番外ネキ 竜と蟹とダイチと呪われしヒゲ組
前回のあらすじになってないあらすじ
「ん? マリエ? どこ行った? おーい」
ふと思い付いた面白ゴーレムの開発に熱中し、気が付けばマリエが近く居ないので呼ぶロッジ。
そしてその呼び声に応じてマリエが飛んできた。
物理的に。
「は~いマスター」 「いったいなんの御用で」 「ございますか?」
みょんみょんみょんみょんという不思議な音を出しながら“上半身” “胴体” “下半身” ごとにそれぞれが浮遊、飛来。
先ずは下半身パーツが接地、次に胴体パーツが連結部に火花を散らしながらドッキング、続け様に上半身と、“ブッピガァン!ヴッヒォォン!” と独特過ぎる効果音にて合体完了。
勿論、身体の各所から蒸気を排出することも忘れない。
「どうもキン……マリエ嬢です」
「今名前違いかけたよなぁ!? そんでいつの間に改造してたの!?」
「いいですかマスター、できるメイドは進化を欠かさないのです。先日のマスターの発想をヒントに自己改造しました。他にもコード“スクランブル”で飛行ユニットと合体すれば”マリエちゃんZ”、そしてまた分離してパーツの順番を入れ替えての合体によりバランス型の“ドラゴン” スピード特化で大地潜行可能の“ライガー” 機動力は落ちますが水中でも強くフレキシブルパワーアームを備えた“ポセイドン”等々……日々私は進化しているのです。マスターがポンコツクソザコナメクジでも問題ないように。 ですからマスターは安心してケツの筋肉を鍛えてください」
「どんどんスーパーロボットに化けてくなぁ、お前! そんでプロジェクターで尻だけガチムキの俺がケツ割り箸してるイメージ映像を映すのをやめろォ! ……いやまぁ、合体変形は浪漫があっていいんだけどよ」
「ちなみに此処に居座ることを両国のトップに格好良く宣言できるよう、ちょくちょく練習してるのを見かけますが、無駄だと思います」
「なっ、俺だってやろうと思えばシリアス格好良くできるわ!」
「左様ですか、尻アスブレイクされないように頑張ってください」
「おうよ! ……ん? 何か話が噛み合わない気がするんだが……」
「気のせいでしょう。 ところでご用事を何なりと」
「ああ、そうだった、えっとな……………
――――
――シンシア大陸、とある上級ダンジョン――
「ちょっとー、毎日ダンジョンに潜ってはユニークが出ないように倒しては次、倒しては次なんて飽きてくるわよねー……」
次の階層へと下る道中、階段にてリーフが愚痴を漏らす。
「リーフの言っていることも一理ある。でござるが、ダンジョンという隔絶された環境にて、比較的安全に踏破するのはごく一部の者に限られるのでござるよ。 ダンジョンを踏破するうえで絶対必要な兵站事情を無視できるのは、それだけでとてつもないアドバンテージとなるでござる。 つまるところ拙者のアイテムボックスとかですな」
「ほんっとにアンタの収納底が無いから半端ないわよね……時間も止まるし」
「国の公務員は辛いでござるよ……と言いつつ、ひいては世のため実際は辛くはなく毎日楽しいでござるよ?」
「私はダイチと一緒じゃなきゃこんな生活嫌よ……」
「そう、そこ! ソコでござるよリーフ! 拙者1人の時はこんな会話も無く、1人寂し〜くダンジョンの間引きをしていたのでリーフたちにはとても感謝してるでござるよ! 3人には感謝してもしきれないでござる。 毎日楽しいでござるよ!」
「いやっ……まぁ? 私はダイチだけだと心配だし? こうやって感謝されるなら? まぁ満更でもないわよ?」
ぷいっとダイチから顔を背けるリーフだが、薄暗いダンジョンでも解る程度に耳を紅く染め、上下にピコピコ揺れている。
「……耳は口ほどにものを言う……フッ、身体は正直だぞリーフ」
「ヴォエッ! 砂糖吐きそうニャ! シュガーエルフニャ!」
鼻で笑ったナハトに毛玉を吐き捨てる真似をするケッタ。
「まぁまぁナハトにケッタ、2人はリーフの“そこが良い”んでござろう?」
「「勿論(にゃ」」
気持ちのいい笑顔でサムズアップする2人、そしてダイチも
「拙者も大好きでござる!」
同じ気持ちの良い笑顔とサムズアップで返す。
「だぁーもうアンタらぁーっ!」
「にゃーいリーフが怒ったー♪」
「怒リーフ怒リーフー♪」
勿論本気で怒っているわけではないので3人ともやや駆け足にて階段を下ってゆく、遊びながらも気を緩めず気配感知、影伸ばしでの罠の有無、異音が無いことを確認しながら。
階段を下りきってボス部屋へと到着、扉前で暫しの休息。
「それでは皆の衆、扉を開けるが準備は大丈夫でござるか?」
「残弾良し、魔力も十分よ!」
「ん、準備万端」
「いつでも行けるニャ」
ダイチが扉に手を添えると、重く大きな音と反比例するかのように軽い力で開き、待ち受けるボスが現れる。
起動した魔法陣から3Dプリンターの動作でも見ているかのように召喚されている魔物をダイチは“鑑定”に掛けた。
――――
ライオン・the・パンプァース
ハイ(テンションが)ユニーク(格好が)モンスター
蟻かもしれないしそうでも無いかもしれないし非常に危険な魔物(版権とか色んな意味で)
以下略
――――
勇猛なる獅子の頭部、生半可な攻撃は通さぬ強靭なる体躯、闇夜が具現化したような蝙蝠の羽、 そして
ふ わ も こ 下 半 身。
きっと吸水性抜群であろう。
「ム゛ーニ゛ーマ゛ァァァァッ!」
地獄から響くような恐ろしい咆哮と共に、混沌がダイチ一行へと襲いかからんとす「オラァッ! にござる!」
「マ゛ミ゛ーポコォォォォ!」
ダイチ、全身全霊の全力全開、剣に魔力を流し込み刀身にオーラブレードを形成、パンプァースを縦に一刀両断、 断末魔の悲鳴と共に部屋に響く音をたてて倒れるボス。
「ちょ!? ダイチ!?」
「リーフ! 言いたいことも分かるでござる! が、此奴は(いろんな意味で)危ないのでやむ無く速攻で片付けたのでござるよ」
「そ、そう?」
「そりゃあもうやばかったでござるよ(ネタ的に)」
「……ダイチ、まだ終わってない。見て、陣がまた起動した」
「なんと!?」
ナハトが指さす先は一度起動したはずのボス召喚陣が起動し、新たなボスが呼び出された。
「でっけー虫にゃ!?」
――――
セクシーレッグ・ギガマンティス
ギガマンティスの突然変異体。(足が)ユニークモンスター
中に誰も入ってはいない。着ぐるみではない。
危険な魔物。
脚が臭い。
以下略
――――
「オララァッ! にござるよ」
「サーッ!」
ダイチ、本日2度目の全力全開唐竹割り。
一撃でもってとても危ない(ネタ的に)魔物を速攻で打ち倒す。
「うええっ!?」
「ダイチ……なにか焦ってる?」
「ダイチばっか暴れてずるいニャー!」
「ふぅ……とてつもない強敵にござった……ナハト、陣の起動は?」
「ん。 完全停止を確認、脱出陣が向こうに見える」
額の汗を拭い、安全を確認して安心したダイチにリーフが問い掛ける。
「ねぇ、いつもはもっと皆と安全にやるのに、今回はなんでいきなり本気で行ったの?」
「リーフ、パロとパクリの分水嶺はとても難しいのでござるよ……」
「え? ぱ? ……何すいれー?」
「まぁ言及すると良いことは無いので投げっぱなしジャーマンが良いかと。 いやぁー! 奴らは強敵でござった!(棒)」
「一撃で倒してたけど……」
「ダイチー! コイツら解体しないニャー!?」
「(見た目が)残すのはマズそうだから魔石だけ抜いてもらえるでござるかナハトー!」
「りょーかい。……〔奈落の底〕」
床にこぼした水のように拡がったナハトの影はボスの亡骸の影と繋がって、ゆっくりと影の沼に沈み、少しの間の後に影からぺいっと魔石が放り出された。
「ダイチ……魔石……半分」
「真っ二つニャー」
「“是非も無し”にござるよ、ささ! 脱出するでござる」
こうしてとても危険な()ダンジョンを踏破したダイチ一行。
今回の二重召喚のようにどんなイレギュラーが起こるか解らないので、“間引き”を行って管理するのはとても大切な仕事なのである。
そして一行は暫しの休息の後、別の暫く未踏破のダンジョンへと赴く。
――――所変わってガンテツの工房(店)――――
ぷいーん。
ぺぺぺぺぺぺぺぺ……
ぷいいーん。
ぺぺぺぺぺぺぺぺ……
プチぎーとたちはリュックからプロペラを生やして飛び回っていた。
ガンテツが趣味で作っていたプロペラユニットを一部のぎーとが大層気に入り、新種“レシプロペラ・ハーミット”になっていた。
「ぎーとちゃんはいコレ。ガンちゃんに装飾のパーツ持っていってあげてー。あっ、着ける順番を間違えると呪われて耳から花が生えるわよ」
「うーい」
畳の上で寝転がったまま、首に掛けた笛をピッ、ピッ と鳴らして指令を飛ばし、シトリからパーツを受け取って工房へと飛んでいく。 そして別働隊がアルドの所からクッキー数枚、紅茶を1杯奪取して更に飛行牽引部隊がぎーとを起こせばおやつの準備完了。
一応全て自身で行っているため介護してもらっておやつの時間、ではない。多分。
「うーん、でりしゃす。生肉なんてもう食えねぇな」
「それは我も認めるところだが。ところでお主、ガンテツ殿にシトリ殿から忠告されたこと伝えたか?」
「ほえっ? ……あっ」
ほっぺいっぱいにクッキーを頬張っていたぎーとだが、アルドの言葉にて完全に忘れていたことを思い出す。
「おわぁぉぁぁ!? 何じゃぁぁ!?」
そして工房から響くガンテツの驚愕の声。
「すまーんシトリさん」
「あらー……まー特に実害の無い呪いだから問題ないわよ」
「おーい! シトちゃん順番あるなら言ってくれ!」
「あらガンちゃんごめんねって……あはははは! やだ、とっても可愛い!」
工房から出てきたガンテツの両耳には黄色のとても可愛らしい花が一輪ずつ真横に生えていた。
「ったく……シトちゃんコレ根張ってないよな? 引っこ抜いてもいいやつじゃろか?」
「ね、根っこは無いけど、あはっ、解けるまでは何度でも生えるからそのままの方が良いわよ……あははは!」
「マジかー……」
「ぷっ、間抜けな絵図だなガンテツのおっさん」
「愉快な分子供にウケがいいと推測するので我はアリだと思う」
「あーもー。ぎーとや、次からは気を付けてくれよ? ……別段邪魔にはならんから諦めて戻るわい……」
「正直すまんかったわガンテツのおっさん。新しいオイラたち寄越すんで色々試してくれー」
「ん? ええのか? ならこの間趣味で作ったユニットがあるんじゃよ、試してみんか?」
「うーい」
「じゃあまずはダイチから聞いた弾道弾とかいう奴を再現した奴をじゃな………
こうして趣味という名の魔改造にて、どんどんと固有個体が生産されていく。
世界のバランス、大丈夫なんだろうか……