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【あとがき】
238年9月27日、人族が〝勇者〟と呼ぶ存在によって旧王都・アソジェダの住民がミイラと化し、全滅したこと。そののちに旧魔王城が攻め落とされ、当時の魔王トーホ・ケテ・ルプホケパが殺害されたこと。ごくわずかな臣下と共に燃え盛る魔王城から脱出した、当時、まだ王子だった9代目魔王ハゾシュ・ケテ・ルプホケパによって旧魔王領最果ての地であったゴルァルタの森から再建、今の魔王領の復興があることは誰もが子供の頃に学校で習うことだ。
しかし、238年9月27日の〝アソジェダの悲劇〟が勇者だけが使うことができる広範囲吸精魔法によって引き起こされたこと。実に効率的に悪魔に、あるいはやつらの神に生贄を捧げるための魔法が初めて使われたのがこの日記の著者が暮らす街、旧王都の南にあった重要都市・セグテーベであったことはあまり知られていない。セグテーベの街は勇者一行に破壊されることなく、ミイラ化した住民をその懐に抱いたまま。294年に調査が開始されるまで50年以上の長きに渡って眠りにつくことになる。
彼が発見されたのは調査開始から3ヶ月が経った295年1月10日。薬局の地下に積み上げられた木箱の影でミイラと化した男性と共にこの日記もまた発見された。息絶えるその瞬間まで著者である平凡な魔族、平凡な教師が書き記し続けたこの日記は勇者一行によって市民の生活が脅かされ、変わっていく様を知ることができる貴重な資料だ。
そんな貴重な資料を残した彼の名前を敬意を表してこの本の表紙に刻みたいところだが名前がわかる物を見つけることができず、〝著者不明〟と記すより他ない。
いつか彼の名前を知る日が来ることを願って。
また、彼が残した〝負けた事実〟と〝弱さの証明〟の記録が後世に受け継がれ、教訓となることを祈って。
301年9月11日 テウェトの研究室にて――。




