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一章第6節『幕間:火の輪の外側に立つもの』

ヴェルディア軍の諜報に入れば、いつかこんな日が来てしまう。──わたしは、どこかで期待していたのかもしれない。


本部からの呼び出しで、今日、直接辞令を受けた。ノルヴィックにある砦近辺での異常を先行調査せよとのこと。

この件は、十中八九、特異体質を持つアグニス小隊が派遣されるはずだ。

あの小隊には、ヴィクトリアがいる。

辞令を受け、思案していると──ふと、昔のことを思い出した。

ノルスティア山脈の深い森には、北方から流れ、住み着いたエルフの集落が複数ある。


帝国はほとんどが人族で構成されているがその地域は多民族にはある程度は寛容な歴史を持つ。


全世界の種族が集まるという、あの水神祭に由来があるからなのかもしれない。


それに因んで少数ではあるが、魔族以外の多種族が、各地に点在しており、そこはそんな集落の一つだった。

寛容と言えば聞こえは良い。

──だが現実には、差別も区別も、確かに存在している。


ここの人族は、他の種族に対しては遠慮こそすれ、嫌悪をあからさまにするような態度は、あまりとらない。

しかし、エルフがハーフエルフに向ける感情は違う。それは、他種族への偏見よりも、もっと深い、ドス黒い恨みのような色を持つ視線。

純血を汚されたというプライド、同族嫌悪。いや、彼らにとってわたしは、同族ですらない。忌むべき存在、語り継がれる“忌子”の類なのだろう。

ふと何処からか、無邪気な子どもの声が、耳に入ってくる


──「半端者は村から出ていけー!」

気になって声のする方に向かってみると


小さな火の輪が、地面に描かれていた。その中心に、エルフが一人、立たされている。薄い金髪。尖った耳。彼も、どこか私に似ていた。きっと同じなのだろう。

の子どもたちがその中心に注目しているが、彼らの目には子供の無邪気な眼差しはなかった。


「おまえの耳、片方だけ変なんだよ」「どこから来たんだよ、森のくずれもの!」


わたしは、それに声をかけなかった。その子がこちらを見ないように、ゆっくりと視線を外し気がつくと、わたしも外側”に立って見つめていた。

誰かから助けられたところで、それが解決策になるわけではない。


わたしの場合は──視察に通りかかった、ノルスティア当主と娘である彼女のおかげで、一時的には、被害を避けることができたように見えただけだった。


だがそれは、恵まれ、愛され、何不自由なく過ごしてきた者からの、持たざる者への“施し”にすぎなかった。


純血以外を嫌う同族からは忌子扱いされ、人からは、哀れみをもって抱かれた。まるで、愛玩動物のように。


……実際は、同情や本人たちの優しさから来ていたのかもしれない。けれど、わたしの中には、半分エルフの──あの、腐った高飛車な血が流れている。

理解していても、納得できない腐ったプライドが体に染み付いているのだ。

もはや、これは“業”と呼ばれるものなのだろう。•

今のわたしには、何もない。

すがるとすれば──たとえ、どのような道を選んだ者たちであっても、偏見なく、ただ同一の“何か”を目指せる場所がほしかったのだ。


……あるいは、それを“ほしい”と思わされていたのかもしれない。

気づけば、その名前も、姿も、もう思い出せない。けれど、あの日の夢だけは、ずっと焼きついている。

灰のような風が心の隙間に吹いていた。

誰のものとも知れぬ声が、囁いた気がする。

「あなたは、間違っていない」


目が覚めたとき、わたしは、涙を流していた。理由は──今も、わからないまま


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