100ネキ 邪魔ならば、退かしてしまえホトトギス
前回のあらすじ
今日の異世界ことわざ
【開けた宝ミミックが強すぎた】
・盗賊がミミックであることを把握しながらも、倒せば利益があるので準備を怠らず解錠したまでは良いが、特殊個体だったので運悪く盗賊は食べられてしまった。
あまりにも運が悪かった時に使われる用語。
他、
・蹴った石ころが岩山蛇の鼻先
・抜いた一輪が一輪花蜘蛛だった
なども、似たような意味合いで使われる。
――――
「しゃっい! 何本飛んできても楽勝だ……うぉぉタマさんなんか吐いたァァァスゲェェ!」
「おぉ……新技」
「なるほど……言うだけありますね」
矢を切り落としつつ驚くオサヒデ、目にハイライトが戻るパピルス、矢を矢で撃ち落とすというよくわからない芸当を平然としながら目を少し細めて称賛するスマシュ。
一方、撃たれた盗賊側はと言うと。
「でぇぇぇぇぇ!? なんだあの女! 盾ごと吹っ飛ばしてくるなんて想定外過ぎる! 」
「頭ぁ! 今のゴタゴタで皆取り乱して、エルフの奴がどんどんスキある奴らから殺ってます!」
「あぁ!? クソ! 大物狙いがとんだババ引いちまったか! 殺られちまった奴らは仕方ねえ、襲撃方法ももう使えねえか、畜生! 引け! 撤退だてめぇら! 命あっての盗賊だぜ!」
「「イェア!」」
獲物が対処不能だと判断するや否や、即座に撤退命令を出して岩陰の向こうへと逃げていく賊一同。
「……逃げましたか、存外優秀な頭が付いてますね……リーダーらしき男の護衛も最後までスキを見せませんでしたか。勿体ぶらずに曲げ撃っておけば良かったですね……」
周囲の気配が完全にないことを確認して武器を納めながら呟くスマシュ、その下からタマが頭を掻きながら少し申し訳なさそうにスマシュに声を掛ける。
「なんか逃がしちまってすまねーな……いっそ下手に調整しないで地形ごと消し飛ばしゃあ良かったか?」
「……調整? もしかして今の魔法、威力もっと上げられるんですか?」
「魔法つーかまぁ……割と余裕でできんぞ」
「……とんでもない方も世界には居るものですね。ですが、タマさんが弱めに撃ってくれて助かりました。死体が残りましたし」
「死体?」
「ん。そこから先は私の出番……オサヒデ、まずはスマシュが作った死体全部もってこい」
「えぇ!? 俺がぁ!? 結構な高低差あるじゃんよ向こうと此処で」
「こういう難しいことをサクッとこなす男はきっとカッコイイぞ」
「マジで! おっしゃやるぜ〜! ちょっと待っとけよ!」
そう言って岩場を軽やかに跳躍して崖上に向かうオサヒデ。
「頑張れカッコイイ男」
「……襲撃、終わっただ?」
「もう大丈夫ですよラケルタさん」
「あっさり撃退なんてさすが冒険者だべな……ところでオサヒデさは死体持ってきて何してるんだべ?」
「んー。まぁ見てて」
そして往復すること数回。
「ひーふーみー……ええはい。仕留めた数ピッタリですね、ではパピルス使っていいですよ」
「りょーかーい……んぅぇ……」
口をモゴモゴとしばらく動かしたパピルスが飴玉のような小さな赤い珠を人数分、自身の手のひらへとねっとりと吐き出す。
「……拭いとこ」
丁度よく近くにある布(オサヒデの服の裾)で唾液を拭き取り、綺麗にしたかと思えば死体に近寄りスマシュが綺麗に撃ち抜いた眉間の穴へとおもむろに珠を押し込んでゆく。
それと同時に親指を少しだけ噛み切って血を1滴、珠へと落とす。
全部の死体へとその作業を終えたら、仕上げの詠唱を行う。
「……仮初の魂、汝ら我の忠実な下僕也。 器は与え、ならば宿りて我の言に応え、我の言に従え。〔魂魄憑依〕」
パピルスが呪文を唱え終わると、なんと先程まで完全に死んでいた賊たちが、ゆっくりと起き上がり、パピルスに膝を突いて服従の姿勢を示す。
「おおー! 生き返らせれんの!?」
「すげーだな!?」
「チャ……タマさんにラケルタさん、違う。……俗に言うアンデッド、種を埋めて即席の下僕を作った。防腐してないとほっぽると腐る、けど、頭の中無事なら無事な分だけ聞けば返すし記憶も残る。数日なら平気、ついでに即席防腐魔術も掛けた……から多分だいぶ持つ」
「記憶も残すとかスゲーなマジで。ゲロるの待つより一旦シメた方が何でも聞けるじゃん」
「凄い。タマさんコレの凄さ直ぐに解った」
「で、このゾンビ? どうするだ?」
「ん。まずはこの邪魔な岩退かすための頭数。前も後ろも綺麗にしないと皆の迷惑、オサヒデだけじゃ時間かかる」
「今のしれっと俺も人数入れた?」
「オサヒデは女性にこのような作業をさせるのですか? ラケルタさんは車の御者という大変な神経を使う仕事がまだ続きますのに?」
「確かにな! よーし任せろ! ……でもスマシュお前結構な力持ちだった気がす「はい?」
「アッイエガンバリマス」
「おらーキリキリ働けー。大きな岩はオサヒデに斬らせろー」
「切れるけどよォ! 刃欠けたらどうすんだよ」
「いやおまえ岩より堅い魔物の甲殻普通に斬れるだろー」
「あっそうか、岩ぐらいじゃ欠けないわ俺の刀」
「アホか。アホだったな、ほらもう賊(故)たちは働いてるぞー」
「おうよ! 任せろ」
岩石の除去作業が始まる中、タマがまたおずおずとスマシュへと声を掛ける。
「はい。なんか結構な術披露してくれてスゲーなとは間違いなく思うんですけど、進言いいでしょーかスマシュさん」
「どうしました? タマさん? 急に改まりまして」
「いやー、この塞いでる岩、ぶっ飛ばした方が早くね? ……と思ってよ」
「もしや先程の口から出る魔法でしょうか? ……可能やも知れませんが、街道が傷むので二次的な落石の懸念があるかと……」
「あーいや……そうじゃなくてだな……こんなもん蹴っ飛ばしゃ良いだろつー話よ。ドカーンと」
「なるほど、はい? ……え?」
一瞬タマが何を言っているか理解できずに笑顔のままで固まるスマシュ。
「……もしかして……できるんです?」
「応よ。見せちゃるから皆に退いてもらうよう言ってくんないかな」
「……パピルスー! 命令してる賊にこっちに来てもらえるように命令してくれるかしらー!?」
「んー? なーにー?」
「いやその……タマさんが今ら蹴っ飛ばすって言ってるのよ……信じる?」
「……まじ!? タマさんの本気また見れる!? おーし、てめーらてったいだー!」
「「イエー!(故)」」
作業を中断し、パピルスたちが馬車のもとへと戻ってくる。
「おーし。避難大丈夫かー?」
「ん! 退避完了」
「……未だに信じ難いんですが、パピルスの様子だと有り得そうですね……」
「今度は何が始まるだ?」
「それじゃーあ……行くぞオラッシャー!」
タマ、皆の避難を確認し、積まれた岩へと猛ダッシュ。
助走で加速、そしてココだ! というところで飛び上がり勢いもそのままに飛び上がっての両脚蹴り。 ジャイアント○場さんで言うところの“32文人間ロケット砲”が炸裂。
平たく言ったらドロップキック。
体重調整コンボも有り、
モロに受けた岩山は派手は跡形もなく粉☆砕。
「オギャァァァ!?」
ついでに近くに居たオサヒデも空を舞う。
「あっ、許せオサヒデ。言うの忘れてた」
「あー……いい高さ飛んでますね彼」
「おおっ!? すんげーだ!?」
「フゥーーッ! たまには派手にやるのも良いわな! ……ん? なんか声がしたか? ……ま、いいわ。反対側やるかー」