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第参拾陸章 籠の鳥

 その夜の常軌を逸した嵐の様は、正しく神の怒りを体現しているかのようだった。

 狂ったように吹き荒ぶ風。滝のように降り注ぐ雨。怒号のように響き渡る雷鳴。

 そしてその嵐は瓦屋根の上のみならず、瓦の下でも猛威を振るっていた。


《ふざけるな! そんな馬鹿げたことが許されると思っているのか!》


 轟く雷鳴をも凌ぐかのごとき怒号。それに四対の無言の視線が追従する。

 しかしその怒号を向けられた当の本人は、異様なほど静かな光をその黒曜の双眸に宿していた。


「ふざけてなどいないわ。私は至って真剣よ」


 非難の視線を一身に受けながら、まるでそれに臆する素振りも動じた様子もなく神々しいまでに毅然と端座し、ただただ淡々と言葉を紡ぐ女人。その面は何の感情も形作っていない。波一つたたぬ水面の如く、清らかで神秘さすら与える、そしてそれ以上に戦慄にも似た不気味さを漂わせていた。


「時期当主はこれ(・・)が継ぐ」


 腕の中で寝息を立てる赤子を示し、無表情のまま言い捨てる母親に、畳み掛けるように怒気を孕んだ声が投げられる。


《この子に当主を継ぐなど不可能だ! この子の霊力では南雲には到底対抗できるはずもない! 天城を継ぐのは、次期当主は凍月で――》

「それこそふざけないで頂戴!」


 そこで突如母親は形相を変えて声を荒げた。


「あの子が天城を継ぐだなんて……! 天城を継ぐということがどういうことか分かっているの!? 天城の当主になるということが何を意味するのか、よく考えてご覧なさい! こんな重い十字架をあの子に背負わせるなんて……そんなことがあっていいはずがないわ……許されていいはずがないのよ……いいえ、私が許さない……私がそんなこと絶対にさせない!!」

《波月!》

「あの子は自由に生きるべきだわ! こんな束縛された籠の中で飼い殺しにされるべきじゃないのよ! あの子が天城のために苦しむ必要なんてない! 傷つく必要なんてない!」


 まるで何かに憑りつかれたかのように様子を一変させ、半狂乱で叫ぶ波月。だがその言葉は正論だった。決して否定することのできないものだった。……それでも、彼女を肯定するわけにもいかなかった。

 そんなやりきれない複雑さが渦巻く心を強引に押さえつけ、必死に波月に訴えかける。


《天城に課せられた宿命は確かに残酷だ。お前が息子(いつき)の行く末を案ずるのも解る。それは我らとて――》

「適当なことを言わないで! 私の気持ちが解るわけないでしょう!? 私があの子を愛する気持ちがどうしてお前たちに解るというの!?」

《我らとて、この千年間、何度も、何人も、お前のように悲嘆に暮れる先人たちの姿を見てきた! お前のその感情(おもい)を非難するつもりは毛頭ない! だが――》

「笑わせないで! 先人たちが何よ! 所詮はお前たちの言いなりに、しきたりという轍に従って己が子を十字架に括り付けた人間でしょう!? 理解できるだなんて口先だけ! 本当に理解する気があるというのなら、一々私に意見しないで――」

《我らが糾弾しているのは、お前が凍月しか(・・・・)見ていないこと(・・・・・・・)だ! お前は何故その愛情(おもい)この子(・・・)にも向けてやれない!?》


 互いに一歩も譲らない主張の応酬。嵐の咆哮を掻き消す金切り声。それを更に掻き消す怒声。


《この子だって凍月と同じお前の息子だろう! なのに、お前は凍月を慈しむあまり、この子を無下にしていることに気付かないのか!? どうしてこの子を見てやれない!?》


 その言葉に、突然母親の形相から再び感情の色が消えた。


「……何故?」


 無感情にぽつりとこぼれた声。


「哀れむ必要なんてないでしょう? ……だって、これ(・・)はそのためにある(・・)のだから」


 さも当たり前だというように放たれる言葉。躊躇いの欠片もなく放たれる言葉。


これ(・・)は天城の当主になるための存在よ。凍月の代わりに、次期当主となるために。次期当主とならなければ、なれなければ、これ(・・)に存在価値なんてない」

《……波月、お前、それはどういう……》


 刹那、嵐が凪いだかのような静寂が空間を支配した。背筋に悪寒が走った。いや、全身から血の気が引くのを感じた。

 極めて静かに、穏やかに、無垢に紡がれる言葉の数々。しかしその言葉の内容はあまりに――。


これ(・・)は凍月の『形代』。あの子に降りかかる災禍を引き受けるためのね」

《……なっ……き、貴様っ!! この子の命を、魂を、何だと思ってる! 人の命をモノのように扱うことが許されると思っているのか!》


 ――あまりに、残酷だった。到底許されるべきではない、いや、許されてはならないものだった。


「黙りなさい! お前たちの許可など求めてはいないわ!」

《それが母親の……人間のする所業か!?》

「愛する子供のためなら悪魔にだって魂を売るのが母親よ。……ああ、それ以前に私たちは(・・・・)鬼だったわね(・・・・・・)


 皮肉る様な一言を吐き捨て、呼吸を整えると、母親はきっと眦を決した。


「神への冒涜だの人間の道徳だの……正義論はうんざりよ! 神への冒涜? 上等だわ! 我が子を愛することが罪だというのなら、鉄槌でもなんでも私を裁いてご覧なさい! 人間の道徳? 下らない! 犠牲を美徳とするだなんて綺麗事に塗れた倫理観に興味はないわ!」


 一息に云い切り、波月は声高にはっきりと宣言した。




「凍月を次期当主にはさせない。あの子にはこれからは陸上凍月として生きてもらうわ」




 雷鳴が轟いた。

 その雷がまるでこの身に墜ちたかのように、全身に衝撃が走った。


 弟が産まれたと聞いた。

 だから、その姿を一目見ようと探しに来た。何より、身重となってからというものあまり接することを許されなかった母に、一刻も早く会いたかった。

 母は神殿にいると聞いた。産まれたばかりの弟と一緒に。

 だから、家臣たちの反対と制止をかいくぐって神殿へ来た。はやる気持ちを抑えられずに、冷たい雨に打たれることも厭わずに。


 だが、神殿の扉を開けようとして、その手は止まった。母の声が、その手を止めた。

 聞き間違いか――今、母は何と言った?

 そんなはずがない、母がそんなことを言うはずが……。

 小さい体の中で心臓が破裂しそうなほど強く激しく脈打つ。そしてその度にどんどん冷たくなっていく。


「お前たちの意思がどうであれ関係ないわ。当主である私の決定を覆すことは許さない。急ぎ契約の儀を執り行いなさい。このために今までお前を凍月と契約させなかったのだから。そして一刻も早くあの子を、凍月を天城から遠ざけなさい」


 ――どうして? どうして……どうして!?


 母は自分ではなく、あの乳飲み子を次期当主にと言った。そして自分には、天城を出ていけ、という。

 それはつまり――自分は母にとって必要ない、ということ……。


 母が好きだった。

 優しくて、温かくて、穏やかで。母の傍にいると、たとえ嵐の中でも陽だまりにいるかのような心地よさがあった。

 そんな母が、大好きだった。

 なのに、母は自分を愛してくれていなかったというのか。

 あの優しい声も、温かい手も、穏やかな笑顔も、すべて偽りだった、と……?


 僅かな隙間から神殿の中を覗き込んだ。そして、母の腕の中で眠る赤子を見た。

 自分から母を奪った、自分の居場所を奪った、卑小で無力な存在。


 ――あいつさえ、生まれてこなければ……!


 母親に身を委ね、安心しきって眠るその無垢さが、殺してやりたいほどに、心底憎らしかった。




     *




 五歳の時。

 実の母に捨てられた。


 あの時心に穿たれた穴は、小さな身体にはあまり大きく、そして深かった。その穴を埋めようと必死に足掻いた。小さな手で必死に無我夢中でもがいた。それでも埋めることはできなかった。決して癒えることはなかった。

 だから、そのうちに諦めた。目を背け、目を瞑り、気付かないふりをすることにした。そうすることでしか、自分を守れなかった。

 失ったものは取り戻せない。抉られた心は埋まらない。それを、嫌というほど思い知らされた。


 陸上の家に安らぎはなかった。傷ついた心を癒してくれはしなかった。それは当然の理だろう。陸上の親はあくまで戸籍上の親。そこに家族と呼べるような関係が生じる余地などなかった。

 だがその形式上の両親を恨んだことはない。

 突然五歳の子供を渡され、以後息子と扱えと言われて、何の抵抗もなく受け入れる方がどうかしている。彼らの対応は至って正常だ。だから、それを非難することはできない。仕方のないことだと、自分自身に言い聞かせた。毎日毎日。そうしていつしか、受入(あきら)めた。


 だからこそ。

 自分と同じ境遇(・・・・)の彼女の幸せを願わずにはいられなかった。

 彼女もまた、実の母親に捨てられた。そして血のつながらない城崎の家に引き取られた。しかし、自分と決定的に違ったのは、城崎の両親が、血のつながりがない彼女を実の娘のように受け入れたという事。彼女は城崎の娘として温かく迎え入れられたという事。

 血のつながらない両親と真の親子として幸せな家族を持てた彼女が尊かった。彼女のその幸せを、護っていたかった。そうすることで、自分には決して得られない幸せを、自分も感じることができるような気がした。


 それなのに。

 彼女の幸せは呆気なく壊された。理不尽に奪われた。

 彼女は二度、親を失ったのだ。一度目は実の母親の手によって、血のつながった親を。二度目は無知蒙昧な人間の手によって、心の通じた親を。


 だが、彼女はそれ(・・)を知らない。

 自分に二人の両親がいることを知らない。

 産みの親の存在を知らない。


「知らなくて、いいんだよ……」


 眠る少女の頬にそっと触れ、消え入りそうな囁きを落とした。


 知る必要などない。彼女にとっての両親は城崎の両親だけ。それを真実とすることの何が悪いというのか。産みの親の存在を告げることに何の意味があるというのか。

 そんなことは無意味だ。自分が産みの母親に捨てられた事実を知り、信じていた親が偽りの親だと知り、ただただ傷つくだけだ。そんなことに、何の意味がある。


 月影は全てを審らかにすると言った。

 今頃きっと、その宣言通り全てを語っていることだろう。


 月影は言った。

 全てを知る権利があると。そしてそれは義務でもあると。真実を知らずして、道を選ぶことはできないと。自分の未来を選ぶために、真実を知ることは不可欠なのだと。

 しかしそんなものは詭弁だ。

 知る必要のない真実などこの世界には山ほど溢れている。それをすべて知らなければならない道義などあろうはずがない。そんな真実など知らなくとも、自分の未来(みち)を自分で選ぶことはできる。

 世の中には知らなくていい真実がある。知らないことで幸せになれる真実がある。正に、これ(・・)はそういう真実なのだ。


 だから、今まで必死に隠し続けてきた。決して悟られぬように、誤魔化し、欺き、偽り続けてきた。――それは、自分のエゴだろうか。

 だが、エゴでも構わない。独善的と罵られようが利己的と誹られようが関係ない。

 それでも、自分には彼女の幸せを願いたかった。そして自分にはそうする資格があるはずだ。

 だって。


 彼女は自分にとって、この世でたった一人の、大切な大切な、妹なのだから――――。




     *




 波月は決めていた。初めてその腕に愛おしい我が子を抱いた瞬間から。

 どんなことをしても、凍月(このこ)だけは護ってみせる、と。

 そのためにどうするべきか、どうすれば凍月(このこ)を護れるのかを考えた。

 そして至った結論(こたえ)が――『形代』を創る、ということだった――。


 一年後、二人目の子が宿った。形代となる子が宿った。

 生まれたのは女児だった。

 だがこの女児が形代となることはなかった。

 何故なら、凍月が、この女児を慈しんだから。

 分別もつかない僅か二才の凍月は、この女児のそばにいると幸せそうに笑った。

 成長し、自我を持つようになってからは、自分の意思でこの女児と主にいることを望むようになった。

 愛しい息子から、あの子が大切にする者を奪うことはできなかった。

 だから、別の形代が必要になった。


 波月は焦っていた。

 凍月の存在を隠しておくのにも限界がある。そしていずれ、彼の存在が明るみに出、次期当主としてその命を狙う輩が現れる。そうなる前に、あの子の身に危険が迫る前に、なんとしても一刻も早く、形代を創らなければならなかった。

 そして、待望の形代が誕生したのは、愛しい我が子の誕生から実に五年の歳月が過ぎたときだった。


 波月は『形代』を決して『息子』とは扱わなかった。

 波月にとって『形代』はただの人形同然だった。次期当主となるべき、当主として天城の座に坐っていればいいだけの存在。

 だから波月は『形代』を産んだ(・・・)とは思っていない。いうなれば、生んだ(・・・)にすぎなかったのだ。

 そうして生み出した(・・・・・)『形代』に、波月は名すら与えなかった。

 決して、()として認めなかった。




      *




 真実は語られるべくして語られた。


 語り部は全てを包み隠さずに語った

 しかし、そうして語られた真実は、一つの姿を保つものではない様々に姿を変え、複数の真実を作り出す。真実は一つでありながら、複数の姿を持つ。

 そう、まるで、一人の人間が、複数の仮面を被るように――。


 ある者は告げられた真実をありのままに受け止めた。

 ある者は真実を理解できずにその姿を捕えることがでなかった。

 ある者はその真実を受け入れられずに葛藤に苛まれた。

 ある者は真実と向き合うことを拒んで耳を塞いだ。

 ある者は真実の存在に気付かぬままにその姿を探し求めた。


 すべて同じ真実。

 しかし、その姿は、見る者によってすべて異なって現れる。

 それが、真実。


 さて、一体、この厄介な真実とどう向き合うのが正しいというのだろうか。何が正しくて、どの姿を以て本当の真実の姿と言い得るのか。或いはそれすらも、各人によって異なるのか。異なることこそが正しいのか。

 すべては、神のみぞ知ること――――。




     *




 風が凪いだ。

 夜陰の中で対峙するは千年の古より因縁に囚われつづけてきた二つの家に連なる者たち。


「今宵は長きにわたる宿命に終止符を打つ運命の夜」


 背後に複数の家臣を従えた南雲家当主の凛と張った声。


「その決戦の場に臨むのが貴方がた二人だけというのは、一体どうした料簡なのでしょう?」


 対する天城勢はたったの二人。


「うるせえ。こっちにも事情があんだよ」


 ぶっきらぼうに言い放って、倖介は後方に視線を向けた。


「怖いなら無理してついてこなくても良かったんだぜ?」

「怖くなんてないよ!」


 すぐさま発せられた反論の声はしかし、言葉の内容に反して裏返っている。それが強がりであることは他でもない冴自身が一番よく解っていた。


「……ウソ。怖いよ。すごく怖いよ。あいつらの霊力がこんなに強いなんて思ってなかった。戦わずにすむなら戦いたくなんてない。……だって、戦ったってムダだもん。適うわけない。勝てるわけない。もしかしたら……ううん、もしかしなくても死ぬかもしれない。そう思ったら怖いよ。怖いに決まってんじゃん。そんなのイヤだもん。でも……」


 震える声で心境を吐露する冴は、そこで伏せていた視線を上げ、きっと南雲に向けた。


「でも、何もしないままはもっとイヤ! あたしは今まで何も知らなかった。何も教えてもらえなかった。斎君のことだって、花音ちゃんのことだって、(レオ)のことだって、先代や天城のことだって、なんにも……。でも、今は違う。あたしだって何かしたい! あたしの力じゃ何もできないかもしれないけど、それでも、あたしにも何かできるなら! もう、何もできないまま立ち止まってるのはイヤ!」


 冴の身体は依然小刻みに震えていた。それでも、言い切ったその声音には揺るぎない意思が宿っていた。


「ああ、そうかよ」


 そんな冴の姿に、倖介は口角を上げた。固い地面を踏みしめ、胸の前で拳を叩き合わせると、正に戦に臨む兵の精悍さを形作る面に笑みを乗せて意気揚々と言い放った。


「んじゃ、派手に特攻して玉砕といくか」

「……もう、宜しいのですか?」


 二人のやりとりをただ黙って聞いていた南雲の当主は、そこで一歩前へ進み出でた。


「この決戦に勝る重要性を有する事情の存在などおよそありはしないでしょうに……ですが、これが天城(あなたがた)の意思であるというのなら、それを尊重することに致しましょう」


 一陣の風が両家の間を縫った。闇が唸り、草木は息を潜めた。そして。


「いざ、尋常に」


 千年越しの決戦の幕が、切って落とされた――――。




     *




 波月は結局、周囲の説得に耳を傾けることはなかった。


 彼女は確かに、人間(ひと)の母だった。我が子を慈しむ人間(ひと)だった。

 そしてそれ故に、彼女は鬼となった。我が子を愛する人間(ひと)の心故に、人間(ひと)の心を持たぬ鬼となった。

 彼女は自らの手で自らを鬼となした。鬼と畏れられ、蔑まれ、疎まれてきた天城の当主は、そうして自ら鬼となった。


 そして、進んで鬼に身を落とした者に、神は情けをお与えにはならなかった。

 彼女があの日以来、愛する凍月(むすこ)に母と呼ばれる日がくることは二度となかった。終に一度も凍月(むすこ)に触れることは叶わなかった。

 それは、神が『鬼』に与え給うた罰だったのかもしれない。

 その身を鬼に落としてまで愛した息子に理解されぬまま、憎まれたまま、五年の歳月の後、愛しい息子に看取られることなく、この世を去らなければならなかったのだから。


 ただ唯一救いがあるとすれば、そうまでして守ろうとしたはずの愛おしい魂を、その手で無残に引き裂いたという真実を知らぬまま逝けたことだろうか……。





 その鬼から生まれた子供。

 産み落とされて鬼の腕に抱かれた赤子。

 母親から愛されることなく、他人(あに)の身代わりとなることを宿命づけられた哀れな子。


 祝福されなかった命。望まれなかった魂。

 それはまるで、自分たち(・・・・)を見ているようで、どうしようもなく辛かった。悲しかった。苦しかった。


 だから。

 生まれながらに哀しい運命を背負わされたその哀れな子に、名を授けた。

 動き、話し、温かい、人間の姿をしただけのただの人形に、(いのち)を授けた。

 少しでも、癒しになれば、と。救いになれば、と。そう、切に願いながら。


 この子は正に、天城という籠の中で生きることを余儀なくされた小鳥。

 飛び方も知らず、そればかりか、母親によって翼を折られた小鳥。


 だとしても。

 飛び方は自分が教えてやろう。翼も治るまで看てやろう。

 いつか、この天城(かご)から飛び出してこの大空を飛び回るその日がくるまで。

 そうして、誰にも、何にも縛られることなく羽ばたき、どこまでも、どこへでも自由に飛んでいけるように。

 広い広い大昊の下を、自由に飛ぶ鳥となんらんことを願って――。




 ――『飛鳥』……それが、お前の名だ――――。




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