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ラプンツェルの旦那さん

「……僕らのように先生の自宅に引きこもれたら良かったのですが」


確かに、ギルドで有力な亜人ならプレイヤーと知り合いだったものも居ただろう。

けれど、プレイヤーが消えたならそもそも二人のように契約していなければホームへ入ることすら出来ない。

いや、ホームは消えるはずだから契約していようと関係ないか。

けれど、なぜ私のホームだけが残っているのか。


「他に、私の自宅以外に残っている建物はないの?」

「噂には幾つか聞きますが、詳しくは……すみません」


二百年引きこもっていたなら分からなくても仕方がないか。


「良いのよ。気にしないで」


申し訳なさそうなトトと、ただただ私の帰りを喜びにこにこ笑顔のユユ。

どちらもきっと、私が知らないうちに色々辛いことを見聞きし成長した様子(おもにトト)に悲しむべきか喜ぶべきか反応に困った。







■□■□■□■□






わからないことだらけな異世界だけど、トトやユユがいて、家も魔法もあるのだから何とかやっていけるはず。

そう思っていられたのは、はじめの数日のみ。

水や火や明かりを魔法で作れても、私には食品を出すほどの技術はない。

頼りの綱であるアイテムバッグにも、ゲーム中に食品を備蓄したりする必要もなかったため入っていない。

数日はトトやユユの助けを借り、店の食料を分けてもらっていたが、そもそも妖精は普段花の蜜を主食に生きているため置いてあった食料は少しの嗜好品のみ。


「蜜も美味しいのに……」


私のためにとっておきの蜜を出してくれたユユが恨めしそうにつぶやく。


「僕らとはからだの作りが違いますからね」


トトはトトで、妖精とハイフェアリーとの違いを説明してくれた。


「基本は同じなのよ?人が食べる品物とは別に蜜も日に一度は口にしなければならないし」


言い訳がましく二人へと話す私は考えていた。


このままいけば、街へ出なければならなくなるのではないだろうか。【緑の小屋】周辺で動物や果物を取ってきてもいいが、あちらの森に人の手が入っていないとは限らない。


「……先生?」

「……どうしたものかしらねぇ」


首をかしげて見せれば、たまたま目が合ったピッピが小さな悲鳴をあげ、チッチはそしらぬように違う方向へ向き直り師匠である二人を呼ぶ。


「きゃっ!」

「せんせ~」


自己紹介され数日が過ぎたとは言え、いまだに打ち解けられたとは言いがたいユユやトトの弟子、ピッピやチッチが眉を下げ師匠を見つめ、師匠たちは視線を合わせこう告げた。


「覚悟を決め、街へ出るいがいないでしょう」

「一度でまとめ買いすればきっと大丈夫よ!」

「……でも、どこがいいかしら」


位置的に、【緑の家】と【ラプンツェルの塔】は私の生活の(かなめ)である魔法薬の材料を得る関係で南にある。特に【緑の家】周辺の森からは品質の良い薬草が取れるし、モンスターからも生きの良い材料をえることができる。付け加えれば、妖精に必要不可欠な花の蜜もこの森で採取できる。

一方、【妖精の店】は寒くて年中雪に閉ざされなかなか街同士の物流が上手くいかず、調合した魔法薬を高く売ることが出来る北にある。


「そうですね。三人で行くのなら、人や亜人の流れが多く人混みに紛れることができる南の街にしましょう」

「じゃあ、南の街【サビア】に決定ですね!用意しよ。あ!そうだ……先生、折角だから旦那さんのお墓参りにも行きたいです!」

「それはいいですね、フィートさんのお墓からも随分足が遠退いていましたから」


ユユが喜びお出掛け準備をはじめるはずが、ん?と動きが止まる。

私は買い物へ向かう街が決まりほっとしたのもつかの間、良くわからない言葉を聞いた気がした。


「百年くらい行ってないからきっと草がボーボーね!」

「いえ、あの場には永久保存の魔法がかかっていますから草もお墓も昔のままのはずです。ですが、長い間会いに行かなかったのですからお詫びとしてお花とフィートさんが好きだった魚を持っていきましょう」

「えー、旦那さんの好きなのはアレだよ!」

「ですが、アレはさすがに叱られますよ」



「……えっと、ユユ?それにトトも」



二人がお墓参りの話で盛り上がっている。

私には理解できないその、旦那さんやフィートさん、が時たま聞こえてくることに耐えられず、ついに聞いてしまった。


「はい」

「なんですかぁ?」

「その、旦那さんと言うのは……?」


聞いた瞬間の反応は様々だった。

トトからは、あぁ、この人も年を取ったな……そんな言葉が聞こえてくるような暖かな眼差し。

ユユからは、そんなに辛かったのね……と涙を誘う潤んだ瞳。


「……う」


いや、だから、その、……だれ?







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