかにゾロゾロと出現し、あっと言う間に隊列を組み終える。
「まーお前さんの無茶苦茶っぷりは飼い主に似たもんだと思ってるから大して驚きゃせんが……お、あちらさんも丁度向かってきたぞい」
「う~い。任しときな」
俯いて帽子を深く被り直したまま、カツンッ! と踵を鳴らせば即座にちびぎーとたちが隊列を変え、身長に合わせた9mm弾頭の突撃銃を構え、
「FIRE」
ぎーとの合図と同時に巨大甲虫へと発砲。
機銃による暴風の如き弾雨を浴びる虫たち。 だがしかし、
「……チッ」
「カッーッ! やはりアイツらべらぼうに硬いのー!」
突進の勢いは弾雨により幾分かは落ちているものの、持ち前の装甲で弾丸を全て弾きつつ、じわりじわりと確実に侵入者へと迫る2匹。
「近くにいたら危ないだろうし、ワシ逃げとくぞい」
「ああ」
助力が要らない事を知っているガンテツは巻き込まれては大変と、スタコラぎーとから離れ、避難を終えて叫ぶ。
「いいぞー!」
ガンテツの合図がある頃には、なおも弾雨をものともしない2匹がぎーとたちの目前へと迫り、ダンジョンの糧にすべく襲いかかった! ……が、
「遅ーっての……おっと、“vice”! さて、豆鉄砲がお気に召さないならデカいヤツをくれてやろう」
間一髪、2匹の攻撃をコンテナの中から伸びた謎の巨大な2本の鋏が受け止めそのまま押さえ込み、身動きをさせないまま、ゆっくりと鋏の持ち主が姿を現した。
「お? 見たことない奴じゃの?」
ガンテツが鑑定鏡を通して虫たちを押さえ込んでいるぎーとを観た。
――
“屠殺宿借”
ヘスン・ジャイシュ種の殻内に住む新種のハーミット。
片方の鋏は獲物を絶対に離さないように進化しており、自身の躰より何倍もの強度を誇る、もう片方の鋏は別の形状になっており、限界まで圧縮した自身の筋肉を用いて自らの甲殻でできた杭を獲物へと発射することに特化する。
1度その捕縛用の鋏に捕まってしまうと、健により抑えられていた暴威の一撃を打ち込まれるまでは解放されることは無い。
――
「……えっぐぅ」
虫たちのこれからを悟ってしまったガンテツは、可哀想な2匹に南無三を唱え、
「そいつたちは腹の下の中心よりやや上が弱点じゃよ」
しれっと弱点を教える。 まぁ、殺るか殺られるかのダンジョンだしね?
「さんきゅ。……さて、じゃあプレゼントといこうか」
難なく虫たちを持ち上げたぎーとたちは、先程ガンテツが指示した部位へと攻撃用の鋏を添えて……
「IMPACT」
破裂音とも打撃音ともつかない鈍くも非常に重々しい何がが潰れた音がダンジョン内へと響く。
打ち出された杭は腹部を貫いて背中へと現れた後、ズル……ズル……とゆっくり鋏内へと戻ってゆく。
「うひっ!?」
ついでにガンテツも想像していたより音がエグくてビクッと反応して飛び跳ねてしまった。
動かなくなった虫たちはボルトピストルぎーとに牽引され、そのまま殻内へゆっくりと収納。
「さ、どんどん進もうぜおっさん! 今日はどんどん暴れるぜ〜!」
「うーん、このダンジョン内でも出逢ったらキツい2匹だったんじゃがのう……いかにダンジョンにとんでもない異物が入ってきたのかを察せる歓迎具合じゃな……」
「♪はいほー、はいほー、だっみーんが好きー」
気分良さげに大手を振って歩くぎーとに一矢乱れぬ隊列を見せるぷちたち。
実はヘルメットの被り方やペイントに違いがあって地味に個性があることが窺える。
「あ、待て待て……ったく、こりゃ本当に鎚の埃落としに来ただけじゃな……」
その日、“鉱山魔窟”は 魔物の叫び声と銃声や爆音が響く“戦場”へと変貌した。
……おっと、野生の魔物とダンジョン産の決定的な違いの話が残っていたな。
“ダンジョン産の魔物は恐怖心を持たない”
の一言に尽きる。
外の魔物は生物であるので当然生存のために恐怖を感じる。
一方ダンジョン産の魔物は大元のダンジョンコアが破壊されてはいけない且つ、獲物を仕留めるためのでダンジョンの不思議な力によって造られる人で言うところの歯や免疫細胞である。
よって厳密には生物であって生物ではない。
白血球がウイルスにたじろいだらどうしようもないからね。