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第壱章 南雲

 草木が揺れる。小鳥はさえずり、朝露が葉を伝い音も無く地へと落ちた。穏やかな朝、優しい空気に包まれながら一日が始まろうとしている。

 そんな中、柔らかな花の香りに包まれた部屋で少女は未だ眠りの中に身を沈めていた。

椿(つばき)、朝ですよ。起きて下さい」

「遅刻してしまいますよ」

 障子ごしに少女を呼びかける声が響く。低く、穏やかな声が幾度と無く少女を呼びかけるが一向に彼女は目を覚まさない。

彰人(あきと)。アタシが起こすわ」

「ですが、美夜(みや)

 ハキハキとした女性の声と共に鋭い音を立て、障子が開かれた。

「椿! いい加減に起きなさい! 遅刻するわよ」

 音に反応してか少女は、ゆっくりとその琥珀色の瞳を開けた。

「…美夜…姉さま? 朝からそんなに怒らないでくださいませ。ご近所迷惑ですわ」

 ふんわりとした笑顔で微笑む少女、椿。そんなのほほんとした言葉に美夜は顔を赤くした。

「アンタねぇ…毎回起こす身にもなって見なさい!!!」

「美夜、落ち着いてください。椿も、きちんと自分で起きなくては駄目ですよ。南雲の当主がそれでは、他に示しが付きませんからね。ですが、ご近所の皆さんに対しての心遣いを指摘する事はとても良い事です」

 怒鳴る美夜を宥めつつ、椿に注意する彰人であったがどこか優しさを隠しきれないでいた。

「はい、彰人兄様。…でも、この呼び方だけはどんなに言われたって変えませんからね?」

「分かっていますよ。《白の女神》がこんなに頑固なんて、ご学友の皆さんが知られたら驚きますよ」

 いたずらっぽく笑う彰人。そして椿の、絹糸のように柔らかな長い漆黒の髪を優しく撫でた。

「ひさびさに朔羅(さくら)が朝食を作ってくれましたよ。食べ損ねる前に仕度をするように」

「朔羅姉様が!? すぐに行きますわ!!」

「すぐ来るのはいいけど、忘れ物するんじゃないよ」

 癖のある肩までの黒髪をかきあげ、めんどくさそうに美夜は言った。

「分かっていますわ」


 

 まだ、私の本当の舞台は始まっていない。

 次に私が姿を現すとき、私の本当の舞台は開幕する。

 次はわが片割れ、仁の舞台が幕を開ける。君の舞台を楽しみにしているよ仁。

                                   李氷


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