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第漆章 目覚め

星が煌めく夜、柔らかな灯が静かに揺らぐ部屋の中で彰人はそっとため息を洩らした。

「まさか『誓いの指輪』が奪われてしまうとは…」

 美夜が結界の消滅に気付いたのは南雲の家に到着してから暫くの事、それまでは祠の放つ力と天城の放った力が混ざり合い気付かなかったのだ。

「……」

「美夜…」

 青ざめる美夜を朔羅がそっと抱きしめる。『誓いの指輪』は美夜の一族が守護していた宝、それを天城に奪われたという事は彼女にとって最悪の事であった。

「…僕があの時『箱』を忘れなかったら…」

 沈む創太、普段みせる笑顔など一切無くなった暗い表情で体を丸め部屋の端に座り込んでいた。

「んっ…」

 その時、小さなうめき声が隣の部屋から聞こえた。

「椿!」

「兄様…?」

 彰人が慌てて障子を開けると、暗がりの部屋の中椿が起き上がっていた。

「椿!」

(ねぇ)!」

「椿!」

 皆が立ち上がり、彼女の名を呼ぶ。それに答えるかのように椿は淡く微笑んだ。

「ごめんなさい。もう大丈夫ですわ」

「椿、良かった。…目覚めた矢先申し訳ありませんが、ご報告があります。『誓いの指輪』が奪われました」

 ほっとする彰人であったが、次の瞬間には態度を一変させ、椿に先ほどの件を伝えた。

「申し訳ありません。結界の消滅にすぐ気付かなかった私の責任です」

 姿勢を正し、美夜は頭を下げた。それと同時に創太も頭を下げる。

「…ごめんなさい。…僕が『箱』を忘れたんです」

「そう…ですか」

 椿は大きく息を吐くと美夜と創太を見つめた。

「二人とも怪我はありませんか?」

「大丈夫です」

「…ないです」

 それを聞くと椿は、やんわりと微笑む。

「…ならいいですわ。大丈夫、気にしないでくださいませ。…大丈夫」

 その瞳からは、声からは、途方も無い悲しみが浮かんでいた。だが、それを隠すかのように椿は微笑んだ。

「ですが、奪われたのは事実。周りの者に示しがつきませんから、お二人には処分を下します。美夜、貴方には『聖者の懺悔』。創太には『鳥のさえずり』を。よろしいですね」

「はい」

「…はい」

 二人はそれを聞くと部屋を後にした。

「朔羅。体調は大丈夫ですか? もし平気なようでしたら、彰人と共に残りの七宝の解析をお願いいたします」

 朔羅は静かに頷く。

「彰人、それと―」

「椿様」

 椿の言葉を遮り、彰人が言葉を発する。

「大丈夫です。まだ、挽回できます。だから、無理をしないでください」

 彰人の言葉に椿は思わず顔を歪めた。だが、次の瞬間には表情を戻し、燐と背筋を伸ばす。

「私は南雲家の当主です。私が、無理をしなくてどうするのです。大丈夫、無茶はしませんわ」

 その言葉に彰人は観念したかのように微笑み、席を後にした。

 朔羅も退出し、椿が一人になった頃、彼女はそっと息を吐き人知れず涙を零した。

「あれだけは、奪われたくなかったのに…」


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