ラプンツェルとリルケと封印。
ザクザクザク。
【ラプンツェルの塔】に設置してある【紅の鏡】を通り抜けて【緑の家】まで帰ってきた。
それからは家を出て、ひたすら歩くのみ。森の中を、リルケノバの居場所を探して歩き回る。昔は魔力を感じて其処へ向かうか、もしくはリルケノバ自らが迎えに来てくれたものだけど……全く気配が感じられない。
「おかしいなぁ」
いや、気配とか言ってる私自身もおかしいんだけどね。どうも、日本人の私とゲームの中のラプンツェルの記憶がごっちゃに混ざっているようで、知るはずのない事を当たり前のように思い出したりしていることがあったりして若干ビビり気味ではある。
それとは別に、とにかくリルケノバが見つからなくて困ってる。リルケは、いったいどこへ行ったのか。
ユユはまた私宛に手紙やら人やら送られて来たときの連絡係と、ピッピとチッチ先生が連日家を空けていたら子供は成長しないだろうってことで緑の家に置いてきた。トトは私と別行動で、森を探索中。
「リルケ……」
なんか、有ったのかな。
灰色のロングワンピースにクリーム色のエプロンをかけ、編み上げブーツに怪我防止に皮の手袋を着けて森を見渡す。
「……ぃ。せんせいっ」
微かに声が聞こえて、上を向くと、其処には羽を広げ上空から下降してくるトトの姿。
「トト、リルケは見つかった?」
薄く大きな羽を折りたたみ、ふわりと枯れ草に足を乗せたトトは、難しい顔をして私へこう告げた。
「……森をいくら歩き回っても、主様には会えないでしょう。上空から見ると分かります。リルケノバ様は結界内に封印されて居られました」
「けっか、い」
「魔法陣や書かれた文字を読むと、あれは人間に古くから伝わる結界魔法のようです。中の様子は見て取れませんでしたが、強い魔力が渦巻いているように感じられました」
つまり、人間がリルケを動けないように結界内に閉じ込めた。たぶん、殺してしまわなかったのは単純に実力不足もあっただろうけど、同時にリルケが居なくなっとモンスターや魔族が森の中に入り込むことを恐れたからだと思う。
「その結界、壊せそう?」
いくら人間の作り出した者だとしても、二百年前なら彼らの中にもごく少数ながら強い魔力を持つ者もぽつぽついたからね。
「……壊すことはかのうですが、解放した後のリルケノバ様の怒りが恐ろしい気もします」
「それは、そうね。勢い余って人間を虐殺してしまなきゃ良いけど」
「そうですね。殺すなら森をでた後にしていただけるようたのんでみましょう」
いやいや、そーゆーいみじゃないですから。
「うーん。それじゃあ、人間がこのと地から消えてから結界をこわす?でも、それだと怒り狂ったリルケノバの相手を私たちがする羽目になるわよね?」
「確かに」
悩んだ。けど、私達がリルケの怒りを請け負うのはなんか違うし……怖いのもある。
「出来るだけ話し合えれば良いのだけど、きっと」
「無理でしょうね」
はぁぁ。と、師匠と弟子ともに深いため息を吐き出してからゆっくり背中の羽を広げる様子を頭の中に想像する。
フワリ。身体の倍はありそうな薄くて白い羽が広がり私達は空へと舞い上がった。
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「うわぁ」
「どうしますか」
見る限りかなり広範囲の結界で、こりゃ人間族も頑張ったね!と思わず誉めてしまいそうになる。まぁ、これだけ大きな結界なら、犠牲になった魔術師も沢山居ただろうしね。
「じゃあ、私は中心から行くわ。トトは危ないから背後からお願い」
「分かりました」
私の半分くらいしかない羽を優雅に羽ばたかせて、彼は結界内の祭壇から見て背後に向かう。私は中心、祭壇の丁度真上に陣取った。
「さてと、リルケ、二百年ぶりの再会と行こうか……」
鞄から出したミスリルの杖を両手で握りしめ、振りかぶり、結界の膜を……ドンっ!と突いた。
パァァァッ!!
薄い膜が弾け、中から二百年間結界内に満ちて滞っていた濃い魔力が溢れ出す。
身体にビリビリと響く鈍い痛みに、思わず眉をひそめると。
「ィィィィィイッ!人間どもめぇっ!!許さぬぞぉぉぉ!」
髪を振り乱し、その美しい顔を憤怒に変え、彼女は飛び出してきた。
地面に届くほどの長く艶のある純白の髪を、溢れ出る魔力で揺らめかせ。いつもなら綺麗に肌を隠し着こなしているはずの着物をバタバタと吹き荒れる強風に乱れさせながら。強い恨みを抱き見開かれた深紅の瞳で、人間族の住む辺りを睨みつけ怨念を叫ぶ少女。
あぁ、間違いなく、彼女こそ、この森の主リルケノバだ。
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