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不自由な世界 4


 ドロテアに誘われるがままに、三人は食事処に入った。店には事前に話が通してあったのか、個室には既に豪奢な食事が並べており、クズハとミルディンはそれを見て驚嘆する。


「これは……」

「あらま、豪勢な事」


「なに、命掛けで攻略を進めているのだ。このくらいは取らねば戦えんよ」


 驚く二人を尻目に、当然だと事も無げに言ってのけるドロテア。彼女は店員にグラスを持ってこさせると、赤くツンと鼻につくワインをそれぞれに注がせた。


「それでは、乾杯」


 言って一息に飲み干す彼女。浅黒い肌に、余裕のある態度。豪快であるが、一方で気品ある繊細おも感じさせる彼女の挙動。動き全てに宿るそれは、軍団の指揮者として必要とされるカリスマなのだろう。


「それにしても、攻略ギルドの貴方が、何で彼を……」


「そうよねぇ、正直意味が分からないわよ」

「ふむ……私が話したいのはお前だ。同席の者のは発言を期待してはいないのだがな……」


 口元に手を当てて思案するドロテア。その仕草は妙に女性らしい艷がある。先の仕草とアンバランスな魅力が撒き散らされ、二人はその場に居るだけで彼女に飲まれそうになっている。


「アンリとか言ったか。彼女らを交えた方が、お前の口も少しは軽くなるのではないかな?」


「どうぞ、ご随意に」


「ふむ、その態度、嫌いでは無いぞ」


 表情を変えずに応える彼の様子に気をよくしたのか。更に酒をあおるドロテア。どうにも独特の感覚を持っているようだ。


「そうだな、最初に聞きたいのはお前の力についてだ」


「力……ですか?」


 彼の代わりにクズハが応える。


「確かにギルド員の人には勝ちましたけど……」


 そうではない、と暗に言うようにドロテアは口を開く。


「確かに善戦していたな。だが、クロムウェルは気付いていなかったようだ。……私には見えたのだよ、貴様は何かを隠している。私の目がそう言っている」


 有無を言わさぬ言葉だ。彼女の中では何かがあるのが確定しているらしい。


「貴様の力は何だ? スキルの一つというわけでもなさそうだ。あるいは……」


「スキル以外に力になるようなものがあるって言うんですか?」


「……システム外スキル」


 沈黙を守るかと思われていたアンリが、静かに口を開いた。


「ほう?」


「このゲームが想定していないスキル。規格にない技術。そういう抜け道があるとの噂があります」


 そんな無茶な、とミルディンが呟く。そんなものがある筈がない。都市伝説の幽霊と同程度のつまらない噂だろう。


「いや、案外そう馬鹿にしたものでもないのだよ、これがな」


 呆れ顔のミルディンを諭すように、ドロテアが発言する。


「この世界は非常に精巧だ。五感各種の擬似再現に、人や物の挙動がほぼ全て再現されている。では、その世界にあるスキルとはなんだ?」


「何だって……そりゃあゲーム内でのみ発揮される力の源というか……」


「……もしそうなら、リアルワールドの再現に加えて、機能を上方修正するように働きかけるエンジンが作用している……」


「そうだ。そのエンジンが発動する条件がスキルというわけだな。私達はそのサポートを得て、通常攻撃とは挙動の違う攻撃スキルなどのアクティブ、鍛冶や練金などのパッシブを使用している。だが、それが発動する条件がもし、スキル以外にあったとしたら」


「そりゃあ……一々スキルを上げる必要が無くなる?」


 言葉を噛み締めるようにして、内容を吟味するミルディン。ドロテアは余裕のある様子を崩さずに、微笑しながら頷いた。


「そういう事だ。事実、スキルに頼らずとも、リアルワールドで武道の心得があるものは、ゲーム内でも技術として習得した技の一部を使用出来る事が分かっている。使用出来たのは基本的な技のみだったが、ゲーム内の何かに適合しているなら、スキル上昇以外のプレイヤー強化方法があるという事になる」


「そういった技術を解明した一部の者が、それを秘匿しているのでは無いかと言われていてる。……私としては、そのような技術があるのならば、攻略組に引き渡して欲しいのだがな」


「で、その技術を持ってるんじゃないかって疑われているわけね、アンリは」


 溜息を吐くようにクズハが呟く。確かにドロテアの言う通りならば、一部の突出しているプレイヤーならば、その技術を秘匿している可能性がある。


「その盾にしてもそうだ。そんな形の物は見たことがない。最近手に入れたユニークアイテムと言うのなら兎も角、相当にカスタムされているという事は長く使ってきているという事だ。それなりに以前から、長く使用を続けている。それは特殊なスキルによって入手したものではないのか?」


「……」


 アンリは何かを言葉にしようとして、それでもまた口を噤む。


「おまけに、お前のスタイルは対モンスターというよりは対人戦闘向きの動きだ。それに、特殊行動への対応力が妙に研がれている。真っ当なプレイングではそうはならん。万一不穏な行いをする輩であれば、それこそ処断しなければならんしな」


 なるほど、とクズハが頷く。一位ギルドは権力を持つ分、ある種の警察機構のような機能を期待される。確かにPK前科のある、奇妙なプレイヤーがいれば注意を向けないわけにはいかないだろう。


「そういう事だ。もっともそれ以外に、個人的な興味もあったがな」


 茶目っ気のあるウインクを一つ放って見せるドロテアににそれでもアンリは微動だにしない。

 一つ作ったような溜息を吐いたドロテアは、そのまま席を立つ。


「なに、次のボスについても粗方検討は付けてきた。そう時間を置かずに、次の階層も開放されるだろう。話はその時でもよい」


 勝てるんですか、とクズハが問う。


「なに、我々が負けるなど有り得んよ」


 自身ありげにドロテアは返す。


 一週間後、街に一報が届いた。

 “オブシディアン・ナイツ”、ボス攻略中に壊滅。


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