2026年 誕生日スペシャル 来島青馬編「それは現実だった」
後から思い返すと、あの日の朝は、少しだけ変だった気がする。
気のせいだと言われれば、それまでのことだし、実際そうだったのかもしれない。
ただ、妙に落ち着かなかったことだけは、今でもはっきり覚えている。
誕生日って、もっと普通のものだと思っていた。
「お、おはよう」
来島はいつも通りのテンションで手を振った。
……つもりだった。
少しだけ、落ち着かない。
別に何かを期待してるわけじゃない。
ただ今日は、ちょっとだけ空気が違う気がするだけだ。
そういう日って、あるだろ?
「あら、おはよう。今日はいつもより早いのね」
母は、いつも通りに言った。
それだけだった。
……いや、待て。
「か、母さん。今日、何の日か分かってる?」
母は首を傾げる。
本気で分かってない顔だ。
「え、マジ?」
思わず声が漏れる。
「あぁ、そういうことね」
母はぽんと手を叩くと、棚の方へ向かった。何かを取り出して、そのままこっちへ戻ってくる。
……思い出したのかよ。
ちらっと手元を見る。
紙だった。
どう見ても、手紙。
「今日は、青馬のために手紙書いたのよ。誕プレ!」
「あー……ありがと」
手紙かよ。
いや、別にいいけど。
受け取ろうと手を伸ばす。
「待って、私が代わりに読むわ」
「いやいいよ、自分で読むって」
「遠慮しないで、ほら」
ぐいっと手を払われる。
母は紙に視線を落とし、軽く咳払いをした。
「じゃあ読みます。聞けッ!!」
「いや口悪……」
そうして母は、勝手に読み始めた。
『息子へ〜!
マジでバブってこの世に爆誕してくれてサンキューな!!』
「“バブって”って何だよ。ギャルかよ」
『あの日の私、グッジョブすぎて自分で拍手してる。うちのかわいいかわいい天使ちゃん、マジてぇてぇ』
「もう何言ってんのか分からん」
『最近ちょっと背伸びてイキってるけど、母は全部お見通しだからな分かってんのかコンニャロー?w』
「イキってねぇし」
『でも、なんだかんだ友達多いし、毎日楽しそうにしてるの、ちゃんと知ってるんやで。それ、普通にすごいことだからね?自覚なさそうだけど』
「……なんで急に真面目なんだよ」
『まぁでも基本うるさくて、家でも落ち着きないし、
ドタバタしてるし、マジガキやわぁ』
「急にディスるのやめて」
『でもまぁ、そういうとこも含めて――うちの自慢の息子ってやつ?……って言うと絶対調子乗るから、今のナシね。聞くんじゃねぇ』
「そっちが聞けって言ったくせに?」
『とにかく!青馬にとってマジで最高にアガってナイスガイな一年になりますように!!
青春エンジョイしろよな!!リア充爆発しろ(お前以外)!!
母より』
母は満足そうに紙を閉じた。
「どう?泣いた?」
「泣くか」
あまりの手紙の内容に、流石の来島も少し引いた。昔からテンション高くておかしい母だとは思ってたけど、ここまでとは。
「まぁいいや、うんありがとう。大切にゴミ箱に封印しとくから」
わざとらしく微笑んで、手紙を受け取る。
「ええんやで」
「どの人格だよそれ」
はぁ。誕生日の朝からこの調子か。
普通に疲れる。
――まぁ、母さんらしいっちゃらしいけど。
そうして来島は、学校の準備を済ませて家を出た。
「行ってきまーす」
「はい、行ってらー」
母は、いつも通り笑顔で手を振っていた。まるで、さっきの手紙なんて何もなかったみたいに。
ポケットに手紙を適当に突っ込む。
正直、あとで読む気はあまりなかった。
学校に着いた。
やっぱり、少し落ち着かない。
何人くらい祝ってくるんだろうか。
そもそも、みんな知ってるのか。
「み、みんな、おはよう〜」
自分の席に向かうと――
誰かが座っていた。
「それでさー、次なんて言ったと思う?」
陽翔だった。
「おはよう、ってなんで陽翔がいるんだよ。違うクラスだろ」
「ごめんて、友達と話が盛り上がっちゃって。昨日さ、うちの母さんが料理で塩と砂糖間違えちゃってさ」
「当たり前のように話進めるな」
来島はため息をつく。
……早くどかないかな。
「でさ、案の定、料理エグい味してさ。いやぁマジ来島誕生日おめでとう〜」
「どのタイミング?!いきなりだな。まぁありがとう」
でも、
覚えてくれてはいたんだな。
「それでさ、前、来島ゲーム欲しいって言ってたじゃん」
「え、あ、うん。言ったけど」
「で、今日誕生日だから……」
「え、まさか、ゲームを?!」
一気に期待値が跳ね上がる。
陽翔は机の中に手を突っ込んだ。
……来るか?
来るのか?
「今年は――手紙を書いたんだ!」
「いやゲームどこいった?!」
急降下にもほどがあるだろ。
どの流れでそうなったんだ。
陽翔はいたって真面目な顔をしている。
「書くのに一ヶ月もかかったんだから」
「そんなかかる?」
手紙ってそんな大作だったっけ。
でも――
一ヶ月、か。
「……じゃあ読むね」
『来島へ、誕生日おめでとう』
……
「え?」
『以上、陽翔より』
「いやもう終わり??!?!」
「え、そうだけど」
陽翔は、ありえないぐらい普通の反応だった。
「てか、それになんで一ヶ月かかった?文字初めて書いたんか?」
「悩みまくった結果、シンプルが1番かなって思って」
「まさか、それ考えるので一ヶ月使ったのか?」
「まぁ、多分そうじゃない?」
「なんで他人事のように言う?」
母に続いて、陽翔まで。
……なんだこれ。
「でも、来島が喜んでくれてよかったよ〜。いいサプライズだったでしょ?」
「うん、いろんな意味でサプライズだったね!!」
そうして来島は、手紙を受け取る。
「でも、ありがとう。あとでアイス奢って」
「それだけは無理〜」
笑顔のまま、さっさと教室を出て行ってしまった。
「冷たいなぁ」
覚えててくれたのは、よかった。
……ほんとに、それだけなんだけど。
「来島君、今日誕生日だよね?」
誰かから声をかけられる。
気付くと目の前に立っていたのは、
「えーと、柊木君?」
柊木だった。
「ここで何してるの?柊木、お前クラス違うじゃん」
「今日、朝部活ないし。暇だったから来た」
あまりにもあっさりしている。
「暇って、いつも教室で勉強してるじゃん」
「まぁいいでしょ。それより、今日誕生日だよね」
「いや、まぁそうだけど」
まさかな。
「それで、誕生日プレゼントなんだけど」
柊木は少しだけ視線を落とした。
「物は、たぶん誰かと被ると思ったから...」
そう言って差し出されたのは――
「僕は、はいこれ。手紙」
やっぱりかよぉぉぉ!!
……三人目。
いやもう、なんなんだよこれ。
柊木は少しだけ首を傾げた。
「あれ、ダメだった?」
「ダメとかじゃねぇけど!!」
でも――
……柊木のは、ちょっと気になる。
「じゃあ、今ここで読むね」
「おい、ちょっと待て」
柊木は構わず読み始める。
『こんにちは、柊木真尋って言います。』
「いや知ってるわ。同じ部活だし」
『この手紙を読んでいるということは、僕は今しゃべってるんだよね?』
「そりゃそうだろ。天然かよ」
『知っていましたか?なんと今日は、来島君が産まれた日らしいです。』
「知らなかったらやばいだろ。本人だぞ?てか漢字、そっちの"産まれた"は少し生々しい気が」
『来島君にとって素敵で、煌びやかで最高級な素敵な一年になりますように。』
「長いな。あと素敵2回言ったよ?」
『お誕生日おめでとうございました!』
「なんで過去形?NOW NOW!今だから!!終わらせないで?」
『追伸、柊木真尋より。』
「多分追伸の使い方違うそれ」
「どう?思い伝わった?」
柊木は反応を待っていた。こっちもいたって真面目そうだ。
「よく分かんなかったけどありがとう。あとで家の倉庫に封じめこめとくわ」
「紙なかったら、それで鼻かんでもいいよ」
「あ、そういうのいいんだ。じゃあありがたく使わせていただきます」
柊木は満足そうに頷くと、そのまま教室を後にした。
……なんで、ここまで手紙なんだよ。
そう思いながらも――
やっぱり、少し嬉しかった。
みんな、覚えてくれてるんだな。
気付けば足取りが軽くなり、廊下を、少しだけスキップする。
……いや、少しじゃないな。
思ったより勢いがついて、気付けばかなりのスピードになっていた。
「おい、来島!!」
「うわ、ヤバ」
ピタッと止まる。
目の前には、瀬戸川先生。
あ、終わった。
これ絶対説教だ。
しかもこの人、始まると長いんだよなぁ。
「あ、はい、なんでしょう」
軽く背筋を伸ばす。
……来る。
「誕生日おめでとう!!」
「いや急だな。でもありがとうございます。覚えててくれてたんですね」
予想外すぎる。
「いや、勘で言ったら当たった」
「マジか!凄いですね」
外してたらどうするつもりだったんだ、この人。
てか――説教じゃないのかよ。
「まさか、本当に誕生日だったとはな……そうだ!」
先生は何かを思い出したように、手に持っていたファイルを開いた。
中から、紙を取り出す。
……紙。
いや、もう嫌な予感しかしない。
「これ、別の人に渡そうと思ってた手紙――お前にやる!誕生日プレゼントだ!!」
「いや、それは受け取れませんよ!?ちゃんとその人に渡してください!」
何言ってんだこの人。
いつもの真面目で厳しい先生どこ行った。
「遠慮するな」
「遠慮とかの問題ですかね?」
「じゃあ、今から読むから聞いてくれ」
そう言って、手紙を開く。
「ちょ、こんな廊下の真ん中で――」
「学年通信、はれやか、五月号……」
「いや、学年通信ッ!!それを手紙って言うな!!」
「あぁ、スマン。間違えた」
先生はもう一枚、別の紙を取り出した。
「こっちだったな」
手紙と学年通信、どうやったら間違えるんだよ。
先生は、満足そうに紙を開く。
「じゃあ読むぞ」
『愛しの三年二組の茉莉花ちゃんへ、』
「彼女宛かよ!!あと個人名出すな!!」
先生は止まらない。
『付き合ってください。』
「告白直球すぎるだろ!!...てか待って、なんで先生が生徒に告白してるん?それに名前的に女子じゃん」
『これつまらない物ですが、婚約指輪です。』
「プロポーズでそのセリフは言わないだろ?なんだつまらない婚約指輪って」
『この先も199歳まで、ずっと一緒にいてください。』
「あと一年頑張ろ?てか寿命どこまで延ばす気だよ!!人間だぞ!!」
『追伸、元橋川中学校二年七組、佐藤清乃』
「いや誰だよ!!てか先生が書いた手紙じゃないんかい!!まぁおかしいとは思ってたけど」
先生は満足そうに紙を閉じた。
「いい話だったな」
「どこがですか??てかそれ、佐藤君に頼まれたんですか?」
「いや、普通に道端で拾った」
「どういうこと?え?拾った?」
「だってそもそもこの二人の名前は東縁高校にもないし、そもそも橋川中学なんて学校はないぞ」
「いや怖ッ!なんか闇深そう」
「そうだな、じゃあこの手紙やる!」
「いや、本当にいらないです。なんか呪われそうですし」
しかし、瀬戸川先生は来島にその手紙を押し付け、去ってしまった。
「はぁ、マジで渡してきたよ。どうすればいいんだ」
ポケットの中の手紙を触りながら、来島はため息をついた。
でも――
なんだかんだで、みんな祝ってくれているのは確かだ。
まさかの手紙被りだったが……
それでも今日は、ちゃんと楽しかった気がする。
「よし、今年も頑張るか!」
そう呟いた、その時だった。
「来島君!はい、これプレゼントの手紙」
「俺も手紙あげる〜」
「この手紙も!」
「アタイのも受け取って〜!」
一気に差し出される紙、紙、紙。
来島は一瞬固まって――
そして、心の中の声が、ついに口から漏れた。
「いーや、どんだけ手紙かぶるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
すると、人だかりの中で、一人の影が目に入った。
「はい、プレゼント。来島君、カラオケ行こ?」
響だった。
いつもの無表情のまま、カラオケのチケットをヒラヒラと揺らしている。
その瞬間、来島の中で何かが“完全に切れた”。
我慢できなかった。
「響ぃぃぃ!助けてくれぇぇぇぇぇ!!!!」
来島は響に向かって駆け出し、そのまま勢いよく飛び込んだ。
もはや救助ではなく、救われに行く勢いだった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
気付くと、視界いっぱいに天井が広がっていた。自分の部屋の天井だ。
――夢、だったのか?
荒い呼吸のまま、慌ててスマホの電源を入れる。
五月五日 火曜日
6:23
誕生日当日。
さっきまでの出来事は、全部夢だったらしい。
そりゃそうだ。
母さんも、陽翔も、柊木も、瀬戸川先生も。みんなおかしかった。いや、おかしすぎた。
現実なわけがない。そう思うのに、やけに鮮明で、嫌なリアリティだけが残っている。
「……はは、良かった。た、助かった」
妙な脱力感が一気に押し寄せてきた。ほとんど動いていないはずなのに、全身が汗ばんでいるような感覚がある。
なんとか体を起こして、階段を降りる。
誕生日なのに、なんて夢を見たんだ。
「おはよう」
「あら、おはよう」
母はいつも通り、キッチンで朝食の準備をしていた。
その光景に、少しだけ安心する。
「今日の朝はな……」
言いかけた、その瞬間だった。
母が、先に口を開く。
「そうだ、来島。誕生日おめでとう。プレゼント用意したのよ」
「プレゼント?」
母は棚から何かを取り出し、こちらへ近づいてくる。
ヒラヒラと揺れる、一枚の紙。
それが、ゆっくりと目の前に差し出された。
「はいこれ、手紙!」
……え。
来島青馬キャラクター解説完全版
基本情報
♫ 名前:来島 青馬
♫ 性別:男
♫ 所属:長野県東縁高等学校 吹奏楽部(一年生)
♫ 担当楽器:チューバ
♫ 誕生日:5月5日(牡牛座)
♫ 身長:162cm
♫ 血液型:A型
パーソナル
♫ 性格:いつも明るいムードメーカー!
♫ 好きなもの:友達!
♫ 嫌いなもの:ない!(と言っとこうかな)
♫ 趣味:友達と遊ぶこと
♫ 特技:やる気は誰よりもある!
♫ 無意識の癖:区別がつかない(夢と現実は特に)
内面・関係
♫ 音楽へのスタンス:難しいやろ?(よく分かってない)
♫ 響への印象:すげぇ奴
♫ 誕生日に対する感覚:褒められると嬉しい
今思えば、あの日のことをちゃんと説明するのは難しい。どこまでが本当で、どこからが違っていたのかも、正直よく分からない。
ただ一つだけ言えるのは、あの日の誕生日は、いつもより少しだけ“変な記憶”として残っているということだ。
それが何なのかは、今もまだ分かっていない。
ただ、これだけは言える。
あんな経験は、二度とごめんだ。
改めて来島青馬君、誕生日おめでとう!!
感想、評価、ブクマ是非お願いします。
次回 誕生日スペシャル 守田木乃香編 5月10日公開。
お楽しみに!!




