狛井神社の日常
ある日のこと。
「なあ、阿形。久しぶりに裏山行かねーか?」
「ん? やだよ。面倒くせーし服は汚れるしよ」
真面目な性格の弟の言動に対し、兄である阿形は顔色変えずきっぱりと断る。
「いやさ、じっちゃんが昔言ってた気がするんだよ。『この季節になれば裏山に行きなさい。ここの土地は恵まれておる。ワシの知り合いに五穀豊穣の神がいての、そいつが毎年......グフフ......』とか言ってたぜ?」
神の存在から身を引いた、先代の狛犬さま----二人の祖父の真似をする吽形。
阿形の耳がピクリと動く。因みに彼らは狛犬の神であるが、普段は人の姿をしており、耳が頭のつむじから程よくサイドに離れた部分に生えている。ケモミミである。
「つ、つまり、美味しいものが沢山あるんだな?」
阿形がニヤリと怪しく微笑み、したなめずりをする。恐ろしい顔であり、神とは到底思えない。
「まあ、そういう事だろうけどな。どうする? 行く? 行かない?」
「しょーがねーな、甘えん坊の弟の為にお兄ちゃんがついていってやるかー」
とても楽しそう、そして満更でもなさげであった。
更に言うなれば、双子に兄弟の上下関係があるものか。