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もしもの話 : ラプンツェルのため息

本編とは少し違う、もしかしたらこんなこともあったかもしれない……もしものお話です。

どんなに睨み付けても、唸っても、テントの入り口は小さいまま。ぽっかりと空いた、トイレのべんざより小さな穴に困り果てた。私とユユがトトに呆れられつつ頑張って両端をぐいーっと引っ張ってみても、魔法道具が伸びることもないわけで。これじゃあ、私達妖精族やドワーフ族しか使えない……どうしよう。皆、あんなに喜んでくれたのに、今さら使えないとは言えないよなぁ。

あぁー、と落ち込む私とユユに、トトが慌てて部屋を飛び出して大きなドワーフのゴル君を引っ張ってきてくれた。


「あの、せ、せんせい」

「何だよトトっ。おらぁ今忙し……って、かぁちゃん何で落ち込んでんだ?」

「うー、ごるくーん……きてくれたの?」


どしんどしんと大きな足音を立てて、床を揺らしながら近づくゴル君の足に泣きつく。情けない母でごめん……そしてやっぱり大きいな。私が立って抱きついても、顔の位置は彼のお臍辺りで、胴回りがたくましすぎて手が届かない。


「ううっ。どうしよう。どうしたらいいの?」

「あー、なるほどなぁ」


困ったような、照れたような優しい手つきで私の背に片手を当てて撫でてくれた大きな息子。ふんふんと話を聞くと、直ぐに仲間のドワーフ族に声をかけてくれて、このギルド内に避難していた者達を集めてくれた。



「まー俺らなら魔法道具も弄くれる。すくねぇが、仲間も揃ったし、夜までには広げられるだろ!おめぇらも!避難してるなか仕事させてわりーが……」


もさもさの髭や髪をぼりぼりさせながら、自分の仲間に頭を下げてくれるゴル君。


「なーにいってんだ!俺らが族長のかぁちゃんの依頼を断るかって!」

「そーだぜ!」


集まってくれたのは、ゴル君に比べたら物凄く小さな、私の胸くらいの背丈のおじさんが三人。それから、もう少し小さな女性が三人。お子さんが二人。小さなドワーフ族の、小さな子供たちはとても可愛くて、仕事を頼むのも忘れてすいーっと手を伸ばしてみる。


「かーわい……重いっ」


ふわっふわの髪の毛におおわれた男の子。どう見ても幼児さんなんだから、私でも抱き上げられると思ったのに……重い!


「先生ったら、ドワーフのお子さんなんですから筋肉質で体重があるに決まってるじゃないですか!それにもう年なんですから、身体に気を付けてくださいよ?」


はぁ。と腰に手を当てて、小さくため息を発して此方を見つめたユユと、みつめあう私。

……え?なんて?

抱き上げ損ねて抱き枕のように子供を抱きしめたまま、ぎぎぎと首を鳴らして聞き捨てならない言葉を発したユユを見つめ、見つめ合う私達の危ない空気をどうにかしようとトトやゴル君が背後であわあわしているのにも気づいていて、でも、でも、私はそんな歳じゃない!と反論したい!


「わ」

「どうせ、私はまだそんな歳じゃないわ。とか言うつもりなんでしょう?先生はもう何百年も生きてるんですから!いい歳です!違いますかっ?!」

「……いいえ。ちがいません」


私は、私は、まだ……でもこの世界では二百歳越えだもんなぁ。

がっくりだよ。

腕の中でモゴモゴする小さな子のふわっふわの髪やつるっつるの頬にすりすりしながら、私はほそーくため息を吐いたのでした。


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