ラプンツェルと書類と小人。
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「あったっ!あったのね!!ポルル見てっ」
「うん、でもこれは……一度鍛冶屋で手入れをお願いしないといけないね」
梯子階段を降りてすぐ横に立てかけてある大きな斧や剣や杖。マーちゃんはその中から巨大な斧を。ポルルは弓を持ち上げ一つため息を漏らした。
「二人とも、例の権利書類を見つけるの手伝ってくれる?」
一方の私はと言うと、ユユとトトを引き連れあちこちをひっくり返しながら進んでいた。
初めにたどり着いた場所はリビングになっていて、そのま大きめのテーブルや椅子なんかが並べられている。奥へ行けば細い廊下に四つの扉。二つはお風呂とトイレ、残りはブーちゃんの部屋と昔はマーちゃんやポルル達が住んでいた子供用の大部屋があった。
「ブーちゃんの部屋も、すっかり埃まみれね」
私のホームは比較的自由だったトトやユユが定期的に掃除しに来てくれていたらしいけど、マーちゃんやポルルは街の人間にも広く顔を知られていて、ブーちゃんのホームへこっそり通うのはやっぱり難しかったのかもしれないな。しっかし、これでよく、虫が居ないもんだ……いや、必ず後で掃除しないと。
うー、想像したらぞわぞわしてきた!
「んーないなぁ」
「ないですねぇ」
「あー!!あった!!」
一人作業を中断して、本当に虫がいないか周囲を慎重に観察していると、ユユの喜びを伝える叫び声が耳に届き思わず走り寄る。
「あぁ本当ですね。これは確かにこの土地一帯の権利書です。それにこれは……森の主の許可書」
二人の背後にたどり着き、その頭上から書類を覗くと……。
「これは、まずいわね」
「はい。かなりまずい状況です」
思わず、ゴクリと唾を飲んだ内容に、私は顔色を青く変える。
一枚目は探してい土地の権利書。でも、重ねて見つかった二枚目は、この森に住むには無くてはならない書類。【森の主とのお約束】と書かれた森の中でのルールブックだった。
やばいやばい。とは思いつつ【森の主とのお約束】の下、続きを読む。
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【森の主とのお約束 三】
この森の木は主様の家族、殺してはいけない。
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「……」
この【主様】が、私がこの森周辺に【緑の家】や【ラプンツェルの塔】を建てるとき、挨拶に行ったあの【森の主】なら、かなりマズいことになる気がした。だって、それらの許可を得るのだって相当苦労したんだから。嫌がらせのような頼み事や試練なんかを幾つもクリアさせられ、その上森に来るモンスター駆除の手伝いをすると約束して、やっと許可を貰えたくらい気難しいキャラだから、私としては内心……あ、人間終わったな。って感じ。
だって、気難しいだけじゃなく滅茶滅茶怖くて強いお方なのだよ!
私じゃ絶対勝てない。それだけは言い切れる。そもそも、あの方がいるおかげでこの森にいるモンスター少ないんだからさ。私にどうこうできる相手じゃないでしょ?
「リルケノバ様は、お怒りでしょうね」
私が言葉もなく、書類を見つめ立ち尽くしていると前にいるトトがボソッとそう囁き。
「でも、リルケ様って怒りっぽいのになんで今まで何にも起きなかったのかな?」
ユユが言葉を返すと、私も疑問に感じた。
確かに、気難しくて短気なあの【森の主】リルケノバが、なぜ今の今まで二百年も人間相手に勝手を許したのか。
「確かに、不思議ね。リルケなら森をあんなにした人間を街ごと消し去ってもおかしくないのに……でも、まずは」
一枚目を取り出し、ブーちゃんな名前と配偶者としての私の名前も確認。
カバンからミスリルの杖を出し、持ち手の部分を書類に当てる。
「コポック」
呼びかけると、契約書にはつきものな契約小人【コポック】がポンっと可愛らしい音を鳴らして現れた。
彼らは皆、契約書を守ることを仕事とする小人でサイズは決まって親指ほどの大きさしかない。でも、小さいからと言って油断するとかなり危険で。
勝手に契約内容を変更しようとしたり、書類を破棄しようとすると、必ず相手の一番苦手な方法で撃退され、尚且つギルドカードが警戒色の黄色に染まってしまう。そうなるともう、ギルド職員と警備兵立ち会いの元でなければカードの色を戻してはもらえない。
まぁ、書類な改ざんはそこまで重い罪にはならないけど、そんな人は二度と【コポック】に契約を認めてもらえないわけで、仕事も結婚もその他諸々が出来なくなると言うわけね。
なんて、少し昔読んだゲームの説明書を思い浮かべながら、書類の上にふわふわ浮く【コポック 】を見つめて私は告げた。
「……コポック、サビアの森の契約内容変更をお願い」




