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出会いと次なる敵

 ■出会いと次なる敵



 静寂が戻ったシェルターに、ミチルの荒い呼吸だけが響く。


「こんな規格外のが、わかっているだけであと十一体もいるのか」


 素早く息を整えた彼女は、ジャッジの残骸の前に膝をつき、ナイフでその皮膚の一部を切り出した。ダイヤモンドのような光沢を放つ、「硬質化細胞」を採取したのである。


「ケルベロス、これを弾頭にコーティングできる?」

「肯定。AP(徹甲)バレットの精製はラボなら可能でしょう。……ただし、休息の時間はありません」


 ケルベロスのセンサーが、遠方からの音を拾う。

 それは、ジャッジの断末魔に呼応するような、高く鋭い「咆哮」だった。


「……仲間が反応してるってわけね。生存者狩りをしていた斥候部隊が戻って来るわよ」


 ミチルは言葉に怒りを滲ませながら、裂けたセーラー服の裾を無造作に結び直し、暗い通路の先を見据え、迎撃体制をとった。


 状況が差し迫った、その時だった──。


「ミチル──」

「ええ、わかってるわ」


 通路の奥、積み上げられた備蓄用コンテナの方から、とても小さな音が聞こえてきた。ミチルでなければ聞き逃していたはずだ。


 カチ、カチ、カチ……。


 何か硬いもの同士が触れる、規則的な震えを思わせる音。


「ケルベロス、生体反応は?」

「微弱。……対象、極めて小規模。先ほど検知した子供でしょう」


 ミチルは二丁のグロック17を構えたまま、慎重にコンテナの裏を覗き込んだ。

 そこにいたのは、煤けたピンク色のコートを着た、まだ五、六才程度と思われる少女だった。彼女はしゃがんだ状態で、胸の前で震える両手を握りしめ、寒さと恐怖からか歯の根が合わないほど、激しく震えていた。


「……パパ、ママ……」


 うわごとのように繰り返される言葉。ミチルはその姿に、かつての自分を重ねてしまう。北の某国に拉致され、当たり前の日常が、鉄と血の味に変えられた過去の記憶が鮮明に甦る。


「……もう大丈夫。あのデカイのは倒したわ」


 ミチルが膝をつき、視線を合わせる。少女は怯えた瞳で顔を上げた。ミチルの裂けたセーラー服と、血の滲んだ頬を見て、少女の瞳に見る間に涙が溢れる。


「お姉ちゃん……怪我してる……」

「これくらい、かすり傷よ。……名前は?」

「……リナ」


 リナはコートのポケットを探り、震える手で差し出したのは、泥に汚れた非常食の包みだった。


「これ、あげる……。だから、パパたちのところへ連れてって……」


 その切実な願いに、ケルベロス搭載の冷徹なAI音声が割り込んでくる。


「警告:付近に複数の高速移動物体を検知。ジャッジの撃破を確認した掃討個体群と推測される。リナの両親である可能性は、計算上0.02%未満」

「……黙って、ケルベロス」


 ミチルはリナの小さな肩に銃を握ったままの手を回し、力強く引き寄せた。

 背後の暗闇から、無数の「目」が赤く発光し始める。ジャッジのような重厚感はない。代わりに、刃のような四肢を持つ、より敏捷で、より「狩り」に特化した捻れた影たちが蠢いていた。


「ケルベロス、助手席のドアを開けて。戦闘が終わるまで、リナを保護して」


 ケルベロスは黙ったまま、ミチルの指示に従った。


「いい? リナ。あの黒いクルマのとこまで走っていくのよ。絶対に振り向いてはダメ。わたしがいいと言うまで、中に隠れてなさい」

「お姉ちゃんは?」

「わたしのことはいいから、早く!」


 リナを見送ったミチルは、振り向きざまに、ツーハンドに構えたグロック17で、赤い発光体めがけて正確に狙い撃った。


「リナ! 約束する! パパとママは……わたしが必ず、一緒に捜してあげる!」

「うん! 約束だよ!」


 それは、この絶望的な状況下においては叶うことのない「嘘」かもしれない。しかし、その嘘をリナに信じさせ、生きる希望を与えるためには、ミチルはこの危機を全力で切り抜けるしかなかった。

最後まで読んで頂いてありがとうございます!

次回更新は2026/01/03 18:10です。

同時連載の、「契約の魔法少女/マギカ・コントラクト」もよろしくお願い致します。魔法少女×SFの作品です。

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