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第拾玖章 南雲の罪

 深淵の闇の中、淡く輝く光があった。淡く優しく清らかに、空間に護られ、眠る光が・・・。

 穏やかで静かな世界。そんな空間に突如、歪みが生じた。

 歪みから現れたのは桜色の衣を纏った少女。少女はその端正な顔を哀しく歪ませると、光に手を伸ばす。

「ごめんなさい。あの子の命には変えられませんの。きっと、きっと、取り戻すから」

 その白く華奢な腕で光を抱きしめる。少女の中で光はその姿を変えた。

『永遠の命』へ『誓いの指輪』へ『蒼天の杖』へと。

 そして更に少女が手を伸ばすと、空間の奥からもう一つの光が姿を現した。

 先ほどまでの光と異なり、鈍くおぼろげに光るそれは少女の手に触れると姿を変えた。

 鈍い色の鏡、面は錆び付き何も映さぬ代物。真っ二つに裁たれたかのごとく半月を模っていた。そう、それは天城に眠る神鏡の片割れ。二つが揃って初めて真の姿を現すとされる七宝だった。

 一族が遥か彼方より護りしそれを天城の手へと渡す、それは少女にとって屈辱のことこの上ない。だが、彼を助けるのにはそれしかないのだ。

「…」

 少女は、椿は声もなく涙を流し、七宝と共にそっと空間を後にした。

 後に残ったのはどこまでも続く深淵の闇、そして―――闇に包まれるように眠る純白の光だけだった。



                 *



〈何飼おうがアンタの勝手だが、ケダモノ(・・・・)の首輪はしっかりつけとけよ。あんなイカレたバケモン放し飼いにされたんじゃたまんねえぞ〉

 聞き覚えのない声の主―天城の関係者らしき者は電話の最後にこう言っていた。その言葉を聴いたとき、椿の脳裏にある人物の姿がよぎった。

「まさか…(ざい)ですの?」

 声の主の言葉が真実ならば、それは南雲家で『南雲の(ざい)』と呼ばれる人を指す。

『神』と呼ばれ、人々から崇められる様に慕われる南雲の一族だが、千年の間一度も血なまぐさい事が起きなかったのではない。ただ、一般の目からは隠されているだけで実際に血が流れることは珍しくはなかったのだ。

 そういった血なまぐさい一部の歴史の中で、南雲に連なるが故に家族を奪われ、心を病んだ者は存在する。心を病み、壊れた人形のように血を求め殺戮を好む者。そういった南雲家が護れなかった故に生まれてしまった者がいるのだと忘れないためにあえて『罪』と呼ぶのだ。

 椿の代では存在するのはただ一人、最近思考に不安定さが見られていたが、まさか何かをしたのでは、椿は戦慄を覚えた。一刻も早く保護をしなくてはいけない。それも、創太救出と同時進行で。

「朔真! ――の、いいえ『罪』の保護をお願いします。貴方たちは知己の仲でしたでしょう?」

 すぐに朔真を呼び、命じる椿。その命にうなずくと朔真はたずねた。

「――椿様は?」

 朔真の言葉に淡く微笑む椿。言葉なき答に朔真は顔を歪ませる。

「どうかお気をつけて」

 約束の時まで後僅か。



                        *




 あれは十年前、まだ椿が当主就任して間もない頃。周囲の変貌に戸惑いを隠せず常に気を張っていた。心を殺して過ごしていた。

 だが、そんな椿を幼い声が救ったのだ。

「ねぇ」

 したったらずな声で以前と変わらずに自身を呼ぶ幼子。よたよたと歩く姿。キラキラと輝く笑顔。その全てが彼女を救ったのだ。

 あの日から椿は誓った。

「この子だけは護ろう」と。


 創太は意識の最奥で夢を見た。それは椿と初めて対面したときの事。

 今とは異なり、その艶やかな漆黒の髪は肩で切りそろえられ、桜の髪飾りが髪を飾り、小花が散りばめられた着物を纏った愛らしい姿。その姿を見た瞬間、彼は決めたのだ。

「この人を(ねぇ)と呼び、いつか本当の弟となって、護ろうと」


 

 二つの思いが七宝を失うことになろうとはその時は知らずに。


 

 一方、朔真は『罪』の保護へと向かっていた。

 椿の代で生まれた『罪』、普段から不安定さが見受けられる者であったが、七宝の捜索が佳境に近づくにつれ、その不安定さは増す一方であった。

 だが、椿はあえて今まで『保護』と言う名の『監禁』を命じる事は無かった。 それは彼女の持つ慈愛なのか、はたまた・・・。

 朔真に椿の心の内は分からない。彼はただ椿の命に従うだけなのだから。

 暫くすると、錆びた鉄の匂いが充満した場所を見つけた。

 赤、あか、アカ。

 一面血の海と化したそこに『罪』はいた。眠る事なき狂喜の笑みを浮かべて・・・。

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