プロローグ─始まりの調べ
本作は、序章にあたる“詩篇”から物語が始まります。
世界の律に触れるように、静かに読み進めていただければ幸いです。
世界が、まだ“物語”を知らなかった頃。
そこには声も、記憶もなく、ただ沈黙だけが広がっていた。
ひとつの星が、生まれた。
無音の宇宙に、ぽつりと灯る光。
名もなく、形もなく。
ただ、鼓動を待つように、静かに、息づいていた。
──そして、律が降りた。
光は旅を紡ぎ、星に初めての色を与えた。
闇は嘆きを覆い、沈黙に微かな響きをもたらした。
炎は心を焦がし、氷は理を鎮めた。
風が空を渡り、大地が命を抱き、雷が空を裂いた。
星は、七つの律を抱き、ひとつの命を孕んだ。
だが、世界はまだ、完全ではなかった。
記されぬ物語。
語られぬ記憶。
それでも、星はめぐり、たゆたう。
揺らぎ、たわみ、重なり合いながら──
そして、ある日。
目に見えぬ想いが、星の中心に、ひとしずくの火を灯した。
それは、まだ形も声も持たぬ光だった。
けれど、確かに──世界の底から、問いかけた。
「もし、この律を越える者が現れたなら──」
それは、星の意志に逆らう存在か。
それとも、新たな命のはじまりか。
いずれにせよ、星はまた、旋律を変えるだろう。
これは、“在る”ことの物語。
言葉よりも先に届いた、始まりの調べ。
──そして、少女が目を開けた。
その瞳には、星の光が宿り、
初めての世界を、見つめていた。
その瞬間、七つの律が微かに揺らぎ、
宇宙が、小さく震えた。