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ハガネキ 〜彼女はメタルでハガネのやべー奴〜  作者: 爆散芋
3章 家に帰ろう 寄り道腕自慢大会編
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番外ネキ 奴隷商潜入拠点壊滅編(中その2)

 前回のあらすじ


 豪勢な食事出されたらそれはそれでどうかって話ですよね



 ――――



 


 ─。


 今日で7日、か……


 畜生、隙を見て逃げ出そうとでも思ってたが、思ってたよりしっかりした造りになってやがる。


 格子の外は断崖絶壁、見下ろす下には激しい流れの渓流。

 牢をこじ開けようとしても、多分抗魔合金だろう随分といい鉄使いやがって! うんともすんとも言わねえ!


 巡回の奴から鍵奪おうにも警戒して寄ってこないし、飯の時も格子の近くに居たら寄ってこないし、飯は少しの水とパンにケチなスープだし……ああ、畜生、腹が減って力が出ねえや……。



 “この時期の王都では人攫いが出る” なんて噂話だと思ってたけど気が付けば服と武器を取られて代わりにこの首輪だよ。はぁ〜あ……


 こいつのせいで全然力が出ないし馬車から飛び降りようとしても「“逃げるな!”」の命令1つで身体がアタイの言うこと聞きやしねえ。忌々しいクソったれな首輪だよ本当に。


 こりゃ参った……此処では何もされちゃいないが、このままだとどっかの金持ちの慰みものかねぇ……そういやアタイ以外にも攫われた間抜けがいるんだろうかね? 勿論アタイも間抜けの1人さ。


 ハハッ……


 ……はぁ。


 便利な“命令”のせいで騒ぐこともできやしねえ、なんつー便利な首輪だい。 確かにどんな悪い奴も大人しくなるわけだよ。


 今日の晩も格子の外から見える月を眺めて明日になるのかねぇ……

 いや、明日になったら買われて慰みものかもしれない。

 あーやだやだ。 違法奴隷なんてなるもんじゃないよ!


 悩んでても疲れるだけだ、もう寝ちまおう。 だけどアタイはまだ諦めちゃいないよ! 何とかして此処から脱出してやるさ!


 え? アタイが誰かって? アタイはクォーターの蜥蜴人種(リザードマン)だよ。 4分の1だけだから頬や腕に多少鱗があるだけでしっぽもねぇ殆ど人みたいな感じなんだがね。

 亜人も人もそんなに変わりゃしないってのにねぇ……


 あー、後はちょっと舌の形が違うとか朝冷えてるとボケボケとか、そーいや此処は毛布の1つもくれやしない!

 全く! 夜は寒くて大変なんだよ!




 ……いけない。

 あんまりにもやることがないから1人で誰も居ないのに自己紹介までしちゃったよ。


 はぁ〜あ……寝るか……



 ……



 …………。



 ん? 足……音? 見張りの野郎の歩き方じゃないね、チラッとだけ見に来たボスのデブ野郎の歩き方でもない。 いったい誰なんだい?



 そう思って外の方へ向けて寝転がっていた身体を起こし、此方に歩いてくる奴の姿を見たアタイ。


「……こんばんは。助けに来ました、見張りの人は少し眠っていただいてるのでちょっとやそっとでは起きませんが、静かにしていただけると助かります」


「……鬼人(オーガ)……かい? 助けに? どうやって此処に?」


 アタイの目の前に現れたのは漆黒の艶めく1本角の鬼人(オーガ)の娘。 だけどアタイより何倍も強いことが窺える。


 鬼人の角ってのは見た目と強さが割と比例しているのは鬼人をよく知ってる奴なら誰でも知ってる常識さ。

 あんな美しい角は会ってきた鬼人には誰も居なかった。


 内心は相当びっくりしたさ。表には出さなかったけどね。

 寒いし、腹が減ってることもあって驚く元気も無かったのもあったんだろうね。


 色々と聞きたいことはあるけど、まずは助けが来たことを素直に喜ぼうかね。 亜人なら信用もできるし、ここで人間が同じこと言ってても疑って信用しなかっただろうさ。


「まぁ、イイさ。奇跡が起こったことを素直に喜ぼうかねぇ、悪いけど先に着るものと食べ物はないかい?」


「勿論、ありますよ。簡素な服で申し訳ないです。食べ物も、温かいモロコーシスープに柔らかいパンと温かいミルクです。……食べられないようなら言ってもらえると取り替えますけど……」


「冗談で言ったのにあるのかい! しかも温かいスープにミルクぅ!? 相当良いアイテム袋持ってるんだね!? あ、大丈夫だよ。有難く頂くさね……ところでこんな悠長で大丈夫なのかい?」


 やっぱり相当強いだけあって良いアイテム袋持ってるんだね。時間も進まないタイプの袋なんてそうそう見つかるもんじゃないし、値段も目が飛び出るぐらい高いはずだよ……でもこんなに強そうなのに見たことない顔の娘だねぇ……普通はそんなに強そうなら魔王国でもかなりの有名人だろうけど……駄目だ。思い当たる節が無いね。



「ええはい。 ()()()()()()()()()()()()が、地下に居るのは貴女だけのようです。 各所に居る見張りの人も全員眠ってますし、貴女が、落ち着いて食事をする時間くらいはありますよ。 ですのでゆっくり食べてください」


「ああそうかい。 なら遠慮なく頂くよ」


「はい。どうぞ」


 鬼人の娘から格子の隙間越しに渡された服を着て、出された7日ぶりの温かい食事にありつく。


 モロコーシの食欲を刺激する匂いに、焼きたてを出されたかのような湯気の立つ柔らかいフワッフワのパン。

 そして流し込むように食事を食らった後に飲むホットミルク。


 さっきまで冷え冷えだった身体も芯までポカポカ、あぁ……モロコーシのスープってこんなに美味しかったんだねぇ……


 ミルクを飲み終えて、ほぅ……と自然に出る溜息に、気が付けば自然に出ていた涙。


 やだ、アタイ、いつの間にか泣いていたのかい……? アタイより若そうな娘の前で? 恥ずかしくてありゃしねえ……


「ッ……っ……」


 声も上手く出ないと来たよ。 そんなアタイを優しく見てる鬼人の娘。 少しして落ち着いてきて、調子も戻ってきた。


「恥ずかしいとこを見せちまったねぇ……大の女がメシが美味くて泣くなんて……」



「いえ、お構いなく。僕も貴女と同じ状況ならそうなると思います」


「……ところで、他の部屋も見て回ったって言ってたね?」


「はい。地下に居るのは僕たちと貴女だけのようです」


「そうかい。静かだと思ったらアタイだけしかいなかったのかい。 ……鍵とかも持ってるかい? いい加減此処は狭くて嫌になるよ

 ……()()()?」


「残念ながら見張りの人は鍵を持っていませんでした。だけど出ることは叶いますよ。 ……あ、来ましたね。彼女も協力者の1人です」


 もう1人と言われてアタイの目の前に来た奴は、ド肝を抜くようなとんでもない奴だった。


「わははー! 此処の格子良い鉄使ってるねぇ! 俺思わず根こそぎ回収してきちゃったよ。大漁大漁!」


 格子を根こそぎ回収とか訳の分からないことを言いながらやってきた女の頭部を見た瞬間、この歳になって危うく漏らすかと思ったよ。


「ひ、ヒィ……」


 な、なんだいあの角は!? この女、とんでもない化け物じゃないか!


 こ、怖すぎる……


「タマさん! 威圧とかしてないですよね!?」


「ほへ? 何のことじゃ?」



 こっちを見た禍々しい鬼人の女と目が合ってしまう。





 


   チョロリと、少しだけアタイの座っていた石床が湿る。




 あっ。やっぱり駄目だったよアタイ。(ダム放流)





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