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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

長く短い祭

・長く短い祭


風呂蓋を開けると、肌との隙間には気泡が一切生まれないように、心尽くしてガムテープを口元に貼ってあげた男が、浴槽から出迎えてくれた。私はモルヒネを打つように、それにキスを施す。ガムテープ越しに生温い口唇を感ずる。溺れてゆくにつれて、隔てられたガムテープが憎くて堪らなくなるけれど、私だって善し悪しの分別くらいはつく。一通り愉んでから、それをシャワーヘッドで幾度となく殴りつけ、繰り返し踏みつけてから蛇口を回した。あんなにも躾たつもりなのに水が流れ落ちた途端、それは身を捩り、のた打ち回っている。私は虫籠に入れられたばかりの蝉を想起した。


金曜日。バーの裏口を伝って、場末のクラブに足を踏み入れた。ピンクのネオンが室内をぱらぱらと照射する。バカな男女が我を忘れてダンスしている。汗ばんだ肌と肌のセッション。

声を掛けてきた男から連絡先が記載された紙を預かる。慈悲をもって、相手の姿がみえなくなった所で二つに裂いて、手から離した。ひらり、と抵抗むなしく地面に落ちる。最後まで視線を送ってないけども、どうせ、落ちた。

適当なところで切り上げて外に出た。夜風が頬を撫で、髪が靡いて、少し視界が遮られる。


道中、煙草を咥える。風で妨げられないようにライターを手で覆って、火を点けた。

銘柄はピアニッシモ・アイシーン・グラシア。フェミニンらしく、とってもスウィートで、後味はあまりにビター。今日の煙はいつもより肺に染みた。

公園に着くとまだ半分近く残った煙草を灰皿に消し込む。

遊具は一切なく、刈られた草原があるだけ。今宵の満月が草原を黄金色に塗り替えていた。

私はプラダのポーチを放り投げ、ポンテ・ヴェッキオのネックレスを引き千切って、羽化するようにルージュの色したワンピースを脱ぎ捨てた。黒いキャミソールが露出する。

夏の夜、金の草原、独り舞い遊ぶ。嗚呼、爽快と顔が綻ぶ。

月も臆せず、黒揚羽よろしく全身で、踊り狂って、そして狂った。


祭は、はたと――終わりを告げる。サイレンが響き、程なくして赤いランプが映った。


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