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とある教師の日記 / 著者不明・編者レサトステ・イマベシュ  作者: 夕藤さわな


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3月

【3月3日】

 鈍器で頭を殴られた気分。それも振り返り様、唐突に。

 今日は花祭り。春の訪れを祝う祭りだ。教師が見まわりをするのは毎年恒例のこと。今年も同僚たちとまわっていたのだがそのときに見てしまったのだ。アイエネが男といっしょに歩いているところを! それもよりにもよっていたずらズウォッティ! 今日の花祭りは友達と行くと言っていたのに! 意地悪ばかりするから大嫌いだと言っていたのに!

 あなたと私もあれくらいの年の頃にいっしょに花祭りに行ったじゃないと妻。だからこそ心配なのだとどうしてわからないんだ!


【3月6日】

 ユフフム〔国境から一番近くにあった街〕の住民が立ち上がった。子供を惨たらしく殺され、ついに本気で勇者一行を追い払うことにしたのだ。住民たちはやつらを袋叩きにし、半死半生の状態で森の外に打ち捨てた。剣の扱いも覚束ない、攻撃魔法も回復魔法もろくに使えない子供のような年頃の4名。木の棒が武器の市民級相手にも勝てないのだ。魔王陛下を倒そうだなんて夢のまた夢。自分の実力と現実を直視し、これ以上の無謀な侵攻は諦めて帰ってくれると良いのだが。


【3月10日】

 進級テストの準備が始まる。毎年のことながらここからの忙しさ、気苦労を考えるとため息が漏れる。全員を進級させてあげたいがあまりに学力に差があれば授業が立ち行かなくなる。しかし、留年を繰り返していては働かざるを得なくなり、初等科すら卒業しないまま学校に来なくなってしまう子も出てくる。読み書き、計算なんて出来なくても技術を身につけておけば食うには困らないと考えている保護者も多い。しかし、それではダメなのだ。今はよくてもいずれどこかで行き詰まる。失敗や成功を、支出を、日々の出来事を書き留めておくことはきっといつかその子の、あるいはその子の子供や孫たちの役に立つはずなのだ。


【3月18日】

 はす向かいのペデじいさんが亡くなった。妻は葬式の手伝い。私は生徒たちの引率。石工として働いていたが34才の時に体を壊し、それからずっと用務員としてうちの学校で働いていた。墓穴にひつぎを納めたあとに投げ入れる花は生徒たちそれぞれで用意することになっていた。花屋で葬式用の花を買ってくるかと思ったら学校の校庭や公園に咲いていた花を摘んでくる子ばかり。しかも、白い花ではなくピンク色や黄色、赤色の花を摘んできた子も。色とりどりの花に囲まれてあの人も喜ぶと思うわとペデじいさんの奥さんに言ってもらえたから事なきを得たが。学校に通うような年で葬式に参列したことがある者はほんのわずか。次があるのなら事前に作法を教えるようにしなくては。


【3月29日】

 学校にレッコワズ家〔王都にあった王家御用達の青果商。魔王城や貴族の屋敷に果物を中心に青果を卸していた〕の使いと名乗る男性が。どんな話かと身構えたが嬉しい話。

 数日前、仕入れた果物を積んだ荷馬車がこの街を通った。そのときに積み荷を一つ落としてしまったらしい。積み荷の数が合わず、しかも、その積み荷の中身がその日の夕方までに納品しなければならない果物だったものだから困っているとうちの学校の生徒たちがやってきた。公園で遊んでいるときに積み荷が落ちるのを見て大声で呼び止めたが気付かれず。木箱に焼き印された名前を見て王都にあるレッコワズの店まで運んだらしい。散らばった果物を一つ残らず拾い集め、重たい木箱を十数名が交代交代で。

 カバンに縫い付けられた名札で学校と1名の名前はわかるが皆、名乗りもせずに帰ってしまった。よくよくお礼を言ってほしいと大量の果物を置いて使いの者は帰って行った。名前がわかっている生徒のことも、その子の交友関係も担任である私は把握している。ろくに両親に説明もせず、こんな遅くまで遊んでいてと拳骨を食らっていそうな子も。明日、その生徒から話を聞いた上で各家庭に説明をしに行くことに。


【3月30日】

 親切な11名の生徒の名前がわかった。私の学年の子が5名、ひとつ下の学年の子が3名、最上級生が3名。それぞれの学年の担任が各家庭に事情を説明しがてらお礼にもらった果物を持っていく。帰りがとても遅い日があって怒ったと母親。そういうことならなんで説明しないんだと再び拳骨を食らう羽目になった子も。可哀想ではあるがこれを期に報告の大切さも学んでほしい。

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