官吏任命のころ
春の官吏任命のころなど内裏あたりは独特の雰囲気があります。雪が降り、ひどく凍り付いているのに国司に叙任されるべく申請書を持ち歩く四位・五位の姿が若々しく、意気揚々としているのはとても頼もしく感じられます。
老いて頭が白いなどが取次ぎを頼んで女房の局等に寄って、自分の才覚が優れていることを得々と説く姿を、若い女房は真似て、笑いものにするのですが、本人はそのことに気づきません。「帝に良くお伝えください」などと言っても、任官できた方は良いとしても、任官できなかった方はすごくあわれです。
三月三日はうらうらとのどかな陽射しです。桃の花が今、咲はじめ、柳の葉が出そろうなどとても綺麗です。やはり柳の葉は芽吹いたばかりが良いですね。葉がしっかり広がってしまったものはあまり良くないと思います。
爛漫と咲いた桜を長めに切って、大きな瓶にさすなどは、とても良いものです。桜重ね(上、白で下が紫または赤の色合い)の直衣の下に内着を見せて、お客様あるいはご兄弟といった人が瓶の近くに座って御簾の中の皇后さまとお話をしている様子は、とても美しいものでございます。
四月の賀茂祭りの頃は大変風情があります。三位以上の方も殿上人も上着の下は同じように白の薄物をつけられて、涼しげでよいものです。木々の木の葉がまだ繁くなく、若々しく緑色で、霞も霧もないからりとした大気が、別にこれといった理由もないのですけど気持ちが良いのです。少し曇った夕方の夜、ほととぎすが遠く、空耳とかと思うばかりにたどたどしいのを耳にするのは感無量です。
祭り近くになりますと、黄土色・赤藍色などの衣類を申し訳程度に紙にくるんで、行き互い、持ち歩くなどは趣がありますね。裾を紫、紺色などに濃く染めた着物、むらむらに染めた着物などもいつもより良いものに見えます。