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不自由な世界 3

 アンリの首元へと迫る剣戟。力任さに振り落とされた剣を、しかしアンリは身体を横に向けて閉じながら、右の曲刀を跳ねあげて辛くも受け流す。刹那遅ければ頬が切れてしまっていただろう。


「ククク、避けやがるじゃねえの。なあ、やってくれるじゃねえか泥付きよぅ」


 クロムウェルは剣を構えて笑う。


「……」


 アンリは頬を撫でた剣圧を拭うように顔に指を這わせる。先の一撃が決まっていない以上、戦いはまだ続く。


 内心気が気でないクズハは、群衆の中から決闘の推移を食い入るように見つめている。相手は攻略ギルドのメンバーだ、並の手練ではない。先のミルディンとの決闘よりも数段厳しいものだろう。けれども、果たしてアンリが負ける事などあるのだろうか。


 がちゃりと、アンリは盾の中に剣を隠す。否、隠したように見えたのは盾の内側で、彼が何かを取り出していたからだ。それも盾を離れる時にはもう収納され、見えなくなっている。

「……」


 無言のまま彼はまた剣を構える。今度は剣を前に出し、盾を引くようにしている。


「構えが変わった……?」


「何かするつもりみたいね、彼」


 アンリは重心を下げ、摺り足でじりじりと前身して行く。陽の光を背にした彼の手元は影に包まれており、曲刀の先が光を怪しく反射する。


「はン、何のつもりか知らんがなッ……」


 クロムウェルは先程と同じように力強い突きを繰り出す。それはビデオを巻き戻した様に盾に防がれ、また弾かれた剣先が力任せに古い直され……いや、今回は振るい直されない。されにもう一度突きを食らわせるつもりだ。


 アンリへと迫る両手剣の苛烈な突き。けれど彼は驚いた風でもなく、それこそ先のクロムウェルのように、曲刀を使って、力任せに両手剣の剣先を弾き上げた。


「なにィ」


「ふッ」


 虚を突かれて硬直したクロムウェルの体へ、振り下ろされる葦切の斬撃。彼の肉に食い込もうかという刹那、クロムウェルの首筋で、ぴたりと剣が止まった。一撃必死の状況。事実上の決着だ。


「その剣、やはり悪し。同じ技を二度も続けて放つものではありません」


「ッぐうッ……ええい、もう一度、もう一度だ人殺しめ、今度こそ」


「そこまでだ。やめよ、クロムウェル」


 不意に、“オブシディアン・ナイツ”の集団の中から声が上がる。若い、けれどもよく通る美しい声だ。それと共に、浅黒い肌の精悍な美人が進み出てくる。


「だ、団長ッ、しかし、こいつは……」


「決闘も申し込んだのも、それに破れたのも君の方だったと私は記憶しているんだがね。我がギルドの掟を忘れたのかい?」


「うッ……勝者には……」


「そうだ、勝者には敬意を払え。彼がどのような過去を持ち、今どうしているかは別として、彼は君に勝った。だから、敬意を払いなさい。それが弱者の義務だ」


 不承不承と言った形で顔を伏せるクロムウェル。そんな男を一顧だにせず、女はアンリへと歩み寄る。


「それに、これ以上しても無様を晒すだけだ。奴の手に何が握られていたのか気付くかなかったお前ではな」


「何ですと?」


 視線を向けられたアンリは、観念したかのように右の掌を晒す。中には紐に結わえられたダガーが帯びられていた。ダガーというよりは、そのまま小さな鉄の棒に近い。


 それを掌に握ったまま剣を振るったのだ。恐らく剣を振るう合間に投擲するつもりだったのだろう。少なくともそれを知らずに戦い続けたとして、クロムウェルが回避出来た保証はなかった。


「貴様の戦い、見せて貰った。なるほど我がギルドの手練が敗れるのも頷ける。貴様の所属するクランは?」


「白のクランです」


「そうか……惜しいな。黒であれば一も二もなく我がギルドに迎え入れるものを。その力は何処で得た」


「後悔と修練の果てに」


「ほう、力の源を後悔と言うか。ははは、中々面白い御仁のようだ」


 団長と呼ばれた浅黒の女は、呵呵呵と笑い声を上げて喜色を見せる。


「気に入った、私はお前と話をして見たくなったぞ。有無は言わせん、ついてこい」


「だ、団長」


 咎めるようにクロムウェルが異を唱えて進み出る。しかし団長と呼ばれた女は、それを鬱陶しそうに手で払う。


「私が決めた事だ、嫌なら私に勝て。力づくで止めてみせよ。私を組み伏せてみせよ」


「ぐうっ」


 街へと歩みを進める団長。その様は堂々としており、力強い美しさがある。獰猛な獣のような精気に満ちた、活発な美だ。


「ああ、仲間も連れてきて構わんよ。それもまたお前を推し量る一部だ」


「……危害は加えないと、約束して頂けますか?」


「うん? 報復でも恐れているのか。あれはクロムウェルの私闘だ。我がギルド員であっても、勝敗に関しては知ったことではない」


 吐き捨てるようにきっぱりと言って放つ女。さばさばとしているその言葉には人を惹きつける何かがある。

 ついつい耳を傾けてしまうような、軍団の長たる者としてのカリスマ性だろうか。


「ああ、名を告げていなかったな。私はドロテア。黒のクラン第一位ギルド、“オブシディアン・ナイツ”の団長をやっている。おまえの名は」


「アンリ、泥付きのアンリです」


 ふん、と皮肉げに鼻を鳴らして見せるドロテア。クロムウェルは不満気な顔をしつつも、彼女の警護にと人員を割り振っている。

 人垣の中から、クズハとミルディンがアンリに近付いて来る。不安そうな顔をしたクズハと、なんともはやと呆れ顔のミルディン。


「彼女らが、私の仲間です」


「そうか、では来い。私を楽しませておくれよ」


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