「配役決めるとしたら誰にしよう」って昔考えてた話
少し予定を変更してしょうもないのを一つ差し込みます。
「ねぇ、」
「ん?」
「今晩はさ、久々にさ、その…」
「ゴメン、今日疲れてるから。」
「…そう、そうだよね。ごめんなさい。」
私はシャワーのミストを足元に当てながら浴室で一人どこでもない所を見つめる。
結婚してもう三年。私とNHK の夫婦仲は倦怠期を通り越して完全に冷めきっていた。
出会い自体は六年前。
社会人になりたてだった当時の私は絵に描いたような世間知らずだった。
高級そうなスーツを着こなしている彼こそがNHK だと知った私は、「すごい、国家公務員みたいなことだよね!」と浮かれた。
「具体的に普段どのような業務をされてるんですか?」
「受信料の徴収のために各ご家庭を訪問してお話を聞いて回っています。」
「へぇー、大変ですね。」
「ええ。でもそれが僕の仕事ですから。」
誠実さを感じた。
かつてアルマン・サラクルーは言った、「結婚は判断力の欠如による。離婚は想像力の欠如による。再婚は記憶力の欠如による。」って。
そう。判断力の欠如による結婚だった。
蓋を開けてみれば彼はただのプライドの塊。
いつも民放各局をどこか小馬鹿にしたように見下している。
見下しているけどそんな彼も国営放送ではなく公共放送だから改めて考えたら国家公務員でもなんでもない。受信料の徴収だってマイルドな押し掛け強盗みたい。
その上、最近彼の勤め先をぶっ壊そうと画策する組織もいるらしい。
それでも彼と肉体的な関係を求めようとしているのは彼を愛しているからではない。
意義が欲しいのだ。結婚した意義を。籍を入れた意義を。NHK の妻になった意義を。
「『想像力』じゃなくて『忍耐力』ですよ。」
「えっ?」
「アルマン・サラクルーの言葉。『離婚は忍耐力の欠如による』ですよ。」
「そうなんだ。私間違えて覚えてたんだ~」
「最初に間違ってインプットしたことがなかなか抜けないってこと、よくありますよね~」
「にしてもよく知ってるね。詳しいの?」
「アルマン・サラクルーってたしか劇作家ですよね?俺たまに演劇・戯曲関連の本とか読むんですよ。」
「え~すごい~!めっちゃイズム!」
「今はクリップですけどね。お待たせしました、カプチーノです。」
最近の私の癒しと言えば、今私が勤めているオフィスの近くにあるこのカフェ。ここで働いている爽やかな好青年、日テレとのささやかな会話だ。
世界の果てまで行列のできるようなスッキリとした内装のカフェ。
そこで彼とするアナザーでスカイでヒルナでンデスな会話。24時間話していたいような至福とも言えるコミュニケーション。
私の心に潤いがもたらされる。
だけどお店を出ると私を取り巻く環境が気持ち悪くおかえり、ってしてくる。
「えー、テレ子センパイNHK と結婚したんですか?玉の輿じゃないですか~、いいなぁ~」
なんて結婚当初にあざとい声で言ってきていた二年後輩のテレ朝は先月ディスカバリーチャンネルと国際結婚。
「私はもう結婚とかいいかな、中途半端にすると失敗しそう」
なんて言ってた先輩のNHK 教育、通称「Eテレ先輩」も来月結婚予定。
お相手は地上波でもなければBSでもない、アキバ系アニマックス。
聞けば「ステータスもチューナーも関係ない、互いに価値観が合った」とのこと。
価値観が合うって何?ねぇ、価値観が合うって何?
なんだろう、何か皆から置いていかれた気がしてならない。
原因はわかってる。判断力の欠如だ。
その結果が冷めきった夫婦仲であり、セックスレスであり、夫の浮気であるのだ。
あれだけ私の前では民放を小馬鹿にしている彼に最近若いフジテレビの影が見られる。
お台場に新しくできたオシャレなコンセプトカフェのニュースを見て彼が、「ここの店パンケーキが美味しいらしいよ。」
なんで知ってるの?
ある週末、「上司とゴルフに行ってくる」と出掛けた夫。一時間後の彼のインスタ。
レインボーブリッジから撮ってない?
いつもならもっと貰ってるはずの夏の甲子園の視聴率もといボーナス。
ホントにただのボーナスカット?
あなたのスマホの検索履歴にあった「貸し切りリムジン 東京 おすすめ」は関係ない話?
年明けにでも紅白歌合戦のボーナス踏んだくって離婚してやろうかな、
こう思う頻度と本気度は高まる一方。日テレ君、判断力だけじゃなくて忍耐力もなかったみたい私。
混乱とは決まってこういう迷いの最中にやってくる。
そう、高校を卒業してから自然消滅して会わなくなった彼が私の前に再び現れたのだ。
「久しぶり。」
彼はあの頃と変わらぬ笑顔で鋭角に曲がったバナナを持って現れた。
「会いたくなっちゃった。」
「テレ東…」
この昼ドラ、配役どうしよう?
個人的に思い出す度に恥ずかしくなってしまう話を一つ。
その昔とある講習会に参加した時のこと。
ペアワークでお隣になった初対面の方との雑談の中で私が「ストレスが溜まると本屋さんで小説や実用書を買うせいで読むのが追い付かない」という話をすると相手の方が、
「私も本読むの好きなんですよ。朝井リョウさんの作品が好きで。」とおっしゃいました。それに対して私、
「そうなんですね。『凍える牙』とかいいですよね。」って言ったんです。
帰宅したタイミングで気付いたんですけど、
『凍える牙』書いたの乃南アサさんでした。
〈あさ〉繋がりにしたって表記違うし!
なんか赤っ恥どころか色んな人に失礼千万というか何というか…
そしてこの後書きを書きながらようやく読了したのは朝井リョウさんの『生殖記』。
そんな眇が書いてます。
それを念頭に置いてこの作品も読み返していただければクオリティの低さにも納得のはずです。




