一章第3節 幕間 北へ、陽だまりを求めて
ふわふわと空中を舞う氷の結晶。
風に揺られながら、ゆっくりと目的地に向かって移動していた。
フロストウッドを離れて数ヶ月。
今回の旅は、いつもとは違っていた。
予定していた土地には降りられず、西と東の狭間にある大きな島へと、わたしは流れ着いた。
その地は──エデリア教國。
国土の半分を砂漠に覆われ、灼熱の太陽にさらされる世界。
けれど、わたしが降り立った場所はさらに異質だった。
湿った風、淀んだ空気、元素の流れがどこか狂っている。
ここは、「断罪の地」と呼ばれているという。
教義に従い、他種族を排除する。
命を、存在を、あたかも選別するかのように。
砂漠という厳しい地にありながら、彼らは豊かさを享受しながら、互いを傷つけ合っていた。
──理解できなかった。
フロストウッドは、極寒の地だ。
生き物は少ない。
けれど、生き残るために、種を越え、種族を越え、互いに余計な干渉をしない。
それぞれが静かに、あるがままに存在していた。
人が信じる神とは、これほどまでに傲慢な存在なのか。
理も、秩序も、ここでは歪められ、血に塗れていた。
この世界にあるものすべての在りようは、ただ、そこにあるだけだというのに──
わたしたち、精霊たちにとっては、時間とはただの通過点にすぎない。
何千年を生きても、感傷など起きはしない。
けれど──あのときから、わたしはすこしだけ、世界に目を向けるようになってしまった。
漂う雲が、ゆっくりと北へと流れていく。
それを見ながら、わたしはそっと進路を定めた。
……きっと、まだ間に合うだろう。
蜃気楼のように、わたしの存在は風に溶け、結晶となって空へと昇っていった。
──世界は、冷たさだけでできているわけではなかった。
断罪の地で見たものは、あまりにも醜く、あまりにも哀しかった。
けれど、それでも。
どこかに、まだ温もりを手放さずにいる場所が、この世界にはあるはずだ。
わたしは、それを確かめたくなった。
冷たい空気に身を溶かしながら、
北へ、北へと風に乗る。
まだ見ぬ陽だまりを、そっと探すように。
──そしてたどり着く。
雪解けを思わせる、柔らかな湯けむりと、灯りに包まれた街へ。
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《第四節・陽だまりの宿》
──揺れる湯けむり、煌火の街にて
温もりの中に交差する、異なる理たちの出会い。
静けさと賑わい、孤独と絆。
新たな律動が、ここからまた紡がれはじめる──。




