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ラプンツェルの休息。

お気に入り登録62件!ありがとうございます。

……予想はしていたけれど、こりゃ酷い。


取りあえず、様子見にブーちゃんのホームを出て夕焼けに赤く染まった森を進んでいたら、街のあちこちに小さな【コポック】の分身達が見えて、少しぎょっとした。だって、ゲーム時代のように画面上なら沢山の小人登場に可愛いと喜ぶとこだけど、実際みると結構迫力もあるし何より同じ顔が大量に空へ浮かぶ様は不気味すぎる。

立ち止まり、耳を澄ますと【コポック】達の声は揃って「土地の所有者が契約内容を変更いたしました。明日の十七時、強制排除が発動します。人間族は直ちに退去して下さい。繰り返します。人間族は直ちに退去して下さい。」

と繰り返しているのが分かって、土地の所有者って私のことだ!と若干緊張気味。


まぁ、だからと言って私がこれ以上何かするわけじゃないけど、ただちょっと、これから起こるだろう騒動を後で話に聞くだけだとしても、やっぱり心構えがいるからね。


「うわー」


丸く円を描いた街の中、其処に住む人間はみんな混乱に埋もれてざわついていた。


「先生、どうします?」


トトたちはそれを見ても眉一つ動かさない。ただ私だけを見て、にこりと笑うのだからよほど人間が嫌いなのか、それとも今更何の興味もないのかもしれない。


「ん、ホームに帰ろうか。マーちゃん達は?このままブーちゃんのホームに泊まる?」

「いいえ、子供たちも居ますし帰ります」


マーちゃんに聞いたのに、なんでポルルが答えるわけ?

チラッとマーちゃんを見ると、……私の倍はありそうな斧を眺めている。笑顔で。


「……そっか、うん。じゃあ私達とは此処でお別れね」


この様子を見てしまうと、また街へ戻り門を潜って外へ出るのは危険を感じる。

だから、ここは便利なアイテムに助けて貰うことにした。


「え、ツェル様は帰るのね!」

「帰るけど、ブーちゃんのホームに置いておいた予備の鏡を使おうかなって」

「なるほど、確かにその方が安全ですね」


ふんふん。とポルルは突き出たお腹とプルプルした顎肉を揺らしながら頷いて、肩に掛けた弓と矢筒を確認した後マーちゃんの手を引き帰る準備。


「それじゃあ、今日はありがとうございました」

「また会いに来てなのね!」

「えぇ、また来るわ。明後日辺り、様子を見に行くわね」

「さよなら」

「気をつけて!」


少し言葉を交わしたくらいで、後はあっさりとしたものだった。


まぁ、そうよね。お互いに居所を知ってるし、会いたくなれば会いに行けるんだもの。


「さ、帰りましょう」



「はぁぁ」


疲れたっ!

あれからブーちゃんのホームへ戻って、【妖精の店】を経由してから【ラプンツェルの塔】へ帰ってきた。買ったものを分けたりしててもう暗くなっていたから、あっちに泊まっても良かったんだけど……チッチとピッピに怖がられて居辛かったしね。


暖炉の前に置いてある揺り椅子に腰掛けて、もう使用しても怒られないはずの暖炉へ火を入れて少し休憩中。


お腹空いたから、四階へ行ってキッチンで御飯作って、お風呂は行って、それで……






……ハッと目を覚ますと、暖炉の薪がボキリと音を響かせながら折れていた。


「ねてた?」


精神的にも肉体的にもどっぷりと疲れていたから、うっかりうたた寝していたらしい。若干垂れていたよだれをふきながら窓の木戸を少し開けるとまだ夜中で、それに関わらずやっぱり街はザワザワと落ち着いていい様子だった。塔の前にいた兵士は……うわっ!まだ居るし、こっち見てる!


「うーご飯」


暗いし、そんな分かる動きはしてないから見えてませんように!と祈り、うすーく開いた木戸をそーっと閉めて、カツカツ煉瓦を響かせ階段を下りる。

最初に来たときは下まで降りなかったから、少し楽しみなのよね!


「うわぁ。これ、全部私の?」


階段の下には、ピカピカに磨かれたカントリーキッチンに、分厚い一枚板で作られたダイニングテーブルセットがあった。鉄製の持ち手が長いフライパンや鍋も見える。奥にある二つの木製扉はきっとトイレとお風呂だな、と目星をつけ、まずは空きっ腹に餌をとキッチンへ向かった。


「よっと、」


ジュージューと焼ける厚めのベーコンに、スクランブルエッグ、買ってきたフランスパンを厚切りにして木皿へ並べる。後はユユに分けてもらったスープをつけたらもう完璧じゃない?

なんて、誰もいない室内で一人食事をすませて、先にお湯を溜めておいたバスタブに浸かり、もうくたくただった身体を休ませるためにまた五階へ上がってお姫様ベッドへ直行。


「あの猫足のバスタブ買うの、すっごい大変だったんだよなぁ」


イベントクリアして、課金して。まったく、子供の頃のお小遣いほとんどこのゲームにつぎ込んじゃってたんだよね。バカな私。今役立ってるからまぁいいけどさ。


スルリと、シルクっぽいネグリジェを汚さないように気をつけながらベットへ潜り込む。


「……わたし、帰れるのかな」


独りになったら急に不安にかられて、自然と零れ出た言葉。

いつかは、ちゃんと帰れるのか。それとも、一生ここでラプンツェルとしていきるのか。

それは、今は分からない。帰れるとしても、あの子達を置いて、その道を選ぶことができるのか。


「……寝よ」


考えてもしょうがないことを、延々と夜中に独りで悩むのは精神衛生上良くないから。と、早々に考え事をすること自体を諦めた私は、暖かなホームの中ふわふわのベットとしっとりと肌になじむ毛布に包まれて眠りについた。

26.11.04 ムーンライトの感想内で、誤字指摘いただきましたので一部編集いたしました。

感謝!です。ありがとうございます!

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