プロローグ──創世の調べ】
本作は、序章にあたる“詩篇”から物語が始まります。
世界の律に触れるように、静かに読み進めていただければ幸いです。
ひとつの星が、生まれた。
沈黙の宇宙に、ぽつりと灯る。
それは名を持たぬまま、
ただ、鼓動を待っていた。
そして──律が、降りた。
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光が旅を紡ぎ、
闇が嘆きを覆い、
炎が心を焦がし、
氷が理を鎮める。
風が空を渡り、
大地が命を抱き、
雷が空を裂いた。
七つの律、七体の龍。
ミラ、アーシャ、インフェリア、セレス、フィオラ、ライア、雷花。
それぞれの名が、星の深奥に、静かに刻まれる。
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だが、
それでも、足りなかった。
消えゆく記憶。
語られぬ物語。
そのために、仮面の王が生まれた。
──ケンテフ。
「記憶が演じるのなら、
私はその舞台で仮面をかぶる。
ただ、それだけの存在だよ」
彼は問わず、語らず、ただ演じる。
忘れられた真実を、仮面の下に映しながら。
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それでも、星は不安定だった。
律は揺れ、理は軋む。
ならば、誰がそれを繋ぐのか。
最後にひとり、調停の精霊が現れる。
──エララ・フロストウッド。
記憶を抱いたまま転生を繰り返し、
氷の指先で世界を繋ぐ、唯一の存在。
「静かに、そして優しく……
この森の時も、人の時も、凍らせてはならない」
だが限界を越えれば、彼女は変わる。
永遠なる秩序。
「乱れがあるなら、
凍てついた律で正すまで。
余剰は、消去対象」
やさしき氷は、やがて
無慈悲なる終律へと姿を変える。
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七つの律。
ひとつの仮面。
ひとりの調停。
そしていま、
星の底で、
ひとつの火が、そっと灯る。
まだ名もなく、形もない。
けれど、確かにそこにある、熱。
それは問いかけ、
それは照らすだろう。
これは、“在る”ことの物語。
言葉よりも前に、
ただ、静かに、はじまりを待っていた調べ。