「変わらない朝と、ちょっと特別な気配」
日常のちょっとした話です
「……ふわぁ。昨夜、資料見すぎたかなぁ」
眠たい目をこすりながら、少し体を伸ばしていると──
「アグニス様。朝食の準備が整いました」
落ち着いた声が、扉を優しくたたく音と共に響いた。ロルフの声だ。
そのまま、足音も静かに離れていく。
代わって、そっとエリーナが開かれた扉から入ってきて、慎重に朝食を卓に並べていく。
朝食を卓に並べ終えると、エリーナはぱっとこちらを振り向いて、にこっと笑った。
「アグニス様、朝だよ! ほらほら、元気だしてっ!」
元気なのは君の方だよ。
しっぽをぶんぶんさせながら私の腕に抱きついてくる。その勢いに、思わず笑みがこぼれた。
「おはよう、姫君たち。まぶしい朝に、まぶしい姫たち……おっと、ロルフが無言の圧を放っている。退散、退散!」
レオンが扉の外から声をかけてきた。
「レオン、騒がしい。……紅茶、持ってきた」
エリザがレオンを押しのけて、四人分の湯呑みを手に入ってくる。
いつもの飄々とした笑み。だいたい彼女は“どこかで見てた”か“たまたま通りかかっている”──
そんな様子に苦笑しながら、ふと視線を窓の方へ向ける。
空の端に翼竜の影が見えた。ヴィクトリアも、そろそろ訪ねてくる頃合いかもしれない。
変わらない、いつもの朝。
騒がしくて、あたたかい。
穏やかで、ゆっくりと流れる日常だ。