第2話
日曜日は大好きだ。時間を気にせずゆっくりと寝ていられるし、起きたところで別段することもなくグダグダできるからだ。でも次の日からまた学校が始まる憂鬱を考えると土曜日の方がいいかもしれない。
「とはいえ、流石に寝すぎたな.......」
朝、目が覚めると既に11時を過ぎていた。昨日は早すぎるし今日は遅すぎる起床。これじゃ目標とする「規則正しい生活」を実現するにはまだ時間がかかりそうだ。
しかしのんびりしている暇もない。せっかくの休みを半分ぐらい使ってしまったので、残された時間は有意義に使うしかない。急いでベッドから出て普段着に着替える。朝ごはんは後で昼と兼用して食べるとしよう。
インスタントコーヒーをお湯で溶かしてつくる。コーヒーサイフォンやらコーヒーメーカーとかにも興味はあるのだか何しろ高いし、手入れがめんどくさそうだから手が出せない。やっぱりこうした粉のインスタントが一番楽で美味しいのだ。
そんなコーヒータイムを壊したのは1回のチャイムだった。誰だろうか。玄関まで行き、ドアを開ける。
「おはようございます!あ、今はこんにちはかな?まあどっちでもいいや。髪の毛寝癖ついてますよー!もしかして今起きたばっかりとか?不健康ですねー」
そこに居たのは夜見さんだった。
「な、なんでここに?」
「なんでって、ちゃんと昨日、『また明日』って言ったじゃないですかー!」
................確かに去り際に言っていた。てっきり単なるドジっ子属性かと思っていたけど、まさか本当に来るとは。
「そ、それで、要件は?」
「えっと、私、隣に引っ越してきたんで荷解きを手伝って欲しいのです」
引っ越してきた?隣に?そんな馬鹿な。
急いで隣の部屋に行く。するとそこには確かに大小様々な段ボールが積んであった。
「マジかよ.......」
「あ、ちょっと勝手に覗かないでくださいよねっ!」
「..........すまん」
「それで、手伝ってくれませんか?1人でやるにはちょっと量が多くて」
うるっとした上目遣いでこっちを見てくる。その目はやめろ。そんな目をされると抗えなくなる。どうやら俺に拒否権はあってないようなものらしい。
「わかった、手伝うよ」
「やったー!あ、でも寝癖は直してきてねっ」
そう言って彼女は帰っていった。仕方ない、寝癖を直して行くとしよう。洗面所に向かい、専用の水で髪をとかす。が、完全には直らない。ある程度のところで諦めて隣に向かう。
こういう時ってインターホンを押した方がいいのだろうか?こういう時のマナーがわからん。何しろ前例がないからな。隣に引っ越してきた女友達(仮)の荷解きを手伝う時の礼儀なんてさすがのグー〇ル先生でも知らないだろう。
少し考えた結果、インターホンを押して入ることにした。これなら相手にも少し心の準備ができるだろう。よくあるハプニングには遭遇しないだろう。ピーンポーンと間の抜けた音の後、ドアを開ける。
「おじゃまします」
と、開けたドアの向こうには下着姿の夜見さんがいた。あ、やばい、バッチリ目が合ってしまった。
「失礼しました」
とりあえず1度外に出る。テンプレートにも程がある、王道すぎて逆に最近見なくなったハプニングだった。第一、なんであそこで着替えてたんだよ。着替える必要ないし、堂々とリビングで着替える必要もないだろ。俺が来ることわかってたんだからよ。
特にすることもないのでマンションの廊下から外を眺める。この辺りにはビルやらマンションやらが立ち並び、7階からはそれが見渡せる。高所恐怖症には辛い景色だろうが、俺は案外気に入っている。ここから下を見ると人が豆粒サイズで行き来している。某映画風に言うと人がご........いや、これを言うのはやめておこう。
「しかしピンクか.......」
「誰がピンクよ」
「うわっ」
気づけば隣に夜見さんがいた。
「着替えは終わったの?」
「うるさい変態」
失敬な。これでもインターホンはしっかり押している。
「間がないと押そうが押さまいが意味が無いのよ」
まるで心を読んだかのように答えてくる。
「了解。次からは気をつけるよ」
「次なんてあったら確実に仕留めるから」
世の中には物騒な人もいるもんだ。
「それより、最初とキャラ変わってるけどいいのか?」
「やっだー、キャラってなんのことですかー?」
女子って恐ろしい。
部屋の中はある程度まとまっていた。
「なんだ、意外と出来てるじゃないか」
「小物系は大丈夫なんですけどね。家電とかになると1人じゃ運べなくて」
なるほど、確かに冷蔵庫や洗濯機などは女子1人の力じゃ到底無理だろう。
「よし、俺に任せろ」
そう言って冷蔵庫を運ぼうとする。が、意外と重くて持ち上がらない。
「よし、2人で運ぶか」
向こうから飛んでくる非難の目はあえて無視する。だって想像以上に重いんだもの。
大方の荷物が片付いただろうが。流石に大きな家電は2人で運んだか、食器やら本棚やらは全て運び、残すは小さなダンボール2つとなった。
「それもどっか運ぶのか?」
「いや、これはいいです」
「そっか?遠慮すんなよ」
「そこまでして変態の称号が欲しいのですか?」
今のである程度中身の予想はついた。これはイケナイやつだ。
「いや、それは遠慮願おう」
「分かればいいのです」
そう言って彼女は部屋の中へと抱えて行った。
さて、これからどうすればよいのやら。時間は1時を過ぎたところ。そろそろ昼食にしようと思うが彼女はどうするだろうか。一緒に食べようと誘うか?
それはないな。いくら友達と言えど会って2日目の女の子を食事に誘うなんてどこのナンパ師だ。それに俺のキャラに合わない。ここは大人しく帰ろう。
「もしよかったらお昼食べてきません?」
いつの間にか隣に夜見さんがいた。音もなく近くにこの人の祖先は忍者だろうが。
「実は私の祖先は忍者なんです」
またもや心を読むかのような言葉。超能力でも持っているのかこいつは。
「そ、それは本当なのか?」
「もちろん嘘ですよ」
しれっと嘘をつきやがる。なんだよ、ちょっと信じた自分が馬鹿みたいじゃないか。
「それで、お昼はどうします?」
そうだな、わざわざ帰って自分で作るのも面倒だし金もかかる、ここはご馳走になるとしよう。
「いただくよ」
「じゃあ私、腕に縒りをかけて作っちゃいますからねー!あ、なんか嫌いな食べ物はありますか?」
「いや、特にない」
「じゃあ生姜焼きにしますねー」
そう言って彼女はキッチンの方へ向かったが、すぐにこっちに戻ってきた。
「どうかしたのか?」
「いやー、あのー、ちょっと買い物に付き合ってもらってもいいですかね?」
やっぱりドジっ子属性じゃないか。
ー ー ー ー ー ー
ボーン、ボーンと壁掛け時計が低い音を鳴らした。時計を見ると時刻は深夜0時。小説を読んでいたらいつの間にかこんなに時間が経ってしまっていたようだ。
結局、あの後は普通に買い物に行って、お昼をご馳走になって帰ってきた。買い物の時に同クラスのやつに会ったらどうしようと思ったが、そんなことはなく必要な材料を買って帰ってきた。尤も、会っても気づかれないのがオチだと思うがな。
それにしても彼女、夜見月子は俺の高校に転校してくるのだろうか。今の時期に転校なんていくら私立と言えど難しいだろう。まあ、十中八九やって来るだろうがな。問題は彼女が来た後だ。俺は友達の作りたい。しかし彼女の性格と仕事からして高校でも遠慮なく俺に話しかけてくるだろう。彼女は可愛いほうだ。そこら辺のアイドルなんかよりよっぽど。そんな彼女とクラスでぼっちの俺が仲良く話していたらクラスの奴らはあまり良く思わないだろう。なんであんな可愛い子と地味な俺がー!ってね。
まあどうにかなるだろう。人生意外となんとかなるもんだし、そん時のことはそん時の俺に任せよう。今日はもう遅いし、明日は学校だし、もう寝よう。
そこから俺が眠りにつくのに10分とかからなかった。
現在の友達 1人(レンタル1人)




