第1話
5月、それは4月までのお祝いモードが終わり、新しい環境での生活に慣れ始めるころ。ライトノベルでいうと、四月に知り合った学校一美人な先輩と仲が深まるころだ。だが残念ながら俺にはそんな素晴らしい出会いはなくただ淡々と毎日学校に通っている。世の中、そんなにうまくはいかないもんだ。
4月に俺はこの水森高校に入学した。そして部活動紹介やら宿泊研修やらのラッシュを終えて、クラス内のグループもある程度固まってきた今は、束の間の休息中。また二週間後には中間テストが待ち構えているが、まあまだ大丈夫だろう。
今のところクラス内には大きく3つのグループがある。派手な奴らが集まるグループ、オタクなどの地味な奴らが集めるグループ、どちらにも入らずしかし着実な地位をつけるグループだ。しかし残念ながら俺はどのグループにも属していない。いや、属せていないといった方が正しいだろう。俺は4月のスタートダッシュに大きく遅れてしまい、まだ友達が1人もできていないのだ。昼ご飯を一緒に食べる人がいないことは勿論、10分休憩に雑談する友達もいない。そもそも男女問わずクラスメイトと話したことがあるのは提出物を集めるときぐらいだ。何なら5回に1回ぐらい勝手に集められている。ここまでくるともはやいじめられてんじゃねえかと思うぐらいだが、多分それはないと思う。というかそう思いたい。
「あ、あの早瀬君........」
突如、隣から声をかけられる。見てみると隣の席の山崎君だった。
「ん?」
「数学のノート今日提出だから......」
「ああそっか、ちょっと待ってね」
引き出しの中を探してみるが、見つからない。
「ごめん、後で渡すよ」
「わ、わかった。放課後までによろしくね」
「ごめんね、山崎君」
「な、なんで僕の名前を...」
そう言い残して走って行ってしまった。別にクラスメイトの名前ぐらい覚えててもいいだろっ!と思ったが確かに一回も話したことない人から名前呼ばれると怖いな。次からは気をつけよう。
さて何をしようか。今は昼休みが半分過ぎたぐらい。教室の中は昼食を食べ終えた生徒たちが楽しそうに談笑している。少しスタートダッシュに成功していたら俺もあっち側の人間だったのに、一体どこで選択を間違えたのだろうか。
「図書館行くか」
まるで誰かに聞いてほしいかのようにわざわざ口に出して言う。聞いてくれる人なんていないのに。
自分でいうのもなんだが俺は本を読む方だ。一般文学にしろライトノベルにしろ簡単な哲学書にしろ本と呼ばれるものは何でも読む。
別に漫画やゲームが嫌いってわけではない、むしろ大好きだ。ただ小説を読んで、自分の頭の中にその物語の世界を作り出すことが好きなだけだ。その本の内容が頭の中で映像化、アニメ化する。そうしてその世界観に陶酔するのだ。ある意味一種の中二病だが、俺はちゃんと頭の中だけで留めているから大丈夫。
そんなこんなしているうちに図書館に着いた。図書館には数人いたが入ってきた俺を見向きもせず、それぞれが自分の作業に集中している。この雰囲気が好きだ。教室みたいに騒がしい中で読書するのもいいが、こういう静かな空間で読書するのも捗るからいい。
本棚から読みたい本をとって椅子に座る。今日の本は道成秀介のハトの親指だ。道成秀介は中学生の時に初めて読んで以来、大好きな作家の一人だ。この人のは小説の最後に大どんでん返しを仕掛けることが多い。それだから読み終えたあとの感覚がまたなんとも言えないのだ。この小説はどうだろうか?ページを開いてみる_____
「もう授業始まるから図書館をでなさーい!」
司書の先生の言葉で現実に引き戻される。時計を見るとマジで授業始まる五分前。確かにそろそろ図書館を出ないとまずそうだ。教室へ戻ろう。
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午後の授業を終え、俺は少し浮き足立っていた。なぜなら今日は金曜日、明日から休みだからだ。部活生はこれからそれぞれの部活動があるのだろうが、帰宅部の俺にとっちゃ何の関係もない。荷物をまとめ、足早に教室を去る。なにか忘れてるような気もするがまあいい、忘れてしまうぐらいどうでもいいことだろう。
下駄箱で下足に履き替え、校門を出る。俺の家は学校から徒歩10分圏内にあるそこそこ大きなマンションだ。結構最近に建てられたものらしく、最新式のセキュリティシステムにカードキーシステムが導入されている。予備の鍵が作りにくいためメインを無くしたら一発で詰みだ。前に一度無くし掛けたときは危うく一生家に入れないとこだった。
そんな最新式マンションのロビーをぬけ、ポストをチェックする。ポストの中にはピザのチラシやら宗教の勧誘やらのチラシが沢山溜まっている。
その時、一枚のチラシに目が留まった。それは手作り感満載の、わら半紙に書かれた広告だった。
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高校生活に出遅れて友達がいないそこのあなた!友達貨します!
契約期間は最低半年~最長2年まで!
初めてのお客様に限りお試し期間半年無料!気になった方は気軽にお電話を!
電話番号090ー××××ー○○○○
(株)レンタル・フレンド
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かわいらしい丸文字で書かれた『友達貸します!』という文字、初めての方は無料という言葉、載っていない事務所の住所、極めつけは電話番号が固定電話でなく携帯電話用の090となっていること。どこからどう見ても怪しい。
あほらし、早く家に帰って捨てるとしよう。エレベーターに乗り、7階まで上がる。そしてドア横の穴にカードキーを差し込み、家に入った。
「ただいま」
そう言っても何も帰ってこない。当たり前だ、今家に両親は住んでいない。現在、俺はこの家で一人暮らしをしている。というのも、我が家は昔から転勤族で何かある度に引越しをしていた。おかげで小学校、中学校と仲のいい友達ができては引っ越すを繰り返し、次第には友達をつくることさえ面倒になっていた。さすがに高校はそう何度も変えるわけにはいかないと言って今は俺だけがここに残っている。でもまあ家賃は父が払っているし、毎月の仕送りもあるから特に不自由はしていない。
とりあえず部屋着へと着替え、テレビをつける。画面にはニュース番組が流れ、今日の出来事を伝えている。どうやらまた大物芸能人が不倫したらしい。一体何人目だよ。
そんなことよりも今重要なのはこの胡散臭い広告。怪しいのは十分わかってる。ただ今の俺にはタイムリーすぎた。正直俺も焦っていた。そろそろ友達を作らないとまずい、小中学校のころのように転校することはもうない。だから1人になってしまうと後々まずいことになる。そんなときにこのチラシが来た。まるで狙ったかのように、心を読まれたかのように。
「電話.......するか?」
自分に問いかける。本当に電話をかけてもいいのか、実は新手の詐欺で多額のお金を取られるのではないか、そんな考えが頭の中を堂々巡りする。
「すぅー、ふぅー」
1度深く深呼吸をし、考える。
.........決めた、電話をかけよう。なんかあったらそん時はそん時だ。
電話の子機を取り、紙に書かれた番号を打ち込み、電話をかける。2回コールが鳴った後に相手が出た。
「はいこちら株式会社レンタル・フレンドです」
意外にも出てきたのは女性だった。しかも声的に若い。
「あ、あの、友達を借りたいのですがっ」
「友達のレンタルですね。お客様の学年は?」
「高校1年です」
「分かりました。では明日担当の者を派遣いたしますので、お客様の住所を教えてください」
住所、と言われて一気に怪しくなった。教えてしまったら押し売りとか勧誘とかが押しかけてくるのではないだろうか。とは言ってももう後戻りはできない。俺は仕方なく教えた。
「はいわかりました。では明日担当の者がそちらに向かいますので宜しくお願いします」
そう言って電話は切れた。
ところどころ怪しかったり不安だったりしたが、今のところは問題はなさそうだ。とにかく、明日を待つとしよう。
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翌日、緊張からか日が昇る前に目が覚めてしまった。
「.........暇だな」
時計を見ると、まだ5時を少し過ぎたころ。起きるにはまだ少し早い。かといって二度寝をする気力もない。結局ベッドを出て、リビングに向かうことにした。
インスタントコーヒーにお湯を注ぎ、テレビをつける。朝のニュースでは昨日と同じ芸能人の不倫騒動を取り扱っていた。人が人なだけに衝撃が大きいのだろう。世の中、綺麗ごとだけでは回らないもんだ。他のチャンネルに切り替えてもニュースとテレビショッピングばかりで面白そうなものは何一つやっていない。
しかし暇だな。少し早いが朝食にしよう。1ヶ月も一人暮らしをしていると嫌でも家事スキルが身に着く。だから料理なんて朝飯前だ。............今は朝ご飯前だけどな。
「あ、何もない」
冷蔵庫を見るとそこには卵しかなかった。
「ま、目玉焼きでいっか」
ここは無難な朝食を選択。後で買い物に行かないとな。
その後、野菜室で見つけたキャベツを千切りにして目玉焼きと一緒にいただく。どうでもいいが目玉焼きには醤油派だ。
すっかり冷たくなったコーヒーを飲み干し、朝食を終える。テレビのマスコットが6時を知らせる。そういえば、あの担当の人って何時ぐらいに来るのだろうか、聞くのを忘れてしまった。さすがにまだ来ないだろうとは思うが、迂闊に買い物に出るのは危険だな。ゆっくりしておこう。
時計の針が10時を指したころ、突然ドアのベルが鳴った。間違いない、派遣の人だ。玄関へと向かい、ドアを開ける。
「あ、初めまして!レンタル・フレンドから来た夜見月子です!」
意外にもそこにいたのは女の子だった。160cm位の身長にショートボブの黒髪、二重の猫目である彼女。まさか俺の友達(仮)になるのは女子だっていうのか!?
「あの、大丈夫ですか?」
「あ、ああごめん。とりあえず、入って」
「お邪魔しまーす」
ひとまず彼女をリビングに連れていく。考えるのはそれからだ。
「とりあえず、そこに座っていいよ。飲み物はコーヒーでいい?」
「あ、はい。」
朝と同じインスタントコーヒーにお湯をかけて溶かし、彼女の元へと持っていく。そして彼女と向かい合うような形でイスに座る。
「すみません迷惑かけちゃって」
「気にしないで。それよりその、君が、僕の友達になってくれるの?」
「はい」
女の子か。男が来るとばかり思っていたもんだから衝撃だ。第一、男子ともそんなに仲良くしたことない俺がこの子とまともに話せるのか?不安がこみあげてくる。
「あ、あの.........やっぱり私じゃダメでしょうか?」
「いや、そんなことはないんだ。ただてっきり男が来るもんだとばかり思っていたから驚いてるだけで」
「ならいいのですが...........」
気まずい沈黙が流れる。このままではまずい、どうにかしてこの状況を打破しなければ。
「あの、夜見さん」
「はい?」
「俺はね、4月にここに引っ越してきたばっかでさ、高校に中学の時の友達なんていないし、クラスメイトと話が合わなかったりしてさ、知っての通り友達がいないんだ。でもそんなんじゃだめだと思って、思い切ってレンタル・フレンドに電話して君に来てもらってさ、だからその、何というかこう、俺と...........俺と友達になってください!」
うわ何言ってんだ俺、馬鹿じゃないの。超恥ずかしい。恥ずかしくて前を見れない。
少しの沈黙。すると突然
「あはははははっ!」
夜見さんが笑い始めた。
「早坂君って面白いですね。勿論に決まってるじゃないですか。私は、そのために来たんですから!」
「そ、そうだよね。何言ってんの俺」
「すみません、でもおかげで元気出ました。改めまして、夜見月子と申します。今回は早坂文様のレンタル・フレンドという形でやって参りました。」
「は、はい」
「それで、契約期間はどうしますか?早坂様は初めてのご利用なので半年間は無料となりますが....」
「じゃあ、半年でお願いします」
「分かりました!では期間は半年、料金は無料ということで契約させていただきます。それではこちらの契約書にサインをお願いします」
そう言うと彼女は持ってきたカバンから書類を取り出した。契約書、これにサインするともう後戻りはできなくなる。いや、もうとっくに戻れないか。心を決め、契約書にサインする。
「契約ありがとうございます!それではこれからよろしくお願いしますね!」
「よ、よろしくお願いします」
「ではまた明日!」
そう言い残して彼女は出ていった。全く、騒々しい人だ。しかも明日は日曜日で学校は休みなのに、また明日、なんて言ってた。もしかしたらドジっ子属性が付いてるのかもな。
この行動が正しいのか未だにわからない。いい方向に転ぶのか、悪い方向に転ぶのかもわからない。だけどわかることがある。現状維持じゃダメだ、友達を作らないとダメだ。これはそのために必要なことだ。結果がどうであろうと今はこれでいい。目指せ友達100人だ!
「あいつ、コーヒー飲んでないじゃないか........」
後でおいしくいただきました。
現在の友達 1人(レンタル1人)




